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#2.こみっくがーるず

ロールキャベツ男子という言葉をご存じだろうか。
見た目は草食系だが中身は肉食系の男性のことを指す言葉らしい。そしてそのギャップにやられてしまう女性が多いとのことだ。

ちなみに今「ロールキャベツ男子」についてググっていたら代表例として向井理、瑛太が挙げられていたがあの記事を書いた人はどこで2人の内面を知ったのだろうか。

ともあれ、男女問わず人間はギャップには弱い。
今日は最近見たアニメの中で、観る前のイメージと観た後の感想に最もギャップがあったアニメについて紹介していきたいと思う。
「こみっくがーるず」というアニメだ。

あ、そうそう。本題に入る前にもう少しだけ。
前回「宇宙よりも遠い場所」の紹介をしたところ(このnoteが見にくくなるのでリンクは張りません!※偉い)、予想以上に色々な方から「観てみます!」と言ってもらって嬉しかった。そして驚いたのが一度全部観たことがある方から「観返してみます!」って言ってもらったことだ。
完全に、観たことない人に向けて書いた文章だったので意外だった。
なるほど、こういう感想を読んでアニメを観返すと、初見のときとは違ったところに目が行ったり、新しい発見をしてもらえるのかもしれない。こんなに嬉しいことはない。

ということで今回も、基本的には「こみっくがーるず」を観たことがない方に向けて書くが、観たことある方ももう一度観たくなるような文章になるように心がけるので、良かったら是非最後まで読んでいただきたい。

早速本題に入ろう。
こみっくがーるずは2018年の4月から6月にかけて放送されたアニメだ。
原作ははんざわかおり先生。
ココ、大事なので憶えておいてほしい。

さて、内容に関して一言でいうと、女子高生でありながら漫画家として活動している4人が、漫画家寮で共同生活をしながら、寮母さんや編集さんとのやりとりを通じて成長していく物語である。
ちなみにこの寮は水道橋にある。
余談だが、僕は高校生のときに水道橋の塾に通っていたからあの辺りには詳しいが、本当によく街が再現されている。興味がある方は一度聖地巡礼しても良いかもしれない。
リアルなので感動すると思う。
そして、恐らくというかほぼ確実に「芳文社」をモデルとしている。

話を戻そう。
冒頭でこのアニメにはギャップがあると書いた。
ではこの「こみっくがーるず」がどんなギャップを持っていたか。

僕はこのアニメを観る前まで、可愛い女子高生がキャッキャ言いながら、漫画を描いていくような、比較的「日常」ジャンルに近いアニメだと思っていた。
実際、観始めてからも3話ぐらいまではその印象は変わらなかった。だが4話から「あれ…?」となり、回を追うごとに女子高生漫画家たちの熱さに心奪わて、最終回の12話では声を出して号泣していたのだ。僕らのココロの柔らかい場所に150㎞のストレートをこれでもかと投げ込んでくる。

このアニメは日常ではなかった。

夢を叶えるために、色々な困難を乗り越えて努力する女子高生の話だった。
そして、「自分がやりたいこと」、「自分ができること」、「自分が求められていること」の重なり合う部分を少しでも広げようともがく、若い表現者の話だ。
あ、誤解のないように言っておくと僕は日常系のアニメは大好きである。事実、元々はそれを期待してこの作品を見始めたわけだしね。

続いて、主要な女子高生漫画家の4人を紹介する。4人はみんな漫画を描くのが大好きだが、どこか問題を抱えている。ちなみに全員1年生だ。

●萌田 薫子(ペンネーム:かおす)
主人公。ピンク髪。
4コマ漫画家だが、なかなか掲載が決まらず、編集さんに色々な案を持って行くが毎回ダメ出しばかり出されてボツ続き。
以前、一度掲載された漫画は読者アンケートで堂々のビリを取ってしまう。自信を無くしていたところ編集さんに勧められて入寮した。
ネガティブで友達が少ない。

●恋塚 小夢(ペンネーム:恋スル小夢)
少女漫画家。天真爛漫な性格で友達も多い。オレンジ髪。
女の子を描くのは上手いが、肝心の男子キャラを描くのが苦手。翼に恋心を持っている。
かおすと相部屋に暮らす。

●色川 琉姫(ペンネーム:爆乳♡姫子)
ティーンズラブ漫画家。紫髪。…ティーンズラブの意味については…まぁ分からない方はググってみて下さい。みんなのまとめ役。本人は可愛い動物とかが出てくるメルヘンでふわふわした漫画を描きたいと思っているが、編集さんに勧められて描いてみたティーンズラブ漫画で人気がでてしまい、本人の意志に反した漫画を描いている。

●勝木 翼(ペンネーム:ウィング・V)
少年漫画家。青髪。4人の中で最も漫画にストイックで、恐らく一番人気がある漫画家。
ボーイッシュな見た目に反して、実家はかなりのお金持ちで、家ではお嬢様を演じている。
母親は、家を継いでほしいと考えており、漫画家であることを良く思っていない。
琉姫と相部屋に暮らす。

この4人が様々なエピソードを通じて、夢を叶えるために必要なこと、目標を達成するために必要なことは何かを教えてくれる。

特に心を打たれた話を2つ紹介していこう。
まず一つ目は僕が最初に「あれ、これ、ただの日常モノじゃないかも」と思った4話である。

琉姫の出した単行本が人気になり、握手会を開くという話だ。
普通の漫画家だったら、人気が出て握手会を開くのは嬉しい出来事のようだが、彼女の場合は違う。
なぜなら、先ほど書いたが、自分の意志に反してティーンズラブ漫画を描いているからである。
本当はもっと可愛い漫画を描きたいのだ。

家族や学校の友達に、こんな漫画を描いているのがバレたらどうしよう。
ファンの人たちは、子どもがこんな漫画を描いているのを知ったら幻滅するだろうか。

色々な心配事が頭から離れず、代役を立てる・年齢を詐称するなど、どうにか自分が参加しないで済む方法を考える。
しかし、良い方法は見つからず、無情にも握手会の当日が来てしまう。

寮母さんに精一杯大人っぽく見えるメイクをしてもらい、恐る恐る握手会に参加する。

そこで、琉姫は心配が杞憂だったことに気付く。
自分の漫画の感想を涙ながらに語ったり、嬉しそうに握手するファンが大勢いたからだ。

そこで、自分が間違ってなかったことに気付くのである。本当に描きたい漫画ではなかったけど、描いてきて良かった、と。
握手会後の琉姫のセリフが本当に泣ける。

―――――
なんか、生まれてきて一番嬉しい日だった。
漫画、描いてよかった。
熱出て寝込んだ日も、実家のワンコ死んじゃった日も、泣きながらエッチな漫画を描いてて。
私、ずっと間違った道を歩んでるって思ってた。
なりたかった漫画家と全然違うって。
でも、なんか吹っ切れた。
私もう、自分の漫画を恥ずかしいと思わないことにする。
―――――

もうね、ここで号泣ですよ。
本当に声出して泣いてた。
作中ではギャグテイストに描かれてたが、15歳の女の子が、家族や友達に隠して描きたくないジャンルのエロ漫画を描くことは本人にとってはかなり苦しいことだろう。
「私、なんでエロ漫画を描くために徹夜してるんだろう?」「漫画を描くのは大好きなのに、なんでこんなコソコソ書かないといけないんだろう」そんな風に思ったことも、数えきれないほどあったはずだ。でも、間違ってなかった。

そもそも、最初から自分のやりたいことで結果を出せる人なんて人一握り。
残りは、やりたくないことをやっている。
けれど、その中にも2種類の人間があいる。
ずっと不平不満を言って現実を見ない人、そして「自分に求められていること」で結果を出してそれを「自分の好きなこと」に変えられる人。
そんな当たり前のことを琉姫に改めて教えてもらった。

あなたはもしかしたら、自分がやりたいことをやれていないかもしれない。けど、信じて進めば、誰かそれを好きになってくれる人もいるはず。たとえ、人に言えないような恥ずかしいことでも、何かトラブルがあってももうちょっと続けてみなよ。そしたら新しい景色が観えるかも知れないよ。
と琉姫に言われているような気分になった。

そして、もう一つ。8話である。
8話は主人公のかおすと、編集担当の編沢さん(かおすへ入寮を勧めた人)との関係性が描かれる話である。
この編集の編沢さん、ズバズバものをいうタイプでかおすの描いたネームにもばんばんボツを出すのだが、たまに見せる優しさが本当に魅力的なキャラなのだ。

8話は、かおすが自信のあるネームをボツにされて落ちところから始まる。
寮の仲間に励まされたときにかおすが泣きながら言う言葉に胸が痛む。

―――――
みんな(寮の友達)と出会って、楽しく漫画が描けるようになった気がして。
でも結果はずっと同じで。
誰にも、もう編沢さんにも必要にされてないんだと思うと…
私…これじゃ漫画家じゃなくて恥製造機。
いえ、私そのものが生き恥…
―――――

恥製造機の件は半分ギャグみたいになってるが、グッときた。「結果はずっと同じで」のところが辛い。

僕はコピーライターとして働いているし、フォロワーにもクリエイティブ関係の方が多いので共感する人もいるのではないかと思う。
確かにやっている間は楽しいし、良いものが作れたと思っている。でも結果はいつもと一緒。一ミリも前に進んでないし、もうずっとこの場所から成長できないのか?もう限界なの?と不安になるあの感じだ。

それに対して琉姫の「つらい時期ね。でも、描かなきゃ。書き続けたら絶対かおすちゃんの良さ、分かってくれる人が現れるから」という励ましも、4話をみているとより心に響く。

一方で、もちろん編沢さんももちろんかおすが嫌いなわけじゃない。寮母さん(編沢さんの高校の先輩でもある)にこんなことを言っている。
「私、本当はかおす先生のこともっと褒めてあげたいんです」「私は嘘が付けないんです…。今日もボロクソに言ってしまいました。」
編沢さん自身も高校生のときに漫画家を目指していたから、自分の重ね合わせて厳しくしているのかもしれない。

そして、ひょんなことから、大好きなアニメ鑑賞を我慢してネームを頑張るかおすをたまたま見た編沢さんはこんなことを思う。

―――――
毎回ボツくらう度に目にいっぱい涙を浮かべて、
死にそうなくらい震えて、それでも何日かしたらプルプルしながらまた次のネームを持ってくるんです。これはすごいことですよ。分かりますか?
アンケ、ビリで、応援してくれるファンも1人もいなくて、それでも次回作書こうと思えますか、普通。
かおす先生は本当は強い子なんです。
―――――

僕はこのシーンで4話以上に号泣してしまった。
アンケートがビリだろうが、ファンがいなかろうが見てくれる人は見てくれている。
かおすにとってはそれは編沢さんだ。
かおすと編沢さんの関係性に感動してしまった。

今回は2つの例を挙げたが、12話なども泣けるエピソードがたくさんある。
是非本編を観てほしい。

ちなみにこの作品、話によって脚本を担当しいている人が変わるオムニバス形式だ。今僕が紹介した4、8、12話はたまたま同じで、高橋ナツコさんが担当している。このようなタイプな作品では脚本の担当によって微妙に作風が変わるのも面白い。

さて、そろそろまとめだ。
恐らく、このアニメが伝えたいことはこれだ。

「いいから進めよ」

夢を追いかけるには辛いこともある。
上手くいかないこともある。けど前に進もう。
そうすると見えてくる世界があるから。

小夢が、翼を好きになって男キャラが書けるようになったように。
翼が、親に反対されても漫画家になる強い意志を持つようになったように。
琉姫が、描き続けることで自分の描く漫画を好きになれたように。
かおすが、周りの人に助けられながら成長していったように。

このメッセージはOPにも表現されている。
先頭を走る翼。そしてそれを追うように琉姫と小夢。最後に、ぜいぜい言いながら、周りの人に励ましてもらい何とかついていくかおす。
一緒に戦う仲間がいれば僕らは前に進める。

そして最後にこんな角度からも「こみっくがーるず」を掘り下げてみたいと思う。

かおすは、原作者のはんざわかおり先生じゃないか?

今回、「こみっくがーるず」を紹介するにあたって原作者のはんざわかおり先生のことを調べていたら面白いことが分かった。
かおすとの共通点が異様に多いのだ。

・15歳のときにデビュー
・福島出身
・寮生活経験あり
・4コマ漫画を描く

これだけ共通点があると、はんざわさんが自分の経験からこみっくがーるずを描いたのはほぼ間違いがないだろう。
そしてこみっくがーるずの連載が始まったのが2014年。はんざわさんが29歳になる年だ。
15歳で漫画家デビューしてからもうすぐ15年。
節目の年の前に、自分が漫画家としてデビューする前後の出来事を思い出して整理するためにこの作品を書いたのかもしれない。
そう考えると1つ謎が解ける。
さっきも言った通り、このアニメで伝えたいことは「いいから進めよ」だ。

しかし、OPの曲名は「Memories」。懐かしい記憶という意味だ。
前に進めというメッセージとは逆。
例えばこんな歌詞がある。
―――――
真っ白な未来 君と描いて
彩る世界 裸足で蹴って
この日々はいつだってそう
変わらない僕の大切なメモリーズ!
―――――
最初は不思議に思っていたが、はんざわ先生が寮生活をしている15歳の自分に向けてかけている言葉だと考えるとしっくりくる。

そして逆にEDの「涙はみせない」では未来へ後押しするような歌詞がある。
―――――
つかれた時は振り返らないで
想像して想像して次の一歩のこと
―――――
こちらは、当時のはんざわ先生の心境に近いだろう。前に進みたいという意志が見える。

ちなみにOPもEDも主要4キャラの声優さんが歌っている。赤尾ひかるさんの歌い出しの「真っ白な未来」が「まっすろなみらい」に聞こえるとSNSを中心に話題になったが、今回の話とは全く関係ない。

そして、ここから先は完全に僕の解釈というか妄想だが、編集の編沢さんは、漫画家になる夢を諦めていた場合のはんざわさんではないだろうか。
編沢さんも高校時代に同じように漫画を描いていたが、漫画家になる夢はあきらめて、漫画家をサポートする役に回っている。
そして、だからこそ、かおすに忌憚ない意見をぶつけることができるし、諦めずに頑張る姿にリスペクトを送っているのだろう。

「いいから夢に向かって進め。だけど、もしその夢が叶わなかったとしても、誰かの夢をサポートすることはできる。」
そんな温かいメッセージを編沢さんに込めたんじゃないだろうか。
そのような目線で8話を見ると2度泣ける。

夢を追いかける人、疲れた人、壁にぶつかった人はぜひ「こみっくがーるず」を観てみてください。
必ず、必ず、必ず、その夢を持ったときに熱い気持ち、そして周りの人への感謝を思い出すだろう。


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