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Like a river flows.

僕がデザインを始めるきっかけになったデザイナーの先輩でもある友人と久々に会った。若い頃に同じようなカルチャーを通過して育ったので、今の彼が何を見ているのか、聴いているのか非常に気になる存在だ。デザイン以上に音楽や映画の話の方が長くなってしまうのはいつもの事なのだけど、サニーデイサービスの再結成に全く興味がなかったけれども新作はズドンと心に響いたという話題で盛り上がった。面白いことに僕が18歳の頃に音楽のミニコミを始めるきっかけとなった友達も全く同じ趣旨の発言を同時期にSNSでしていた。どうやらこのアルバムはしばらく離れていたファンを振り向かせる力があるようだ。


サニーデイ・サービスの新作「Dance To You」にはベテランの重厚さがなく風通しの良いアルバムだ。若いフレッシュな感覚に溢れている。若いというのは正確ではないかもしれない。リーダー曽我部恵一の本来リスナー体質である部分がかなり前面に出た軽やかな作品なのだ。この事は音楽メディアMikikiのインタビューでこう語られている。 「感動とか別にどうでもいいじゃんって。なんでそんなものを求めてんのと思うよ。例えば映画を観てもさ、そこにある深淵な意味や感動より、新しさやドキドキしておもしろかったことのほうが大事だったりするし、音楽もそうなんじゃないかなと。だから俺は〈感動を伝えたくてこの曲を書いたんです〉なんて言うのはちょっと甘っちょろいなと思う。むしろ、しっかり踊れる音楽を作るほうが、音楽家としてあるべき姿勢なんじゃないかなと、はたと気付いたんです」


先のデザイナーの友達とはシン・ゴジラの話もした。僕はまだ映画を見る前だったから深くは語れなかったのだけど、大きなメッセージよりもまずはエンターテインメントとしての面白さありきで、そっちのほうにこそ寧ろ作り手の価値観が見えるよねと共感しあった。テーマを掘り下げていくロック的なアプローチではなく、色々なものから影響を受けつつそれを昇華しまとめあげていくポップス的なアプローチというものが映画にもまたあるように思う。


鴨長明の方丈記の「ゆく河の流れは絶えずして しかももとの水にあらず」という一節が好きだ。「転石苔を生ぜず」だと苔を付けることが良いことなのか悪いことなのかの意見が分かれるけれども、鴨長明はもっと達観している。川はいつでも人々から同じ川として認識されているけれども、流れている水自体は常に新しいものである。いつまでも同じ水を溜めていないところに川のアイデンティティはあるわけだ。Like a rolling stoneがロックなあり方とすればLike a river flowは実にポップス的なあり方だなと思う。美空ひばりじゃないけれど…。


※この文章はル・プチメックのWebサイトに連載した「片隅の音楽」をアーカイブしたものです。初出:2016年9月



サニーデイ・サービス「DANCE TO YOU」(ROSE RECORDS/2016)

1994年CDデビュー。2008年再結成後3枚目となるアルバムであり通算10枚目。初期にははっぴいえんどとネオアコ、80’sUKポップの橋渡し的サウンドで日本語ポップスの新しい形を提示した。再結成後はコンスタントにアルバムをリリースしていたが今作はバンド史上もっとも長い制作期間を費やしダンスミュージックに傾倒した意欲作。

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