映画『ジョーンズタウン集団自殺/偽りの死の楽園』感想

このタイトルを見ただけで気分が重くなるのですが、重くなってしまうほど感情を動かされてしまったということなので仕方ない、感想を書きます。

「なんでアマプラにいるのかわからない」はほんとそう。なぜならこれドキュメンタリーだから。

900人が集団自殺した事件のドキュメンタリー。時代は1978年、どういうことかわかりますね?普通に死体の映像と死の間際の音声が出ます
まあ、死体といっても遠景ではあるんだけども。景色いっぱいに倒れた人々の姿は悪い意味で圧巻。

人民寺院の事件ついては、今年ナショジオが取り上げていたので知った。私はカルト宗教やら怪死の類が好きなので興味を持つ。
900人の集団自殺、カルト宗教。あー宗教の仲間で村を作って自給自足するやつね、はいはいはい。濃いやつらだけが集まって思想がどんどん先鋭化していって、結束力を強めるために定期的に離反者をリンチにかけるタイプのやつね理解。にしても900人は多すぎ。事件への感想はこんな感じ。

このぐらいの認識でいたところ、当該ポストを発見したのでアマプラから消えないうちに映画に挑む。そういえばwikiとかちゃんと読んでいなかったがまあいいか(鑑賞後に読んだが上記の認識とそんなに差異はなかった)

映画を見る。昔の荒いカラーがより恐怖をあおりつつ、程よくモザイクになって安心する。村を覆いつくす死体を検分する人。アメリカ人なのにマスクをしているあたり匂いの強さが推しはかられる。そして登場する教祖の息子。……えっ息子!?生きてんの!!??めっちゃ失礼だけどこういうので息子が生きているパターンあるんだ。

映画のあらすじ。全米を震撼させた人民寺院の事件。教祖の男が自殺を教唆したと伝えられるが、実際に凶行を主導したは教団の幹部であり彼の愛人であった3人の女だったのではないか。
映画は関係者が当時を回想した独白と当時の映像を時系列順に並べて構成される。当時を語る関係者は、事件の研究者、教祖の息子、姉と妹が教団の幹部になってしまった女性、教団の元信者が数名。
辛い事件にも拘らず感情的にならずに淡々と語る。当時自分が体験したことや、身内への印象、事件にかかわった身内は何を考えていたのかという推察。失礼だが、教祖の息子がとてもまともで驚く。父が教祖で母がその活動を支えていたら歪まないか。

インディアナ州時代
ここで終わっておけば良かったらしい。社会主義と人種融和。黒人差別の激しかった時代に黒人を養子に迎えた第一号だったらしい教祖。社会的弱者からの評判はうなぎのぼり。
しかしながら女遊びが激しく、息子は父と久しぶりのドライブだと喜んでいたら父の愛人の家に帯同させられただけだったというエピソードが語られる。すでにこの宗教ダメでは?この愛人は上記の姉妹が教団の幹部になってしまった人の姉である。画面を通してどうしようもない人間関係を俯瞰する。

サンフランシスコ時代
宗教の力を見せつけるために霊感商法などに手を出す。さらに、信者で気に入った女を愛人にして権力を持たせた。ダメなカルト宗教フルコースかよ…
このあたりで教祖のヤク中ぶりが酷くなるらしく、世間から隔離するため理想郷を作るという名目でアメリカを脱出し南アメリカのガイアナへ。
このあたりから、志と実情の乖離が酷くなっていく。皆で支えあう平和な世界を求める志の高さは感じるのだが、熱に浮かされたままのような。素晴らしい世界を作りたいのと、素晴らしい世界を作った人になりたいのは別の願望だろうなあ。

ガイアナ時代
教団からの離反者からの告発や、ガイアナへ行った信者の家族が帰ってこないという不安から教団は孤立を深める。
そんな中、教団の運営する村は世間とは隔絶され、通信機器もなく、唯一の情報源はヤク中教祖による放送のみ。これもう詰みだろ。脱走をさせないためスピーカーから村中にジャングルの恐ろしさが語られる。「蛇の毒であなたのからだは腐る」「ワニに生きたまま食われてからだをバラバラにされる」(うろ覚え)というような内容の放送が毎日毎日毎日。これ、映像だったんだけど音声だけ吹き替えとかじゃなくて全部リアルのやつ?なんで残ってんの?さらに村は2/3が老人と子供で圧倒的に労働力が不足している。じわじわと追い詰められていくような感じ。
時を経るごとに教団の立場は悪くなっていく。女幹部たちは終わりを予感しているのか、どう教団を終わらせるのかを視野に入れていく。そうして彼女たちは、教団の教義を世間に知らしめるために壮大な心中をすることを決意する。そのために村全体で何度も服毒自殺の予行演習をしていたというのだから。集団の狂気の恐ろしさ。
11月18日。市議による視察が入る。信者のうち2家族が村を脱出し市議と共にアメリカに帰ることを望む。その市議たちは信者によって銃殺された。もう後戻りはできない。(ここの銃声はさすがに後付けの演出だろうか…怖かった)教祖による集団自殺の教唆が始まる。バケツに毒入りのジュースをふるまい、まず親が子供にそれを飲ませる。飲ませた親は生きてはいけないので自分も呑む。そしてなんとこの時、録音してるんですね~~~~~Wikipediaで聴けちゃうんですね~~~~よかった~~~!英語がわからなくて!!(好奇心に負けて精神がボロボロになる未来が見える)。
ここで教祖の息子による、集団心理の恐ろしさを説かれる。「毒を入れたバケツは1つだけだったから、誰かが蹴とばせば助かったのに」(彼はこの日、バスケをするため村を離れていたので助かったそう)
また、姉妹が幹部の女性は、この計画の実行は自分の姉妹たちが首謀していたのではと語る。教祖はもう正常な判断力が残っておらず、計画を思いついたとしても毒物の手配は不可能だったのではと。

ラスト
夥しい死体は大量の棺桶に納棺され土葬される。数が多い無縁仏たちは広大な土地にブルドーザーで埋められた。この映像を背景に最終的な死者の数が出る。918名、うち300名が18歳以下の子ども。
映像を見る前と後で数字の重さが全く違うことに気づく。正直、思うところがあるものの、興味深くみていたのだが、最後のこの数字を見た途端に一気に心にかかる重力が増す。
これは自殺だろうか、殺人だろうか。殺人だとしたら誰が罪人だろうか。教祖か、毒を手配した女か、移住するほどのめりこんだ家族か。教祖と幹部が悪いことは間違いないんだけど、バケツを蹴り飛ばせなかった件といい、圧倒的な狂気にくらくらする。
女幹部の手記で「これは世界に対する私たちの抵抗だ」みたいなことが書いてあった。自殺をするほど私は苦しんだんですよ、分かってるか世界、みたいな皆考える主張なんですがこんなに刺さらないのも珍しい。余計に虚無感を増幅させる。900人を巻き込むな。

他、入れそびれた感想
教祖の息子:この人なんでまともなん?不思議すぎて調べたけどよくわからん。普通(ではないが)に19まで共同生活を送らされてたっぽいのに。良くも悪くも他の子どもと同じように扱われたから父親と距離がおけて冷静になったのかな?でもバスケから帰ってきたら一緒に住んでた人皆自殺してるとかそれだけで狂うが…死体の鑑定にも付き合わされたらしいし…身内がこんな事件を起こしているのに顔出しで出れるのがすごい。もうそう生きるしかないのかな。幸せになってほしい。
姉妹が幹部になってしまった女性:姉がカルトに傾倒して妹も連れ込んで体を使って幹部に上り詰めた結果900人巻き込んで自殺って。どうしたらいいの。あなたも良く語ってくれましたね。こんなこと話したくないでしょうに。

映画について
wikiやらウェブ記事には教祖のことしか書いてないけど、彼の周りの女に着目した新しい切り口の視点。私は事前知識なくこれを見たけど事前知識がある人(事件に対するイメージがしっかりしている人?)がこれをみたらどう思うのだろうか。定説と異なることがあったので。
映画以外では教祖は銃で自殺と記載されていたが、唯一映画では自殺できなかったため幹部の女性が銃殺したとの情報が特に。
また、周りの女性に主に焦点を当てたため、教団の実際のくらしなどの描写はなかった。映画に出演した元信者は11月18日を生き延びたっぽいが、その日のことを語ることはなかったのでwikiにあるような自殺を拒否する人を殺した話とかはなかった。この辺聞きたかったけどアメリカではさんざん擦られてるのかもね。

ガイアナへ移住してからの足元が崩れていく感覚がすさまじい。逃れられない終末。教団としての終末は逃れらずとも人生の終末からは逃れられたのにという虚無感がすごい作品。