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(1) M5StickC Plusとペルチェ素子で恒温水槽を作る - 概要

経緯

学習指導要領では、中学校理科の中3生物分野で発生を学習することになっています。うちの学校で使用している教科書にはカエルの発生の過程が載っています。ただ、実際にカエルの発生を観察することはありません。せいぜい動画で確認するくらいです。(もし実践されている学校があったらごめんなさい)。高校生物では、ウニを発生の確認によく使います。

5年前、現在の勤務校に赴任することが決まったとき、立地が海に近いということで、発生において、カエルよりウニを題材にするのは地域柄必要なことだと思いました(カエルも紹介はします)。また、以前から、発生のようす(卵割)を標本や映像ではなく、生きている状態の実物で生徒に確認させたいと思っていましたが、そもそも産卵期のウニを入手するにはどうすればよいのかが分かりませんでした。

そこで、本腰を上げてウニの発生を教材として活用できないか検討した結果、お茶の水大学湾岸生物教育センター(現 お茶の水大学湾岸生物教育研究所)が、日本財団の支援を受けて「教室に海を」プロジェクトによるウニの海洋教材の提供を行っていることを見つけました(当時)。
申込書や報告書を書くことが必要ではありますが、発生の実験用にウニの卵や精子を送ってくれます。

現在は、適用範囲を学校から一般に広げたこともあり「海と日本PROJECT」に事業名を変えてはいますが、毎年利用させてもらっています。

さて、このウニの海洋資材の提供、卵と精子だけではありません。
発生後のウニの幼生を育て、生徒一人ひとりが稚ウニにまで育てることができます。その飼育容器も提供してもらえるのです。そして、この過程は技術・家庭科技術分野、生物育成領域に相当します。
また、ウニの幼生は分類としては動物プランクトンです。ウニの幼生を育てるには植物プランクトンである浮遊珪藻(キートセラス)を食べさせます。これは、理科の生物のつながりで履修する食物連鎖に当たります。そして、餌になる珪藻を育てるための機材一式も貸していただけます。

つまり、ウニの発生と栽培という1つの題材を教材とすることで、

・中学校3年 理科「発生」「食物連鎖」
・中学校技術・家庭科 技術分野「生物育成の技術」

の3つを履修することが可能なのです。

学習指導要領の中学校技術・家庭科の技術分野、生物育成領域の「内容の取り扱い」には、

「取り上げる原理や法則に関しては,関係する教科との連携を図ること」

中学校学習指導要領(平成29年告示)

という文言があったりします。

そのものズバリ、です。

そして、お茶水大学湾岸生物教育研究所では、申込書と報告書という少しの手間で、すべて無償提供していただけるのです。
このことにたどり着いて5年。

中学校3年理科で、「食物連鎖」「発生」を履修し、その後、技術・家庭科技術分野、生物育成領域「水産生物の栽培」として、1人ひとりがウニを育てるということを、毎年実践させていただいています。
なんだったら、「発生」は生命誕生の瞬間、ですから生命倫理(道徳)でもあります。

本題

さて、ここからが本題なのですが、稚ウニにまで育った後も育成は続けられます。ウニ育成の適温は冬季12〜17度、夏季20〜28度のようです。

また、宮城大学片山研究室、石巻市産業部水産課の資料では16~20℃との記載があります。

https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10453000/rikujyouyoushoku/unimanyuaru.pdf

特に、30℃以上の高水温がよくないようです。次の資料からだと、海中の(常在)細菌の増殖との合わせ技で24℃から全滅するようです。

聞いた話だと、お茶の水大学湾岸生物教育研究所のある、房総半島の海は、冬場でも15℃を下回ることはありませんし、夏場も同様で30℃を超えることもないそうです。実際、湾岸生物教育研究所に毎年研修に行かせてもらっていますが、敷地の外で天然海水かけ流しの状態で育っているウニの水槽があります。

海水の動的な入れ替えのない水槽では冬場は到底そんな温度で育成できない(特に夜間)ためヒーターで温度を一定に保つ必要があります。また、夏場も同様で水槽用のクーラーで冷やす必要があります。海水温が30℃を超えだすと全滅の危険が生じます。

ヒーターは数千円で購入できますが、問題はクーラーです、冷媒を用いたものでは数万円します。ペルチェ式でも最安で1万強です。

そこで、ペルチェ素子を使用した水槽用エアコンを自作しました。
(まぁ、エアーはコンディショニングしないんですけどね)
ペルチェ素子は、電気を流すと素子表面の熱の移動ができる素子で、電流の向きを変えることでヒーターにもクーラーにもなります。

完成品

今回は試行錯誤の末、既に完成しています。

写真が完成品です。電源はPC電源ユニットを利用。
M5SticKC Plusでプローブ型DS18B20温度センサから水温を取得し、設定温度から離れている場合には水槽からポンプで吸い上げた海水をペルチェ素子で温めたり冷やしたりして水槽に戻して温度調整をします。ペルチェ素子の制御には、モータードライバを使用しています。モータードライバでは、電流の向きを変更することができます。通常、これをモーターの正転・逆転をコントロールすることに使用しますが、ペルチェ素子では、電流の向きで温めたり冷やしたりする面が変わります。つまり、冬は温めるために利用し、夏は冷やすために利用するのです。海水の流路には紫外線殺菌ランプを封入した水道管を間に噛ませて海水の殺菌をして藻類や余分なバクテリアを抑えます。ついでに、M5SticKC Plusから、Googleスプレッドシートに書き込んで温度変化と動作状況を記録するようにしてあります。

1/19から稼働を開始し、既に1ヶ月間、安定して20℃近辺をキープしています。(設定温度をもうちょっと下げてもいいかも)
※(2024/2/25追記) 18℃に下げました

ちなみに、これで、

・中学校3年 理科「発生」「食物連鎖」
・中学校技術・家庭科 技術分野「生物育成の技術」

の他に、

・中学校技術・家庭科 技術分野
 「材料と加工(金属の接合/はんだづけ)」
 「エネルギー変換の技術(電気回路・ペルチェ素子)」
 「情報の技術(プログラムによる計測・制御)」

も内容的にはカバーしていることになります。
ただ、ちょっと生徒が自力で実現するのは難しいので紹介に留めるレベルではあると思います。

次回から細かい製作メモを掲載します。


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