元ゲーム理論専攻の自分がGTOを説明してみる(Part3)
導入
前回から大分時間が空いてしまいましたが、仕事がちょっと忙しかっただけでまだまだ書く気は衰えていません。
前回は、リバーのAKQゲームについて説明しましたが、今回はそのマルチストリート版です。実戦ではフロップ、ターン、リバーと3つのストリートがあるわけなので、ストリートが増えると何が起きるのかを考察していきます。
モデル1 ターンとリバーのAKQゲーム
まずは、ベット機会がターン・リバーと2回になったらどうなるかを見ていきます。
①前提
・OOPはKのみを持ち、IPは40%でA、60%でQを持っている。
(50%,50%でない理由はのちほど)
・ハンドの強さは、A>K>Q
(ボードも役もなく、一枚のカードの強さで決まる。)
・ベット機会は、ターンとリバー一回ずつ。
・スタックは4P、ポットはP。ベットサイズはポットベットのみ。
(ポットベット2回でオールイン。)
②結論
【ターン】
AQ側:Aの全てとレンジ全体の50%のQ(Qのうちの5/6)をベット
K側:二回に一回コール(レンジのうち50%)
【リバー】
AQ側:Aの全てとターン時点でのレンジ全体の20%のQ(リバーに残っているQのうちの2/5)をベット
K側:二回に一回コール(ターン時点でのレンジのうち25%)
図解してみましたが、結構複雑にw
といっても理屈はそれほど複雑でないので、次の章を見てもらってそれからまたこの図に戻ると理解進むと思います。
③結論に至る考え方と解釈
・リバーのAQ側の戦略
まずリバーのAKQゲームの復習ですが、ポットベットの時はバリューとブラフを2:1で打ちますので40%のAと20%のQの合計60%をベットします。
・ターンのAQ側の戦略
ターンもポットベットなのでバリューとブラフを2:1で打つわけですが、ここでのバリューとは何でしょう?ここが一番難しい理屈なのですが、リバーのベット頻度の60%がここでのバリューになるわけなので、バリュー60%(A:40%,Q:20%)に対してその半分の30%でブラフを打ちます。
バリューはAなんじゃないの?なんで、Qの20%もバリューになってるの?と思うのが自然だと思いますが、それはターンでのK側の視点から見ると分かるのです。
・ターンでのK側の視点
(素朴なKさんの考え)
ポットベットされているから33%の勝率があればコールできる。AQ側は、A40%とQ50%でベットしてきている訳だから50/90(>33%)で勝てるんでコール!
(賢いKさんの考え)
確かに瞬間の勝率は50/90かもしれないが、コールしたあとリバーで起きる事もちゃんと考えよう。AQ側は、90%のうち60%を継続してベットして30%を諦める。この60%の継続のベット時にはEVが0※になるので、実質ポットが取れるのは相手がリバーで諦めた時だけでその頻度は30/90(=33%)しかない。
※K側はベットされた時のEVが0になる事は前回記事参照
・まとめ
賢いKさんの考え分かりましたか?K側の戦略としてはコールしてもフォールドしてもEVは0で、GTO的には50%の頻度でディフェンスするというのはリバーの時と変わりません。(AQ側の戦略は複雑だが、K側はストリートが増えようがMDFでディフェンスすればよい)
また、EVについて考えると、リバーしかない場合はポットの60%(=リバーでのベット頻度)をAQ側が得ている事になりますが、ターンまで含めると90%(=ターンでのベット頻度)をAQ側が得ています。ストリートが増える事はポラ―側にものすごく得なんです。ポラ―側は、本来40%しか持っていないバリューに20%のブラフを混ぜる事で、バリューの価値を1.5倍にできている訳ですが、この1.5倍にする効果がストリートが2つなら2回かかるので、バリューの価値が1.5*1.5=2.25倍になるのです。
これがAとQの比率を50%50%にしなかった理由で、Aが50%ならターンのベット頻度が100%を超えてしまいます。と言う事は、K側は勝率は50%なのにEVは0と大分悲しい事になってしまいます。
④学べる事
・ポラ―側(AQ)は、2回ベットできる事を活かして、ターンはたくさんブラフを打つ事ができる。
(ポットベットなら、バリューの1.25倍)
・コンデンス側(K)としては、(ポラ―vsコンデンスの場合)ストリート増えてもMDFでコールすればよい。
・ストリートが増える事は、ポラ―側にめちゃ有利。
最後の観点ですが、実戦でマージナルなハンドでターンで打たれた時、まあまあ勝ってそうだけどリバーも打たれる事考えると苦しい、、、ってシチュエーション結構ありませんか?ここまでの説明でその理由も分かってもらえるとうれしいです。
モデル2 フロップ・ターン・リバーのAKQゲーム
次はフロップまで考えてみましょう。と言いたいところですが、ストリートが3つに増えた時も起こる事は同じなのです。
そこで、いくつかの本では紹介されている、フロップ・ターン・リバーのバリューブラフ比を紹介する事にします。
フロップはバリューの約2.4倍、ターンは1.25倍のブラフが打てます。
よくフロップはバリュー:ブラフが1:2、ターンは1:1というものを見かけますが、完全にポラ―なら実際にはもっと打てるという事ですね。
バリュー:ブラフが2:1な事から、レンジ全体がストリート遡るごとに1.5倍になっています。
フロップでは、打てるレンジがバリューの3.38倍なので、バリューが30%あれば全レンジで打てる事になります。CBは高い頻度で打つ場合も多いですが、その理由もここから少し説明できますね。(実戦はこんなポラ―対コンデンスになってないので、そこはもっと説明が必要)
最後に、ポットサイズについて説明して終わりにします。ベットサイズ(ポットに対する比率)はどのストリートも同じにするのがAQ側としては最もEVが高くなります。ターンもリバーもポットベット、ターンもリバーもハーフベット、という事です。実戦的にはフロップでポラ―vsコンデンスになる事は少ないのでターンでのSPRとそれに応じたベットサイズを見ていきましょう。
こちらの図のサイズで、ターン・リバーとベットするときれいに同じサイズでオールインまで行けるというものです。
(ありそうで意外と見たことないかも)
※SPR:stack to pot ratioの略。有効スタックが500でポットサイズが100なら5
(余談1)
SPRに応じたベット比率については、あんまり文献見当たらずで自分で計算してみたのですが、ルートとか出てきて実戦じゃ全く計算できないですねw
ちなみに計算した結果はこれ→((1+2*SPR)^0.5-1)/2
(余談2)
「ベットサイズ(ポットに対する比率)はどのストリートも同じ」について、厳密な証明は割愛しますが、Pioで計算したものを見てみましょう。
計算の前提
・いずれもフロップからで、ポットは100、SPRは13(ポットベット3回でオールイン)
・AQ側は、Aを20%、Qを80%(EVの理論値は、67.5)
パターン1(全ストリートポットベット)
IPのEVはほぼ理論値通りですね。
パターン2(フロップ、ターンはハーフ、リバーでオールイン)
EVが理論値より大分低いですね。思ったより低くて実験してみて驚きです。ベットサイズは結構重要だという事ですね。
次回予告
次回はリバーのレンジが複雑なバージョンをやります。
ドロー完成したボードなど、実戦でもポラ―対コンデンスになる事はまあまあありますが、より実践的な分析をしたいと思います。
AKQゲームは若干数学チックでしたが、これからようやくポーカーっぽい分析になってきますw ので乞うご期待。
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