今、僧侶が問い・僧侶を問う時

ー日本僧侶の社会活動についてー
―仏教は元来救済から始まっているー

私は四半世紀前の阪神淡路大震災後、SVA(シャンティ国際ボランティア会)という日本有数の国際NGO団体職員でありました。こちらは曹洞宗とつながりのある団体です。

私は当時SVA創立者であり専務理事であった有馬実成 師に大変お世話になりました。有馬師は山口の寺院住職。大変聡明・活動的で、仏教界隈のみならず、日本NGO黎明期のリーダーと呼ばれていた方です。

職員時代、有馬師より、仏教福祉・社会活動に力を注いだ僧侶の話をたくさん聞きました。そのうち2人のお話をさせていただきます。

仏教の社会活動として「祈り」の共有があります。これに関し先日ニコニコ動画にて疫病退散の祈りの動画を上げた奈良東大寺は、元々聖武天皇から、天然痘撲滅に際する祈りの意味を込め建立されたものです。

その建立に大きく寄与されたのが「行基」です。行基は建立に力を注ぐことで、結果的に大きな社会事業として、陸路船路を整備し、各地に物流拠点を作ることで都市を築き、多くの雇用と事業を生み出したとされています。

また「叡尊」という方の話もよく聞きました。この方は奈良にて東大寺と共に栄え、平安時代に一旦寂れてしまっていた西大寺(大茶盛式で有名)を、鎌倉時代に仏教の教えを基にした救済活動の拠点として復興し繁栄させた方です。

叡尊は「興法利生」を宗教活動のスローガンとしていました。それは
〇「興法」すなわち興隆仏法の営みとして、釈尊根本の戒律の教えを復興する運動の推進。
〇「利生」すなわち利益衆生の活動として、貧困、病気、障害や、そのほか社会から疎外されたあらゆる人びとの具体的な救済。

仏法は「戒律」があるからこそ仏法となります。そして戒律を授かっているのが僧侶です。本来、戒に沿った生き方・行事の延長がすでに社会活動につながるのが仏の教えです。

教えに沿った、僧侶の活動は必ずしも実践活動することだけでなく、慈悲喜捨の教えなどから外れた差別やネガティブさに向かう状態を諭すための啓蒙や、個々人が仏性を持つための助けをするために働きかけることも活動だと言えます。その果てが仏教の誓願である世界平和に向かうのです。

ですので僧侶は祈り・供養の行事や僧侶個人の技量披露が、仏法でなくただ自己顕示や人集め、権威付け、儲けになっていないか常に検証しながら行わなければいけないと私自身は認識しています。

この行基・叡尊という2人から見ても、日本仏教は福祉や社会活動と密接に関係しています。既存仏教の開祖は全て救済から始まっています。それは仏法の教えの基礎だからです。

今、日本のみならず世界全体が新型コロナウイルスによりダメージを受けております。救済としての仏教の力をどう社会に活かしていくか。個々の僧侶が問い続け実践し始める時なのではないでしょうか。四半世紀前のオウム事件時における既存仏教沈黙の二の舞にならないように。

日本僧侶の一員として「今、僧侶が問い・僧侶を問う時」です。善き未来に向かうため。私はこれからも今を生きる僧侶としてできることを問い続けていきます。また一般の方は今の僧侶の悪いところを含め是非問い表明して下さい。それが僧侶の浄化作用となり、資質を上げる力となるはずです。

2020.5.5
曹洞宗僧侶 藤井隆英 拝

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