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両眼視って何? ~思うように体が動くためのビジョントレーニング~基礎知識

はじめに

「一生懸命練習しているのに、スポーツが上手にならない……。」
「いくらストレッチをしても体が柔らかくならない」
「コンディショニングトレーニングをがんばっているのに、トレーニングは上手になったのに、試合でがちがちになってしまう」というあなた。

もしかすると、それはあなたの眼の使い方に原因があるかもしれません。
とくに、こんな症状がある人は要注意です。
肩が凝ったりしていませんか? 本を読んでいると、すぐに疲れたりしませんか? いくら集中して本を読んでも、内容があたまにはいらなくて困っていませんか? パソコンを見ていると、頭痛がすることはありませんか?
もし、こんな悩みがあるなら、あなたは眼の使い方、特に「両眼を仲良く使う」ことがうまくできていないです。

眼の使い方、といえば最近はビジョントレーニングが有名です。
例えば、こんなトレーニング方法を聞いたことはありませんか?
「遠くを見たり近くを見たりして水晶体の調整機能を鍛えましょう!」
「眼を左右に素早く動かし、眼球筋を鍛えましょう!」

実は、これらのトレーニングは、目の筋肉を鍛えることはできますが、あなたの悩みのもとである「眼の機能」については、十分に改善できない場合が多いのです。
あなたに必要なのは、「眼を上手に動かすこと」ではなく、「左右の眼をなかよく働かせること」かもしれません。

二つの眼の使い方 ①「両眼視」「片眼視」

人間に限らず、哺乳動物には二つの眼があります。その二つの眼の使い方は、肉食動物と草食動物によって違います。
学校の理科の教科書で見たことはありませんか?

草食動物(左) 肉食動物(右)
両眼で見る範囲(立体視屋)と、片目だけで見れる範囲(視野)が違う

二つの眼を持つ生き物には、
①両眼がうまく作用することで立体的に見える範囲=「両眼視」
と、
②片目だけで見ることで広く周囲を見ることができる範囲「片眼視」
があります。

両眼視の特徴は、なんといっても「立体的に見える」ことです。
距離がわかります。そして、分析して詳しい情報が手に入ります。

だから、文字を読むときには、両眼視の機能を使うことになります。
実は、片目だけで文字を読んでもあまり頭の中に記憶されません。
勉強は、両眼を使うほうが効果的です。

二つの眼の使い方 ②「周辺視」「中心視」

それでは、体の横の方を片目だけで見る意味はないのでしょうか?
確かに、片目だけで見ていると、立体的に見ることができず、正確な情報をとることができません。脳で正確な情報を処理できないのです。
しかし、だからこそ大きな意味があります。
体の横側を片目だけで見る情報に対しては、体の反応が早いのです。

自分の体の正面にとらえていない謎の情報。
野生の動物にとっては、多くの場合「不意に訪れる危険」なものである可能性が高い情報です。
「あの右後ろの草が揺れたけれど、なぜだろう?風の動きだろうか?いや、ほかの草は揺れていないから、風ではない。動いている草の範囲から、私の体より大きい何かが接近している可能性がある……。」
などと分析する必要はありません。
「何かいる!?」
と危険を察知して移動する方が合理的ですよね。
だから、体の中心から外れた情報に対しては、脳は無意識に高速の反応をします。
この高速反応できる目の使い方を、「周辺視」といいます。
その反応は2種類。
「立ち向かう」か、「逃げる」か。
だから、危険に対して反応する必要がある草食動物は、片目で周辺を広く見ることができるような目の構造をしているのです。
このシンプルで素早い反応は、現代社会ではスポーツにに向いています。
じっと注目しないことで、よい結果が出せる目の使い方です。

でも、「周辺視」は「片目」で「体の横」の時に役立つのなら、体の正面では使えないの?という疑問が生まれます。

実は、「周辺視」の効果は、周辺ではなく体の正面でも発揮できます。
「周辺視」で大切なことは、「周辺で見る」ことではなく、「両目を使って注目しないこと」です。
武術では、宮本武蔵が「見ずとも観る」=「観の眼」として伝えたり、剣道では「遠山の目付」として伝える目の使い方で、よく「ぼんやり見る感じ」と説明されます。

しかし、この表現は正確ではありません。
「ぼんやり見る感じ」と「周辺視」という言葉で説明をすると、次のような誤解が生まれます。

▲「ああ、周辺視って、何かに注目した時によく見えないぼんやりしている場所のことか。」
例えば、こんな風に一眼レフカメラで撮影した時の、周りのぼんやりした部分をイメージしませんか?

中央に注目した時、周りはぼやける。これが周辺視? 違います

このぼやけた部分が「周辺視」ではありません。
周辺視は、「どこにも焦点を合わせていないときの映像」です。
両眼で中心の一点に注目した見方は、「中心視」といいます。

見る=緊張の仕組み。目の構造に学ぶ。

眼の構造を見てください。

眼の構造 中央の水晶体が焦点距離を調整する

近くを見るか、遠くを見るかは、水晶体という生体レンズの伸び縮みで決まります。
水晶体の調整は、毛様体という筋肉が行います。
そして、毛様体が一番リラックスしているとき、水晶体が一番薄くなります。つまり、水晶体の初期設定は、薄い状態=遠くが見える状態です。

ここは、説明が難しいのですが、大切なことだから少し説明します。
眼の構造をみると、「▲分厚い水晶体を毛様体という筋肉が引っ張って薄くする」=「遠くを見るときに力を使う」ように感じますが、間違いです。
眼は、「〇近くを見るときに力を使う」=緊張します。


遠くを見る=リラックス  近くを見る=緊張

眼は、初期設定では一番遠くを見るように設計されています。
そこから、力を入れることで、近くを見るようになります。
つまり、何かを見ようと調整を始めた瞬間に緊張が始まります。
「何も見ようとしない状態」=「眼の初期設定」=「眼の完全リラックス状態」が周辺視の本当の意味です。

中心で見る周辺視?

すると、視界の中央でも、「周辺視のような目の働き」ができるのではないでしょうか?
両眼で見ることによって、立体的な距離感をはかり、正確な情報を手に入れながら、しかも、緊張もなく素早く反応できる目の使い方があれば素敵ですよね。
それが、本当の意味での宮本武蔵の「観の眼」であり、剣道の「遠山の目付」として伝える目の使い方です。

https://twitter.com/ramunepod/status/1218400407497494528

うまく説明できないので、ゲームの画面を使って説明します。
眼で何かを追いかけるのではなく、何にも注目しないまま見ている画面の映像を、「脳を使って個別に判断してしまう」のです。

何かに注目しようとすると、「目で追いかけて一つのものを見る」ような目の使い方になります。こうすると、体の中で真っ先に目の筋肉を使います。
眼の筋肉を使うと、そのほか全身のすべての筋肉に「縮め!」=「緊張しろ!」という命令が入ります。
そうではなく、目はリラックスしたまま、筋肉は使わないままで、脳の方で映像を処理するのです。

え?そんなことをしたら、脳は疲れるんじゃないの?

という疑問が生まれますよね。その通りです。
普段から、こういう目の使い方をしていないと、脳はものすごく疲れます。
だから、脳は楽をしようとして、必死で部下である眼の方を動かすのです。

両眼が仲良く働く視野の中心は、どうしても脳の「お前が(目)が注目して、俺(脳)を楽にさせろ!」という指令に影響されます。

そういう意味では、「▲ボールを見ろ!」という指示は選手の動きを悪くします。
それよりも、「〇コート全体を見よう。相手選手とボールの動きが自然に見えるといいね」という指示のほうが効果的です。

まとめ

ここまでの情報をまとめます。

片眼視と両眼視。

両眼で見える部分は注目しやすく立体視できる。 片目の部分は注目しにくいが、反応は早い。

中心視と周辺視

中心視・緊張する。
周辺視・注目しない。すべてが見えている。でも、脳の性能が低いと分析できない。

中心視はほぼすべて両眼視ですが、両眼視は中心視ではありません。

中心視ではない両眼視=観の眼・遠山の目付です。

*片目をつぶって見たときに中心視のように注目する見方があるので、「片眼視の中心視」は存在します。注目したら中心視、です。

次回予告! 平行視と交差視

実は、目の使い方にはもう一つ名前があります。
「平行視」と「交差視」です。
これは、目がうまく使えない人の「斜視」(「斜位」)の改善にもかかわってきます。

お詫び
説明にあたって、図版をいくつか勝手にお借りしています。ごめんなさい。
メガネ・レンズの専門店 れんず屋
http://www.lensya.com/single/maker/special/prism/index.html

補聴器・眼鏡工房 よしの
http://sensyu-sano.net/kyouto/index.php/view/410

情報発信を通して、みんなが笑顔で毎日を過ごせるようにできたらと願っています。 体のケアや、メンタルヘルス、怪我の少ない動き方、などいつでも質問してください。 相手にあわせた情報発信、まず、あなたのために練習させてください。