振動発電について調べてみた

1.振動発電とは

 振動による圧力を、圧電素子(あつでんそし)によって電力に変換して発電する方法の総称。
 振動は、他の環境エネルギー源(風や日光)に比べて数十倍のエネルギーを潜在的に有しているとされる。得られるエネルギー量自体は微小だが、振動は自動車、鉄道、機械、人などが動くたびに必ず発生するため、気象・天候にも左右されない。このため、エネルギーハーベスト(身近なエネルギーを「刈り取る」ことでエコを達成しようという発想)の一角となることが期待されている。
 20年近く前に検討されはじめた頃にはほとんど夢物語だったが、竹中工務店が制振装置の応用で振動増幅器をつくることに成功し、発電量が約45倍に跳ね上がった。また、2018年に開発されたクラッド鋼板は出力を数倍に引き上げることを可能にした。これらを象徴とする技術開発によって、現状ではまだまだ研究段階だが一定の実用化もされているロマンある発電方法である。

※圧電素子(ピエゾ素子)

 加えられた力を、電圧に変換もしくは電圧を力に変換する圧電効果を持った物質のこと。石英の結晶や人工セラミックスなどがこれにあたる。この効果の利用はかなり身近にあり、センサーによく用いられている。たとえば自動車のエアバッグ発動はこれにより、「太鼓の達人」といったゲームもこの効果で振動を検出している。トラメガはこの効果で電力を振動に変換して大きな音を出している。実は生物の腱などにもあり(具体的にはコラーゲンにあるとされる)、生物学上の力センサーになっていたりもする。

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我らが全学自治会同学会も圧電素子にお世話になっています。

2.振動発電の具体例

*発電床

 圧電素子を敷き詰めた板状の振動発電装置を通路に組み込み、その上を歩くことで発電する。LEDを組み込んで、停電時や災害時に役立つ歩くと光る床などが実用化されている。JR東日本が協力して、東京駅の改札前の床に組み込んで発電力と耐久性を調べる実験が行われていたりもした。
 発展バージョンとして、道路に組み込んで車の振動で発電する方式も検討されている。2007年に首都高速五色桜大橋を通過する自動車の振動によりイルミネーションの電力の一部を発電する実験が行われたりもしている。

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*音力発電

 音ももちろん振動なので、この応用で発電ができる。しかも振動を電力に変えるので消音効果付き。工場や飛行機の騒音などを電力に変え、騒音も減らすことができるとされている。現状では実用化なし。

*リモコン

 ボタンを押す振動を電力に変換することで機能する。電池いらずのこのリモコンは実用化されていて、たとえばTOTOが発売するトイレ用リモコンはこの仕組みで電池なしで動いているものがある。

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*バッテリー

 振ることで充電できる蓄電池はすでに発売されている。充電速度が遅すぎる問題があるものの、持ち運んでいるだけで充電し、特に災害時に重宝するものとして期待されている。

*傘

 傘に圧電素子の膜を組み込み、雨が当たる振動を電力に変換し、LEDを点灯させる。夜間の安全確保につながる。

*靴

 靴に圧電素子を組み込んで発電する。足元を光らせることくらいは可能で、傘と同じく夜間の安全確保になる。18年に関西大が発明した方法により発電量が約100倍になり、歩くことで簡単な情報送信くらいはできるようになることが見込まれている。

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*地震

 制振装置のメカニズムは、地震の振動を摩擦熱に変えて空気中に放出することで振動を抑えるもの。地震を電力に変えることは発想上はありえるが、発生を予測できないこと、エネルギーの規模が大きすぎて電力に変えてもほとんど蓄電できないこと、などカミナリのエネルギーを貯めれたら・・・くらいの夢物語なのが現状。


3.現状の発電能力

 現在、日本で標準となっている発電床(商品名「発電床Ⓡ」=30cm×30cm)は、

人の足踏み作業等により約2mW程度の電力を発電します。一歩踏むことにより、以下の動作が可能となります。
・100 ~ 200 個の高輝度LED を瞬間的に発   光させる。
・無線(比較的データ量の少ないもの)を瞬間的に送信する。
・(単一電子音等の)簡単な音を瞬間的に発生させる。

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※お値段11,000円

 となっている。ノートパソコンの消費電力は20~30Wとされており、出力が数千倍にならないと、歩くエネルギーでスマホやパソコンを充電する、といったことはまったくの夢物語。現在、2021年2月段階で2cm×3cmの大きさで1mWの発電能力を越えたとのことだが・・・。

4.まとめ

 現状ではいよいよ実用化へ向けて踏み出すに至った段階であり、効率が悪く、電力事業そのものとしてはやっていけない。利潤がでないため、開発は遅々として進んでいないといえる。
 イギリスのスタートアップ企業であるPavegenは、発電床によって歩行データを収集、Googleなどと連携してビッグデータの利用によるビジネスを考えている。究極のエコ発電ともいえる振動発電だが、さらなる消費喚起のための技術として使われれば本末転倒である。

 利潤を生むことを前提としてしか実用化が図られない資本主義では、画期的な発電方法も矛盾的にしか運用できない。技術とその利用から支配階級の影響を排除するためには、資本主義システムの変更を視野に入れることが必要である。


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