羽の生えた靴

私には4歳になる娘がいる。
そんな彼女は大絶賛可愛いものコレクターと化している。
「やれ、レインボーだ。」
「やれ、ユニコーンだ。」
「やれ、キラキラだ。」
リップ(今の子は口紅とは言わない)を塗っては鏡と睨めっこをして充実した毎日を過ごしている。

そんな娘と幼稚園に履いていくための靴を買いに行くことになった。
Nのつくブランドの履きやすそうなスニーカーを選んで欲しい母心とは裏腹に娘はプリンセスモチーフのものやら、キラキラのついた靴などを選びなかなか財布の紐を緩めない私。
そうしてる間に、とうとう
「この前ユニコーンの靴を買った店へ行きたい」
と言い出した。
それは有名なSから始まる光る靴など様々な子どもたちの心を魅了する靴を生産している「あの」ブランドである。
あそこに行けばきっと必ず気に入った靴が見つかるだろうと意気揚々と店内へ入店。
そしてとうとう出会ってしまった靴。
「これにする!」
と指をさした先には、なんと立派なプラスチックの羽の生えた靴が鎮座していた。
レインボーでキラキラでそして「羽」が生えた靴は娘の心をすぐに鷲掴みにしてしまった。
しかしこの靴、困ったことにハイカットの上に紐ぐつである。
まだ4歳の娘には早すぎる。
そして何より幼稚園には履いていくには難しそうな靴である。
どうにか説得して他のものに変えてならなくてはならないのだが、
彼女の心は定まっているようだ。
あまりの彼女の意思の揺るがなさに焦りを覚えた私はそこら中にあるレインボーやユニコーンの靴を勧めてみるがやはり羽には勝てない。
普段はそこまで駄々をこねない娘ではあるし、我ながら言うのはおかしいが、物分かりは良い方である。
そこで、わざと店員さんに「この子の足のサイズはありますか?」と尋ねると
店員さんは「こちらの靴は今は18センチ(娘の足のサイズより遥かに大きいサイズ)しかありません。」と模範的な答えを言ってくれた。
というわけで、しっかりとその答えを聞いただろう娘はきっと納得してくれるだろうと思っていた私は、「ほらみたことか」と娘に目を向けると、すると娘は目に涙をいっぱい浮かべて私に向かって頭から攻撃を仕掛けてきた(私は娘のことを過信しすぎていたことに気付かされる)。
これには店員さんも苦笑いである。
娘の攻撃に腹を立てた私は心では怒りながらも恐らく引き攣っていただろう笑顔で(マスクがあって本当に良かった)「また回ってきます」といって店を後にした。
娘は歩きながら
「どうして羽の生えた靴を買ってくれないの?」とずっと私に聞いてくる。
私は「店員さんも言っていた通りあなたのサイズはなかったでしょ?もしサイズがあるなら私だって買ってあげていたんだけどな。(買わんけど)」と何度も話すが、なかなかわかってくれない。
とうとう大きな声で
「羽が生えた靴が欲が生えた靴が欲しかった!」
と言い出したので、私は早歩きで少し離れて歩いてみたりした。しかしそんなの逆効果である。(なんでわかってたのにやったの?私)
羽の靴コールをされている状況でモールの中をしばらく歩き回り、クールダウンした私たちは最終的に疲れてしまい一番初めに見ていたプリンセスモチーフの運動靴を購入することになった。
そのプリンセスモチーフの運動靴を履いて現在娘は機嫌良く幼稚園に通っている。

という何の変哲もない子育て世帯にはあるあるのような話だが、そういう時にいつも私は自分の未熟さに気付かされる。今回も初めっから娘の希望を聞いておけば良かったのに、自分の思いが先行してしまい決められなかったことが原因でこの様な事態になってしまった。
そういう時、後で冷静になって考えると「靴を履いていくのは娘なのだからちゃんと幼稚園に履いていける靴であれば、娘に決めさせれば良いだけの話やん」と客観的に自分自身を見ている自分がいる。
それと同時に、自分の好みもあって、それが欲しいと言えるようになった子どもの成長に気付かされる。
子育ては決して簡単なものではないが、そういうやりとりの中で一番成長させられているのは自分自身であるということに気付かされ、反省し、感謝の心が生まれる時が多々ある。
世の中に私の様な失敗している人がどれだけいるかはわからないが、私はこうやって「自分のライフステージはレベルアップしていくんだ。」と日々自分に言い聞かせながらこれからも子育てに悪戦苦闘しながら楽しんでいきたいと思っている。

しかしながら「今度からは靴は私が勝手に買ってこよう!」と言うのが未熟な私の現在の本音である。(私の修行はまだまだこれからも続く…)


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