ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー夢想という名の世界構築ー

人はすべからく現実というフォーマットの夢の中で生きているものよ。
彼女はそれだけを告げ終わるとグラスを手にして微笑んだ。
ロンググラスの中でミントが揺蕩う様子はまるで今の彼女が手に入れた理想の環境を表すかのごとく煌めいている。
それは現世で構築された彼女の理想的原風景なのだろう。
そしてその具現化を成し得たという事実は彼女の世界における現実の意義が塗り変わったという事だ。
今話した持論もその確認の為の行為に過ぎないのだ。
自らが組み上げた夢の中を漂う彼女はまるで現世の水槽から飛び出した人魚のように思えた。


「ねぇマジェスタ…私ってダメな子かな?」
「ふむ、私の見解による所感で答えればいいのか?」質問に疑問系で返したマジェスタに対して彼女はあからさまな不機嫌を表した。
極星帝国皇室専用の私室である優雅なこの空間に似つかわしく無い不穏な空気が流れる。
本来なら国賓クラス待遇でもてなすべき人物に対して不躾な今の言葉は外交問題になってもおかしくないものだ。
いくら奔放に生きているマジェスタとはいえ自らの皇女としての立場を弁えていないはずは無い。
それはお互いの暗黙の了解だ。
それならば何故自分の言葉が無下に振り払われたのか?まるで解せない。
彼女はチェックメイトが済んだ筈のこの場を見回して違和感を探していた。
外堀は埋めてあるし根回し済みの側近は全て私の手駒。皇女殿下の異能すら今は私の管理下にある。
私が反撃される要因は何一つ無い。
彼女は自分が握っている絶対的優位性を確認して会話を再開する。
「マジェスタ…いえレムリアース•ベアリス第三皇女殿下。貴女の権限において領内の統治権の一部を委譲していただきたい。これはお互いの為でもあります。これ以上重責を背負っては貴女自身が潰れてしまうのですよ?」
お気持ち程度のオブラートに包んだ降伏勧告を改めて突きつけた彼女は「賢い選択」が当然のごとく返ってくる事を確信して言葉を切った。
勝負はもう決しているのだ…何を考える事も無い。そうでしょう?
彼女は沈黙を守り続けるマジェスタを見て側近にアイコンタクトを飛ばす。そう、降伏受諾の儀式の準備を始めるようにだ。
しかし返ってきたのは明らかな拒絶のサイン。
明らかな不自然に戸惑った彼女は違和感の出どころに気づいた。
マジェスタの纏う威圧感が異質なものに変化しているッ…?
彼女が目にしたマジェスタのアメジスト色の相貌が彼女の得た現世最後の情報となった。

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