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【感想】FGO関連Ⅴ「雪原のメリー・クリスマス2023 ~7days / 8years Snow Carol~」case.1

 2023年のFGOを締めくくった期間限定イベント。今年のクリスマスイベントのシナリオは奈須きのこ氏が久しぶりに担当されているとのことで、メインシナリオにも多少なりとも関わりが深い内容となっていました。今回も例のごとく、気になった箇所をピックアップして感想を述べて行きたいと思います。※全3回程度に分ける予定です。


ムニエルの立場と所属派閥他

 

ムニエルの過去

 カルデア職員の一人であるムニエル。フルネームはジングル・アベル・ムニエル。過去の発言の数々からかつて時計塔に所属していたことが匂わされていた彼だが、本イベントでは彼本人の預かり知らぬところで以下のような過去の経歴に関わる情報が断片的にだが開示された。

・魔術師同士のマウントの取り合いが嫌気が差して南極カルデアベースに就職した。
・中立派であるため、レイシフト実験への興味は薄い。

画像引用:Fate/Grand Order
画像引用:Fate/Grand Order

 ムニエルが嫌気が指した魔術師同士のマウントの取り合いとは何か。ロマニが語る中立派が意味するものとは何か。それについて語る前に時計塔の組織構造と政治方針についておさらいしておこう。

時計塔の三大派閥

 時計塔とはロンドンに拠点を構える魔術世界最高の学府にして世界的な影響力を持つ魔術協会の本部である。同じ規模の学院として紀元前から活動しているエジプトのアトラス院、北欧の彷徨海が存在し、協会創設時はこれら三つの学院からなる三大部門に分かれていたが、時計塔が本部になってからは互いの交流は廃れる一方となっている。現在の魔術世界において魔術協会とは「時計塔」そのものを指す言葉として用いられることも少なくはない。
 魔術世界の中心である時計塔には多くの魔術師が所属している。その数は西欧圏の魔術師の九割にも及ぶ。魔術師たちの頂点に君臨し、時計塔を事実上支配しているのが十二の魔術名門からなる君主(ロード)たちである。十二家の中でも特に時計塔の設立に大きく貢献したバルトメロイ、トランベリオ、バリュエレータの三家は三大貴族と呼ばれ、特別視されている。
 時計塔を支配する君主たちだが、時計塔を運営していく上での政治思想の違いから、以下のように大きく三つの派閥に分けられている。

 三つの派閥の中でも特に貴族主義派閥と民主主義派閥の対立は深く、近年の時計塔は内紛一歩手前の様相を呈している。歴史的な遺物、魔術的な触媒、優れた霊脈など時計塔は研究者としての魔術師にとって理想的な環境であるが、時計塔に所属することはこれら派閥争いに否応なく巻き込まれることを意味している。ムニエルが嫌気が差した「魔術師同士のマウントの取り合い」もこのような派閥争いを意味しているのだろう。

ムニエルの所属派閥・学科

 ロマニ曰く、ムニエルは中立派。単にカルデア内での職員としての立ち位置を表す程度の意味かもしれないが、ここではムニエルの時計塔での所属派閥と学科も含んだ意味だったのではないかと考えてみる。
 時計塔における中立主義は貴族主義、民主主義に続く第三の派閥である。鉱石科と考古学科を牛耳るメルアステアを代表に、個体基礎科のソロネア、伝承科のブリシサン、呪詛科のジグマリエなどが名を連ねている。
 文字通り、貴族主義派と民主主義派の対立とは距離を置く中立的な立場の派閥。時計塔の在り方よりも研究第一の派閥が中立派閥だと言えるだろう。では、彼らが派閥争いや魔術師同士の対立と無縁であるかといえばまったくもってそうではない。派閥に属する十二君主の家系の数こそは貴族主義派閥に次ぐ四家だが、これはあくまで主義主張よりも研究を優先したいという思考の結果に過ぎない。つまり中立主義派閥には貴族主義派や民主主義派のような共通の理念が存在せず、他の派閥と異なり派閥内の意思統一が出来ているとは言い難い。最大勢力の名でメルアステアとまとめられているが、派閥内でいつ内ゲバを始めてもおかしくない状態にある。
 と言っても基本的にメルアステア派は日和見主義の姿勢を貫いている。三大貴族が筆頭、中心となっている他の二派閥と比べると中立派閥の権威は極めて低い。なので政局を静観しつつ、極力時計塔内の政争に巻き込まれないように立ち回るのが彼らの生存戦略といえるだろう。だが、彼らにとって真に優先すべきは魔術の研究である。故に魔術の研究のためなら時に政争すら利用することもある。その代表的な事例が第四次聖杯戦争直後のメルアステアの野心的な行動だろう。
 当時の鉱石科の君主であったケイネス・エルメロイ・アーチボルトが第四次聖杯戦争でまさかの敗死を遂げたことで、エルメロイ派は没落することになった。この没落のいざこざの間に鉱石科の管理をエルメロイから奪ったのが、メルアステアなのである。中立主義の代表であるメルアステアがこうも野心的に動いた理由は一言でいえば「金」である。比較的資金面に余裕がある貴族主義派閥、民主主義派閥と比べると中立主義派閥の懐事情は決して明るくはない。加えて二十世紀になってからは魔術世界でも金の必要性は急増しているのだ。こうした事情から考古学の研究資金のために鉱石科を手にしたメルアステアだったが、貴族主義派閥の椅子を一つ奪ったことでバルトメロイから目をつけられてしまっている。
 このように中立派閥でも政争や権力争いと無縁でないのが時計塔の内情である。ムニエルが時計塔から離れたかったのも無理のない話である。
※「FGO」の世界は第四次聖杯戦争が起きていない世界なので、時計塔の政治事情も「SN」や「事件簿」等と異なっている可能性はあることを留意して欲しい。

 少し余談となるが、この機会にカルデア職員の時計塔での所属学科等についてもまとめておこう。
 カルデアは時計塔の天体科を司るアニムスフィア家によって設立された組織だ。天体科が貴族主義派閥に属するためか、現在まで明らかになっているカルデア職員の学科・派閥も貴族主義が多くを占めている。中立主義派閥出身者も僅かながら存在するが、民主主義派閥の出身者にいたっては皆無である。(といっても派閥間のスパイなど珍しくないのだが)

 ムニエルが中立派閥出身だった場合、どこの学科だったのかもある程度は絞ることが出来るかもしれない。まず考古学科と伝承科は候補として外せるだろう。理由としては弱いかもしれないが、これらの学科の出身者であるレフやデイビットと特に旧知だった描写がないためだ。残る候補は個体基礎科、鉱石科、呪詛科となる。名前の「アベル」に意味があるとしたら、『生贄』と関連性が強い印象がある呪詛科の所属だったのだろうか?

時計塔の派閥の起源

 ここからはムニエルから少し脱線して、時計塔の派閥やレイシフト実験が持つ重大性について触れて行こうと思う。
 現代でこそ十二家が政治思想の違いから三つの派閥に分かれ、権謀術数が渦巻く時計塔であるが、君主制度が確立された西暦1200年頃からそうだった訳ではない。派閥の起源、その原因は西暦1800年頃のイギリスの産業革命にまで遡る。
 魔術が過去へ逆行する学問なら、科学は未来へ前進する学問だ。魔術は科学では解明できない過去の人間の技術を司り、科学は魔術では到達できない未来の人類の技術を積み重ねる。魔術は手段こそ奇蹟であるがその結果は奇蹟ではない。故に結果だけの話に限れば、魔術とは現代の科学で代用可能なものでもあり、同時に科学の代用として魔術があったとも言える。ようは歴史の流れとともに科学が発展し、神秘というベールがめくられるほど魔術は衰退し、不要なものとなっていくのだ。魔術協会が神秘を秘匿するのも魔術の衰退を少しでも遅らせ、魔術世界を延命させるための仕組みである。
 魔術は文明の発展に伴って力を失っていく。いくつかケースを挙げると活版印刷の発明、解剖学の発展などがある。15世紀のグーテンベルクの活版印刷の発明によって大量印刷が可能となった。これは社会の情報化を促進し、多くの人間への知識の共有、一般化を可能とし、迷信に支えられる神秘に対して致命的な打撃を与えた。もう一つの解剖学の発展は人体模造の魔術概念への衰退をもたらした。人体の解剖図が知識として多くの人間に行き渡り、人体には神秘性などないのだと結論づけられてしまった。結果、17世紀以降、人体模造の概念は魔術として成立し難くなった。こういった事情から魔術世界において、自動人形は人体模造の概念が衰退する以前のモノ、古ければ古いほど性能が高いことが常識となってしまった。
 イギリスの産業革命もまた科学の進歩が神秘の衰退をもたらした一例である。だが、活版印刷による迷信の駆逐、解剖学による人体模造の概念の衰退と異なる点が幾つか存在する。技術の進歩は必ずしも神秘の一般化に繋がらない。文明の発展は時に技術や知識の複雑化を伴うためだ。幅広い神秘を扱う魔術協会・時計塔にとって活版印刷の発明ほどのダメージはない。だが、協会と対立関係にあり、協会と共に欧州の魔術世界を二分する聖堂教会にとってそれは致命的だった。教会は不変なものを作り上げ、それを広げることで全能を証明した。つまり『神は天に在り、世は全てこともなし』である。それは『単一の世界観』に基づいた教義であり、彼らが自分たち以外の神秘を否定し、排除しようとする理由である。つまり限られた範囲の神秘を扱い、不変による全能を謳う聖堂教会にとって産業革命による知識、知覚の更新は魔術協会以上に深刻なダメージをもたらしたのだ。結果、魔術協会・時計塔は聖堂教会の弱体化のために産業革命を後押しすることを選択した。その際に産業革命を是とするか、非とするかの時計塔内部での争いこそが現代まで続く貴族主義派閥と民主主義派閥の争いの原因となっている。

レイシフトの難易度

 「FGO」世界においてレイシフトは重要な立ち位置を占める。レイシフトがなければゲーティアの人理焼却を破却することは不可能であり、レイシフトがあったからこそそれを危険視した異星の神の陣営の第一手で南極カルデアベースは陥落する事となった。
 「FGO」の世界では確かな技術として確立されて久しいレイシフト。第一部の七つの特異点のもちろんのこと、第二部以降もイベントクエストなどの舞台となる微小な特異点の解決のためにレイシフトが用いられることは多々ある。「FGO」においてレイシフトは非常に身近な技術だと言えるだろう。そのため、レイシフトがいかに特異的な技術であり、それを技術として確立した「FGO」の世界が数ある並行世界の中でもいかに特例的な立場にあるか忘れてしまう。 
 時間遡行や時間旅行に関連する神秘は魔術の世界には確かに存在する。だが、それは魔術世界の中でも神秘の中の神秘。それこそ五つの魔法や魔法の域の大魔術でのみ可能とする奇蹟である。魔術とは科学の代用品であり、人知が及ぶ範囲でなら万能である。故に現代の科学で不可能なことは魔術でも起こせない。もちろんレイシフトは厳密には時間旅行ではない。情報あるいは疑似霊子化された情報体を特異点という通常とは異なる時空間に転移させる魔術理論だ。通常、『時間と空間』はセットの関係にあるが特異点は『時間』と『空間』をまたがって存在している。故に特異点は違う時代と接触出来る。レイシフトとは特異点のこの性質を利用しているのに過ぎない。したがって魔法による時間旅行と比べると格段に難易度は下がる。下がるのだが、それはあくまで理論的に可能というだけの話。実現するには何段階ものハードルを超える必要があるのである。
 現代魔術科の学部長の二人、先代学部長のハートレスと現学部長のロード・エルメロイII世は時間遡行の神秘について次のようなある程度共通する見解を述べている。

 このようにレイシフトは理論上は「FGO」以外の世界でも可能である。だが、そのためには時計塔の十二家レベルの秘術の提供、アトラス院の技術提供、そして、表側の人間社会の協力が不可欠だ。本来であればこれを実現させることは不可能に近い。だが、その不可能を何かの間違いで成し遂げてしまったのが「FGO」の世界であり、初代所長マリスビリーなのであった。
 マリスビリーは天体科君主であるアニムスフィアの秘術を提供し、さらにアトラスの契約書を利用してアトラス院から全面的な技術提供を受けることに成功した。そして、各国から出資金を集めて国連主催の組織としてカルデアを設立した。前二つは彼の君主という立場とアトラスの契約書の効力を考えると無理ではないだろう。だが、最後の一つには疑問が残る。時計塔と各国との調整は本来であればバルトメロイが牛耳る法政科が担当する管轄である。カルデアを国際組織として設立させるには法政科とバルトメロイの協力は不可欠であると考えられる。同じ貴族主義派閥とはいえ十二家どころか三大貴族筆頭でもあるバルトメロイは天体科君主であるアニムスフィアから見ても格上の存在である。そのバルトメロイをいかにマリスビリーが説得したのかについても大きな疑問であると言えるだろう。

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