見出し画像

サヨナラ元気で

今日、長く一緒だったピアノが新天地へ向けて旅立って行きました

物心ついたときには、既にあって
家具や家の一部のように
そこにいることが当たり前
ピアノのある風景が当たり前でした

仕事柄、指をよく使う仕事で
夜には手指が熱を持ち冷やさなければいけないことも多々あって
且つ、リウマチの家系でもあるので

練習用の重い木鍵を持つピアノを弾く機会は
めっきり少なくなり
おチビ(犬)が小さい頃はピアノの錆びついた足を一生懸命に舐めて
鉄分をどうやら自力でとってるらしいぞ
というピアノである必要性が皆無の役割を与えられたくらいで
なかなか鳴らされることがないまま
大人になってからは
私達を静かに見守ってくれているだけの日々でした

場所を取ることや、地震対策も含めて
いつ頃からか最近は処分という言葉が出るようになって

長く弾いていた私よりも
高い買い物を娘達のために決め月賦でコツコツと支払ってくれた
若かりし頃があった母達のほうが思い入れは深く
涙を溜めながら迷いに迷って
先日やっと、思い切って、買い取りの電話を入れ
トントン拍子に引き取る日にちが決まりました

ここにずっとあって古びていくよりも
綺麗にしてもらって
どこかの誰かにまた使ってもらうほうが、ずっといい
そう思っていても
どこで、誰に、ちゃんと大切にしてもらえるのだろうか
という離れていく家族への心配のような気持ちが消えず
断腸の想いとはこのことだなぁと引き取りの日にちまでも
グズグズと迷いに迷っていました

そして、引き取りに来る朝
数年ぶりに最後のお別れにと1時間ばかり弾いた時には
ピアノが奏でる優しい音色に
あぁこんなに良い音色だったか
と、小さい頃からのピアノの思い出と共に
強烈な寂しさがやってきました

やっぱり売るの辞めます
と電話しようかと本当に悩んで

結局
別れには痛みがつきものだ
新たな縁を引き入れるためには別れも必要だ
ピアノにとっても、いい選択だ
と、散々自分に言い聞かせて落ち着かせているうちに

業者さんがきたのでした

業者さんは部屋に入ってピアノを見るなり
テキパキと前板を外して
部品を取り出し、ここの糸が劣化で切れてしまっているので
最初の見積もりよりも少し買取価格がお値引きになります
と丁寧に説明して下さり、書類にサインした後には
あれよあれよと布に包まれ、あれよあれよと運び出され
あっという間にトラックに載せられていなくなってしまったのでした

あの逡巡はなんだったのかというくらい
あっけなく

ポカンと空いたピアノのあった場所を
せっせと掃除して磨いて
ここには新たに本棚を移設してこようと思いながら
ピアノが無くなったことを全く受け入れていないのに
部屋の新しい家具配置のイメージを一生懸命思い浮かべています

ピアノの不在を忘れて慣れてしまう日がいつか必ず来るのだろうけれど
今はまだお腹のあたりがフワフワしています

喪失って、モノに限らず人に限らず
本当にあっけなく、あっという間です
この瞬間は全く慣れません
寂しいです

執着心が強いのでしょうか
これを書いて寂しい気持ちにケジメをつけます

どこかで、小さな子供に楽しく弾いてもらって
新しい家族を見守るピアノの姿をイメージして
ピアノの幸せを祈ります
私よりもずっと長生きをして、どこかで優しい音色を奏でていて欲しいです
幸運がありますように