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#1.宇宙よりも遠い場所

例えば、夏目漱石の「吾輩は猫である」
吾輩は猫である。名前はまだない。

例えば、川端康成の「雪国」
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

優れた作品には優れた冒頭があるものだ。

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淀んだ水が溜まっている。それが一気に流れていくのが好きだった。決壊し、解放され、走り出す。淀みの中で蓄えた力が爆発して、全てが動き出す……!
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アニメ「宇宙よりも遠い場所」の冒頭も名作を感じさせるものだった。
今日は僕がアニメにハマるきっかけになり、現時点で一番好きであるこの作品について書いていきたいと思う。めちゃめちゃ泣ける青春モノだ。

ちなみに「吾輩は猫である」と「雪国」は読んだことがない。【名作 小説 冒頭】でググった。逆にこの2つはオリラジの敦ちゃんがYouTubeで紹介してくれるのを待つとしよう。

本題に入る前に言っておく。このnoteを書く目的は、まだ「宇宙よりも遠い場所」を観たことない人に少しでも興味を持ってもらうことだ。
だから、もちろんネタバレもしないし、「あのシーンはここが伏線になっていて…」のような解説もない。まだ観たことない人も安心してほしい。

まぁ公式HPを観て分かる範囲や、結末にあまり関係ないから流石にここは言っていいっしょ、みたいなところは言及するかもしれないが、それでこの作品を見る楽しみが減少するということが無いように細心の注意を払う。
そもそも何で僕がnoteで好きなアニメについて書くかは、1つ前のnoteを読んでほしい。

…読んだ?さぞかし読みにくかったと思う。
そして、ここから約300文字関係ない話が続く。興味がない人は読み飛ばすことをお勧めする。
前のnoteが読みにくかった理由は2つ。
1つ目は太字が多かったこと。
前回のnoteではポイントをうまく絞れず太字を多用してしまった。今回は反省を生かして太字は1か所にしよう。

2つ目は一文が長いことだ。
実はこの文章はワードで書いている。ワードは1行に40文字程度文字を打てるのがデフォだ。
しかしnoteをスマホで見ると1行は21か22文字。
ワードで1行の文もnoteだと3行にまたがるということがある。そうすると一文を読むのに3回目線を動かさなくてはいけず面倒だ。
だから今回は一文を短くしている。
ワードで文字を書く人はメディアのUIをしっかり把握すると良いかもしれない。
これがPDCAである。
ちなみに3つ目の、話の脱線が多すぎるという理由には目をつむる。

さて、内容に入る前に概要について話したいと思う。「宇宙よりも遠い場所」は2018年の1月から放送された冬アニメで、平仮名の部分だけを読んで「よりもい」の愛称がついている。そっちの方が楽なので以下「よりもい」と書く。

2018年の冬アニメといえば「ゆるキャン△」が大人気で「よりもい」はそこまで注目されていなかったらしい。どちらかというと、知る人ぞ知るアニメという扱いだったようだ。

…ていうか、「知る人ぞ知る」ってなんだ?
いやそりゃ「知る人」なんだから「知ってる」に決まってんじゃん。これ系の言葉でいうと「好きな人は好きだよね」も意味が分からない。
大学のときゼミの友人と、ゼミの中で誰が一番可愛いかみたいな話になった際、僕が当時好きだった先輩の名前をいうとみんな一斉に
「あー、好きな人は好きだよねー」
いやだから、好きだって言ってんじゃん!
「清水は確かにああいうの好きそうー」
好きそうってなに?
だから好きだって言ってんじゃん!
ちなみに、その人は年上の商社マンと結婚した。

話が逸れた。えっと、そうそう。放送時点では「ゆるキャン△」の陰に隠れ気味だった「よりもい」だったが、2018年の年末、アニメ好きをざわつかせることになる。
ニューヨークタイムズが選ぶ「The Best TV Shows of 2018」のベスト8に選出されたのだ。
難しく書いてあるので簡単にいう。
ニューヨークタイムズ的に、「よりもい」って2018年に海外で放送された全TV番組の中で8番目に良くね?
ということだ。
注意してほしいが、「全アニメ」じゃなく「全TV番組」である。
これはなかなかの快挙であろう。

もちろんネットでも高評価を得ている。
・アニメ史に残すべき名作
・全話クライマックス
・軽くシネマっすね
など、賞賛の声が多い。
3番目のは、まぁ、見てくれれば分かる。

そんな高評価のアニメを僕がお勧めするのも気が引けるというか、荷が重いのだが、精一杯、キャッチーでウィットでセンセーショナルな紹介をするように頑張る。

公式HPにあるキャッチコピーは「女子高生、南極に行く!」、そしてサブコピーは「私の青春が、動き出す!」である。
そう、このアニメは超簡単に言うと女子高生が南極を目指して、実際に行って、青春する物語なのだ。

ちなみに今「じょしこうせい」と打ったら予測変換が「女子更生」と出た。多分このパソコンは昔女性に何か酷いことをされたんだと思う。

このアニメに出てくる女子高生は基本的に更生する必要がないくらい良いやつらだ。

キマリ、報瀬、日向、結月の4人が南極を目指す主要キャラ。
厳密に言うと日向は高校を中退しているので女子高生じゃないが年齢的にはキマリ、報瀬と同じ高校2年生の代。結月は一つ年下の高校1年生だ。

もう少しこの4人を掘下げる。

主人公のキマリは不安を抱えていた。特に何も起こらず淡々を過ぎていく毎日に焦っていた。というより行動を起こさない自分に嫌気がさしていた。青春を求めていた。

そこで南極を目指す同級生の報瀬に出会う。
報瀬が南極を目指す理由は、元南極調査隊の母が行方不明になった場所だからである。
安心してほしい、これはネタバレじゃない。
1話の中盤で出てくる。

キマリは、どれだけ周りに無理と言われても南極に行く意志を曲げない報瀬を見て心打たれる。確かに報瀬には、(このときはまだ)凛として格好良い雰囲気があった。

変わるなら今だ。そう直感したキマリは報瀬と一緒に南極に行くことを決意する。

まず、ここで泣ける。

簡単に書いたが、これはなかなかできない。
高校生と言えば自意識の塊だ。
僕なんか、周りにどう思われているか常に考えていた。
その点どれだけ無理だと言われても南極を目指す報瀬はキマリにさぞまぶしく映っただろう。
そして一緒に行く決断をしたキマリもすごい。

キマリは、アルバイト先で日向に出会う。
同い年だが、とある理由で高校を中退し独学で大学を目指す明るい女の子だ。
キマリ同様青春を謳歌したい日向も南極を目指すことになり、ある作戦を決行する。

作戦があえなく失敗した後に出会うのが結月だ。
ちなみにその際ある名言が飛び出すが、それはアニメ本編を観て確かめてほしい。

結月は子どもの頃から子役として芸能界で活躍していた女の子だ。
仕事で、南極調査隊と一緒に南極に行き現地の様子をレポートすることが決まっていた。
羨ましがる報瀬達だったが結月は結月で悩みを抱えていた。
子どものころから仕事で学校にあまり行けず、友達がいないのである。
だから長期間休学しないといけない南極の仕事は嫌だったのだ。

最初は結構ツンツンしていた結月だったが、ある出来事を通じてキマリ・報瀬・日向と心を通わせ4人で南極に行くということが現実味を帯びてきた。

ちなみにこの流れを「ご都合主義」という意見もたまに見るが、僕はそうは思わない。
結月がキマリ・報瀬・日向の3人を知った場所がその理由だ。詳しくは言わないが、一歩踏み出した3人の行動力が引き寄せた縁だ。

駆け足だがこれが主要キャラの4人である。
どのキャラもそれぞれ魅力的である。

ただ、目新しさは無い。
女子高生グループが〇〇を頑張る、という話は世の中に腐るほどある。
バンド、吹奏楽、漫画、喫茶店、キャンプ、バレー、水泳、世界平和などいっぱいある。
「よりもい」の場合はそれが南極である。
確かに斬新だが本質はそこじゃない。

なぜ「よりもい」がここまで高く評価されるか、ここでは僕が思う3つの理由を書く。

一つ目は主人公たちの成長である。
分かる。「響け!ユーフォニアム」だって「こみっくがーるず」だって主人公やその仲間は成長する。だが「よりもい」の成長は群を抜いている。
そもそも、成長は抱えている悩みや課題を乗り越えた先にあるものだ。
その点、キマリ・日向・結月はまだしも、報瀬が抱えているものはあまりにも大きい。
母親が南極で行方不明になったという事実が10代の女の子に与える悲しみは想像すらできない。
報瀬が、キマリ・日向・結月と出会い、この事実に向き合い乗り越えていく様子には心を打たれる。

報瀬の成長を語る上で外せないキーアイテムが100万円もとい「しゃくまんえん」である。
ただこの100万円に触れることはネタバレになるかな…。
でもどうしても言いたい。

うーん。。。
よし!ネタバレが嫌な人はここからしばらく下にスクロールしてください!ネタバレが終ったら400文字くらい般若心経を書くから「お、なんか漢字ばっかりだ!」と思ったらその直後から読んでほしい。


いい?

この100万円は報瀬がアルバイトで貯めたものだ。学校が終ったらすぐに帰って、レジ打ちをして貯めたものだ。早起きして新聞配りして貯めたものだ。土日を潰し、引越しのバイトをして貯めたものだ。同級生の心無い言葉に気付かないふりをしながら貯めたものだ。
この100万円は、報瀬の南極への執念を象徴している。

そして要所で効果的な使われ方をする。

1話:報瀬とキマリを繋ぐもの
2話:かなえと弓子に報瀬の意志を見せるもの
6話:4人で南極に行くために必要なもの
12話:ここまでの道の険しさを示すもの
13話:もう必要のないもの

特に6話の使い方が本当に泣ける。

パスポートを無くした日向と一緒に南極へ行くべく、飛行機の日程をずらすために使うのだ。

ついちょっと前までは1人で行こうとしてたんだよ?あんなツンツンしちゃってさ。
それが、キマリと出会って、日向と出会って、結月と出会って、少しづつ友達になって。
「4人で」南極に行くためにあそこまで熱くなれる女の子になっている。これ本当に泣ける。

―――――
うるさい!意地になってなにが悪いの。
私はそうやって生きてきた。
意地張って馬鹿にされて嫌な思いして、
それでも意地張って来た。間違ってないから!気を使うなって言うならはっきり言う。
気にするなって言われて気にしない馬鹿にはなりたくない。
先に行けって言われて先に行く薄情にはなりたくない。
四人で行くって言ったのにあっさり諦める根性無しにはなりたくない。
四人で行くの、この四人で。
それが最優先だから!
―――――

多分、報瀬は日向に感謝していたんだと思う。
いつも優しい日向に。
信じて歌舞伎町までついてきてくれた日向に。
そして(時系列的にはあとだけど)、自己紹介のときにポンと背中を押してくれる日向に。
それが11話のあのシーンに繋がっていると思う。
あんなにカメラが苦手な報瀬が、カメラから目を逸らさずに喋るのは日向への思いがあったからのはず。

そして13話での使い方も爽やかだ。
あれは本当の意味で報瀬が母親の死を乗り越えた瞬間だろう。
報瀬にとって南極への執念、そして母親への執念は「おたから」ではあるが、手元になくても大丈夫なものに変わっていったのだ。
だから13話で初めて母親の仏壇に手を合わせる。
それまでは素通りだったから。

一度最後まで観た人は100万円の行方に注目してもう一度見てみるのも良いと思う。

仏説摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽苦集滅無智亦無得以無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多故心無礙無礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多呪即説呪羯諦羯波羅羯波羅僧羯諦菩提薩婆般若心経仏説摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至

1度しか使えない太字をここで使用したが悔いはない。

そして二つ目の魅力は音楽だ。
とにかくこのアニメは曲が良い。
OPの「The Girls Are Alright!」
EDの「ここから、ここから」
この二つももちろん良い。
だが、特に挿入歌が最高なのである。
挿入歌には下記の4曲が使われている。
「ハルカトオク」(1、3、7、9、13話)
「宇宙を見上げて」(2、4、11、13話)
「またね」(5、10、12話)
「One Step」(8、13話)
この4曲がそれぞれいいタイミングでかかり、涙腺を破壊しにくる。

下記が各話のタイトルと挿入歌の組み合わせだ。
1話「青春しゃくまんえん」
→「ハルカトオク」
2話「歌舞伎町フリーマントル」
→「宇宙を見上げて」
3話「フォローバックが止まらない」
→「ハルカトオク」
4話「四匹のイモムシ」
→「宇宙を見上げて」
5話「Dear my friend」
→「またね」
6話「ようこそドリアンショーへ」
→無し
7話「宇宙を見る船」
→「ハルカトオク」
8話「吠えて、狂って、絶叫して」
→「One Step」
9話「南極恋物語(ブリザード編)」
→「ハルカトオク」
10話「パーシャル友情」
→「またね」
11話「ドラム缶でぶっ飛ばせ!」
→「宇宙を見上げて」
12話「宇宙よりも遠い場所」
→「またね」
13話「きっとまた旅に出る」
→「ハルカトオク」
→「宇宙を見上げて」
→「One Step」

テストにでるので覚えてほしい。
挿入歌がアニメの内容とリンクしてより気分を高めてくれることはよくあるが「よりもい」のすごいところは曲名もリンクしていることだ。

全部覚えるのが難しい人は、
「なんで5話と10話が『またね』で11話は違うんだろう」という点だけ覚えてくれれば良しとしよう。
その答えは13話のラスト10秒で分かる。

また13話に関してはEDの「ここから、ここから」が挿入歌的に使われる。

そして報瀬のセリフと一緒に聞いて思うはずだ。
そうだよね。これから、これからだ!と。

そして三つ目の魅力は大人達である。
通常、こういうアニメでは大人は、女子高生の成長を見守りつつたまに良いことを言ったりする良きアドバイザーとして描かれるが、「よりもい」では違う。

大人たちもガチもガチの大ガチなのだ。
特に女子高生4人と一緒に南極へ行く調査隊の面々だ。
まぁ冷静に考えれば分かる。確かに女子高生が南極に行くのは大変だが、普通に大人でも南極へ行くのは大変だろう。
しかも一緒に行く女子高生のうち一人は、前回自分たちがある意味では「見殺し」にした仲間の娘だ。
仲間の死を目の当たりにしても、それでももう一度南極に行く。
並々ならぬ覚悟である。

むしろ30歳以上の視聴者は大人たちに感情移入していた人も多かったのではないかと思う。
本当にカッコいい。

氷を砕きながら少しずつ船を進める姿には大人の意地を感じたし、13話でのかなえさんの言葉は世の中の頑張る大人を救ったんではないか。


と長々と書いてきたが、6000字を超えたので(般若心経400字を含む)、そろそろ終わりにしたいと思う。
この文章を読んで少しでも「よりもい」を観たいと思った人に一つだけアドバイスを送る。

2回観よう。

このアニメは本当に伏線が多く練られている。
一回でも楽しめるが二回目は見え方が全然違う。

・キマリの習字
・なぜ日向は足が速いのか
・結月のホテルの窓
・なぜキマリはコンパサーなのか
・「ね」の秘密
・めぐっちゃんが読んでいる本
・なぜ報瀬の誕生日が11月1日なのか
・結月が13話で言った「強くなりましたね」
・報瀬の母が死ぬ直前に見ていたもの

二回目は色々なことが分かってより楽しいはずだ。


最後に、こんな長い文章を読んでくれてありがとう。
良かったら元のツイートをRTしてもらえると嬉しいです。

そして、なにより「宇宙よりも遠い場所」を観てほしい。

観終わったら、自分の中で溜まっていた淀んだ水が決壊し、解放され、爆発し、全てが動き出すのを感じるはず。

そして、「宇宙よりも遠い場所」が意味する、「南極じゃないもう1つの場所」が分かるはずだ。

ここまで読んでくれてありがとうございました。

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