映像研~金森氏に見る基礎的プロジェクトマネジメント技法(1)
0.背景
「映像研には手を出すな!」が無事アニメ化され、それなりに好評の折り、みなさまお加減いかがでしょうか?(何)
「映像研には手を出すな!」というのは、女子高校生3人組が「映像研究会」を設立してガチのアニメ製作をするというマンガ原作の作品で、3人のキャラクターのコミカルなやりとりが楽しいのみならず、アニメ製作や創作のかなりエグった産みの苦しみや楽しさなどを描いてる作品です(わざわざこんなページまで探して見られる方は、元ネタを少なからず知っているとは想定しますが)。
とても楽しいです(見ろ)。
・TVアニメ『映像研には手を出すな!』公式サイト
http://eizouken-anime.com/
私は原作から見ており、アニメが湯浅監督で、狂喜乱舞してるファンで、アニメ製作のあれこれノウハウについては門外漢なので「へえー、そうなんだー」といろいろ教えてもらうことばかりなのですが、この作品で重要なのは「金森氏(かなもりさやか)」が、アニメ製作の絵を描くとか設定・ストーリーを考えるという核の部分ではなく、
「ディレクター/プロデューサー」
と呼ばれる、営業・調達・進捗管理・雑用等々の仕事をする役目を担っており、かつ、その役職の仕事をする人間としてきわめて優秀で、現実の仕事のプロジェクトマネジメントとして勉強になるポイントが多々ある点です。
私自身も、現実の仕事(IT系)でマネジメント的役割をすることがある(あった)ので、その辺のノウハウを映像研~金森氏のアクションをガイドに整理してみたくなり、本記事を書いたわけです。
1.マネジメントの仕事とは?
最初に、プロジェクトマネジメント(IT系)とは何かをざっくり解説しますと、何かの仕事でチームを組んで仕事をする場合に、
・何を仕事の目標としてやるべきか目的設定する(規格・要件定義)
・必要な人材環境資材を調達する(調達業務)
・仕事の進み具合を調整する(進捗管理)
etc...
などの仕事をします。
ひとことで言うと、
・担当者が仕事をやりやすい環境を整えて、納品物を完成させる
というのが基本的仕事となります。
2.マネジメントで得られる利益
余談ですが、マネジメントで得られる利益の解説をします。
……というのは、金森氏の仕事のすごさを測る指標として、いくらの金銭的利益が出るか? の数値で計測できると分かりやすいし、現実で、そもそもマネジメント業が疎んじられる(というか、そもそもマネジメント職の人がまともにマネジメントの仕事をしていない)ことに対して、いやそんなことはない、マネジメント業はきわめて需要な仕事で、実際莫大な利益を上げているのだ、と回答する基準になるからです。
しかし、その利益の算出基準が難しい。
たとえば、営業とか小売業だと、売れた商品の単価×個数で、どれくらいの利益が出たかが、だいたいわかります。売り上げがすべて利益になるわけではないので、売れた商品の金額の何パーセントとかいう換算になりますが。
あるいは、製造業でも、作り出した商品の数×個数で同様の利益が算出できる。
では、マネジメントの利益とは何でしょう?
私の考えでは、それは「人件費」と考えます。
基本的に、マネジメントすることによって、何が仕事上嬉しいかといえば、作業の無駄が減るとか、ミスが軽減するとか、就業環境が快適になるとかですが、これって要するに、
・各人の作業効率が上がる
ということです。そして「作業効率が上がる」とは何か(どう金銭換算できるか?)というと、同じ人件費で、よりたくさんのものを生産できるようになったり、より効率的に受注できるようになったりするわけです。
具体的にどれくらい効率良くなるかといえば、たとえばIT系のパソコン業務で、マルチディスプレイを使用すると、そうしないのに比べて1.4倍程度作業がはかどるようになる、という記事(論文)がありました。
・効率、生産性ってデュアルモニタで上がるのという話【論文・実体験】
https://pc-bto.net/dual-monitor-productivity/
つまり、40%効率が良くなる。
ただ、これはかなり破格な、珍しい観点で、実際のマネジメントによる効率化で、ここまでいきなり業務改善できるのは希少かと。実際には、5%とか10%とか、あるいはものすごく根本的な改善をして、20%ぐらいの効果が出たらよいくらいと、体感上思います。
で、じゃあ間を取って、マネジメントで10%の改善ができるとしましょう。それで、どれくらいの利益になるかを算出してみます。
たとえば、「映像研に手を出すな」のアニメ1~4話の、最初のアニメ製作で考えてみますと、1~4話では、組織の立ち上げから、予算獲得プレゼン用のショートアニメ制作を行ってます。組織立ち上げの部分は、どちらかというと経営者寄りの話でマネジメントとの関係が薄いので、主に3~4話のアニメ制作に限って、人件費を算出しますと、浅草氏、水崎氏2名によるプロジェクトで、2ヶ月でアニメ制作を行ってます。なので、
2×2=4人月
の人件費がかかっている。これが金森氏のマネジメントによって、10%経費削減という成果を生み出してると考えられるわけです。
ちなみに「人月」というのは、人件費を計算するときによく用いる単位で、標準的なスキルの人が1ヶ月かけて行える作業量を表します。アニメでは2人で2ヶ月で完成させてますが、1人でやってたら4ヶ月かかってた、ということです。
では、この1人月は、いったい何円換算になるのか? ですが、それは各業界の相場とか、当人のスキルレベルで大きく変わるのですが、たとえば、大卒新卒の給料と想定すると、
1人月=20万円
とかになったりします。(あくまで例です)
先ほど、アニメ制作に4人月かかったと書きましたから、アニメ制作の人件費は、
20万×4=80万円
となります。で、マネジメントによって10%効率化できているのであれば、
80万×0.1=8万円
の利益を出せた、となります。
どうでしょう? 意外と儲かると思いましたか? 全然大したことないと思いましたか?
まあ、実際のところ、このプロジェクトには金森氏も関わっているので、彼女の人件費20万も経費として計上しなくてはなりません。そうすると、8-20万=12万円の赤字ということになります。そんなに儲かってません。てか、赤字です。
基本的にマネジメントの利益には「規模の経済」というものが働きます。「規模の経済」とは何かというと、扱う対象が増えれば増えるほど利益が出しやすくなる、という理論です。たとえば自炊で食事を作る場合に、1人暮らしで1人分の食事を作ってるだけだと、外食やコンビニで済ませた方がずっと安く済むけど、家族がいて大勢に対して食事を作るとか、1人でも作り置きして1週間分まとめて作っておくとかすると、1回の食事に対するコストが減らせて、コンビニ弁当より1食事辺りの単価が安くできたりします。これを「規模の経済」というわけです。
マネジメントでも、たった2人にメンバーを管理しても大して利益が出ませんが(人数が少ない場合は、効率が良くないので管理職をわざわざ作らない)、100人のメンバーに対して同様のマネジメントを行えば、
20万×2ヶ月×100人=4,000万
4,000万円×0.1=400万
このように、400万もの利益を上げられるわけです。
たった2ヶ月で。
たった一人のマネジメント担当者を付けるだけで。
あるいは、上記の人件費は「新卒未経験の初心者想定」で計算していますが、映像研~の主人公たちは、あきらかに初心者ではないスーパーマンですよね。ちなみにIT系では、できる人とできない人の生産性格差は30倍と言われてます(真偽は知らん)。つまり、未経験初心者が1ヶ月かかってようやく作れるものを、プロのできる技術者であれば、1日で、ちょちょいのちょいで作れちゃうってことです。
……まあ、慣れてることだったら、実際それくらいでもできるかも。何か難しい問題があって、新人が2~3時間かかってどうしてもわからん! てのを15秒ググって即座に解決法発見! とか、実際の仕事で普通にやりますね。うむ(まあ、曲がりなりにもお代を頂いて仕事してますからね)。
というわけで、映像研の登場人物たちはフィクションのスーパーマンキャラですので、30倍ということにしましょうか。そうすると、
20万×30人倍×2ヶ月=1,200万
1,200万円×0.1=120万
とまあ、これくらいの利益が出るわけです。
それなりのものでしょう?
現実には、30倍の仕事をしても30倍の給与が出る訳じゃなく、せいぜい数倍程度かと思いますが、できる技術者ほど、企業に所属してると、ただそれだけで、スキルによる利益をザクザク搾取されることになります。なので別に30倍とは言わないが、ある程度加味した程度には、技術者の給料上げやがれ、給(削除
3.金森氏の仕事
ちなみに、金森氏のしている仕事はマネジメントだけでなく、他の仕事もしています。
1)経営者
組織立ち上げなど
2)営業
コンテンツを売る
3)広報・渉外
宣伝、外部との交渉
4)マネジメント
プロジェクトの管理。本記事の対象。
この時点で金森氏は、すでに4人分働いています。その上、それぞれの業種を普通以上のレベルでこなしています。彼女も他の2人に引けを取らない、かなりのスーパーマンと言って過言でないです。
以上で、今回の記事は終了で、以後は「映像研には手を出すな!」アニメ各回の進行に従って、金森氏の活躍および、マネジメントとして、どういう役割を果たしているか、順次説明していきたいと思います。
んじゃまノシ
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