PARCO Production(ももクロミュージカル)「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」@舞浜アンフィシアター
台「幕が上がる」は演劇作品としてほかの演劇作品と同じ土俵で比較しても評価に値する作品と言えたけれど、今回はミュージカルとして評価の対象とするのは難しいかもしれない。ただ、例えば中島みゆきの「夜会」のような演劇的な要素を取り入れたライブコンサートの新趣向としては可能性を感じる部分は多々あると感じた。
実はももクロの楽曲でジュークボックスミュージカルをやると聞いた時点で期待に冷水をかけることになりかねないので、その時点では書かなかったが、「ジュークボックスミュージカルというのはけっこうハードル高いのだが大丈夫だろうか」と感じていた。というのはその時に成功例として紹介したクイーン楽曲を用いたミュージカル「We Will Rock You」の物語の深みのなさと登場する世界の未来観に「なんだ、この薄っぺらさは?」と呆れ返ってしまった記憶があるからだ。
ただ、そういう感想を初見で持ちながらも「ウィ・ウィル・ロック・ユー(We Will Rock You)」は何度か観劇している。それはクイーンの楽曲の素晴らしさが、フレディ・マーキュリー亡き後、本家のライブに行ったとしても得るのが難しいようなパフォーマンスがそこでなされていたからだ。特にカーテンコールで全キャストにより歌われる「ボヘミアン・ラプソディー」はオペラ部分も全員の生歌唱、生演奏で上演されており、物語的に入れる場所がなかったのでここに入れたが本当はこの曲を生上演するためにこのミュージカルは企画されたのではないのだろうかと思ったほどだった。
私にとってのミュージカルはまずロンドンで体験した「レ・ミゼラブル」であり、音楽に乗せて演劇的物語の魅力を伝えるものというイメージが強い。それゆえ、日本のオリジナルミュージカルもオンシアター自由劇場の「上海バンスキング」、音楽座の「マドモワゼル・モーツァルト」、アトリエ・ダンカン「阿 OKUNI 国」と演劇的な色彩の強いものが好みだ。
今回脚本を担当していた鈴木聡(ラッパ屋)は「阿 OKUNI 国」の脚本を手がけていたことから期待をしていたのだが、鈴木は自分の持つ世界観を強固に作品化するタイプではなく、本広克行のオファーに職人的に答えており、それゆえ例えば平田オリザによる「幕が上がる」のように作家性の強いものとはならず*1、今回の「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」は残念ながらそういう期待に応えるようなものではなかった。
ただ、ももクロファンに今後のももクロについて期待を高めてくれるコンテンツとしては魅力的なところもある。ひとつのキーワードはパラレルワールド、つまり平行世界だ。ももクロの歌の中ではこれまで輪廻転生を繰り返しながら高次の存在に上りつめていくような世界観が頻出してきていたけれど、今回はダンス部の4人の生徒(レニ、カナコ、シオリ、アヤカ)の交通事故による突然の死から物語は始まるけれど生まれ変わりは未来世に生まれ変わるのではなくて、この宇宙には無数の平行世界があって、死後は魂がその平行世界のどこかに転生するというのだ。
そして第一幕は転生を拒絶したカナコがかつての仲間を召還して回るという物語となっている。3人は前世の記憶はなくして、互いに出会うことなく別の人生を送っているが、実はそれぞれがまったく異世界というわけではなくて、同じ世界の同じ時代で暮らしている。3人はカナコのことも仲間のこともいっさい記憶にはないのだけれど、カナコが「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」の歌を歌いながら踊り始めるとなぜか振付を覚えていて、4人は一緒に踊りだすのだ。(2回目に続く)
simokitazawa.hatenablog.com
*1:「マドモワゼル・モーツァルト」「阿 OKUNI 国」にはそれぞれ漫画、小説の原作があった
りん (id:simokitazawa) 3年前
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