見出し画像

「影のない子供たち」

その都市の中心から少し離れた場所にある、忘れ去られたような公園。かつては多くの家族や子供たちで賑わっていたが、今では古びた遊具が寂しげに錆びつき、木々は荒れ果て、遊ぶ人はほとんどいない。近隣住民の間で囁かれているその公園には、一つの奇妙な噂が流れていた。

「夜になると、影のない子供たちが現れる」


噂の始まり

この都市伝説がいつから語られ始めたのか、はっきりしたことは誰も知らない。だが、話をたどると30年ほど前の事件が発端だという。ある晩、数人の子供たちが公園で遊んでいたのだが、日が沈むと彼らの姿はぱったりと消えたという。翌朝になっても、彼らは戻らなかった。必死の捜索が行われたが、子供たちの行方はわからないまま。彼らは永遠に見つからなかった。

その後、夜になると、公園を訪れた者が影のない子供たちを目撃するようになったという噂が広まった。

「彼らはあの事件で消えた子供たちだ」という者もいれば、「過去に消えた無数の子供たちが夜の闇の中に溶け込んでいる」という者もいる。共通して語られるのは、夜になると、影を持たない子供たちが公園に集まり、楽しそうに遊んでいる姿だ。

影のない子供たち

影のない子供たちに出会うためには、特定の時間に公園を訪れる必要がある。それはちょうど日没直後、最後の光が公園を包み込む頃だという。都市伝説によれば、その時間帯に公園にいると、遠くからかすかに子供たちの笑い声やかけっこする足音が聞こえてくるらしい。だが、よく目を凝らしてもその姿は見えない。音だけがひっそりと公園中に響いているのだ。

しばらくすると、視界の端に小さな影が現れることがある。影のないはずの子供たちのぼんやりとした姿だ。彼らは公園の古い遊具や草むらの中を走り回っているが、奇妙なことに、足元には影がない。普通ならば日が沈む前の柔らかな夕日が彼らの足元に影を落とすはずだが、彼らにはその影がないのだ。

目撃者の話では、彼らはまるで幽霊のように静かに、しかし確かに実在しているかのように遊んでいるという。顔も表情も、かつて公園で遊んでいた普通の子供たちと変わりないが、どこか空虚で、不気味な雰囲気が漂っている。

子供たちとの接触

噂によると、もしも影のない子供たちと目が合ってしまったなら、すぐにその場を離れなければならない。なぜなら、彼らと遊び始めてしまった者は、自らの影を失い、朝になっても家に帰ることができなくなるというからだ。

実際に影を失った人の話は、都市伝説の中で語られる一部に過ぎないが、特に地元の中高生たちはその噂を恐れ、夜になると公園に近づかなくなった。

ある若者の証言では、友人たちと一緒に肝試しに行った際、公園で影のない子供たちに遭遇したという。友人たちは笑いながら近づいていき、その子供たちに話しかけようとした。しかし、彼らは何の反応も示さず、ただ笑って遊び続けていた。不気味に思ったその若者は、何も言わずにその場を離れたが、翌朝、彼の友人は行方不明になった。

その友人が最後に目撃された場所は、例の公園だったという。

影を失った者の運命

「影を失った者はどうなるのか?」

その疑問に対する答えも、噂として語られている。影を失った者は、やがて自分自身が存在している感覚を失っていくのだという。朝になっても家に帰ることができなくなるというのは、ただ物理的な意味ではない。彼らは次第に現実から隔離され、自分の周りの世界と疎外されていく。親しい人々ですら彼らの存在に気づかなくなり、やがて完全に忘れ去られるのだ。

彼らは肉体的にはその場所にいるかもしれないが、誰からも認識されなくなり、最終的には「影のない子供たち」の一員として公園に取り込まれる運命をたどるのだという。

このようにして、影のない子供たちは数を増やし続けていると噂されている。

教訓と恐怖

この都市伝説には、教訓めいた一面が隠されているとも言われている。「夜遅くまで遊んではいけない」「見知らぬ者には近づいてはならない」という、子供たちに対する警告のように解釈する者も多い。特に公園に関連する恐怖は、親たちの間で「子供を守るため」の語りとして広まっている。

だが、それだけではない。多くの若者たちは、この噂に怖いもの見たさで近づき、実際に何かが起きてしまった場合には、彼ら自身がその伝説をさらに強める役割を果たしてしまう。恐怖と好奇心の入り混じった感情が、都市伝説を生み出し、維持しているのだ。

現代における影響

近年、この都市伝説はインターネットを通じてさらに拡散し、多くの都市部に住む人々がこの噂を知るようになった。特に夜の公園で何か異変を感じたという体験談がSNSでシェアされ、その真偽が問われることもしばしばである。ある者は、影のない子供たちが写り込んだとされる写真を投稿し、他の者はその場所を訪れた動画を公開したりもしているが、どれも決定的な証拠にはなっていない。

それでも、「影のない子供たち」の噂は消えることなく、人々の心の中で生き続けている。夜の闇に紛れ、どこかで笑い声を響かせながら、彼らは遊び続けているかもしれない。そして、今日もまた誰かがその公園に足を踏み入れ、彼らの世界に引き込まれていくのかもしれない。


影のない子供たちの存在は、都市の中に潜む「知らないこと」への恐怖を象徴している。それは単なる子供の遊び場であったはずの場所が、時間と共に不気味で不確かなものに変貌していく過程を描いており、現代社会における不安感や孤独感を暗示しているのかもしれない。

都市伝説は、私たちの心の中に潜む「見えないもの」への恐怖を映し出す鏡であり、影のない子供たちもまた、その恐怖の一部として語り継がれていくのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?