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『七色模様』22年W杯欧州予選 Group.A~ルクセンブルクvsアゼルバイジャン~

 皆さん、こんにちは。シルジャベです。前回の記事、たくさん拡散していただいてありがとうございました。一端の執筆者として、これほど励みになることはございません。今後とも、どうか宜しくお願い申し上げます。今回は文章中心で、前回よりも簡潔な内容になるかと思います。カウントしたところ、ポルトガル対アイルランドは4,500文字近くを書いていたようです。過密日程となる代表ウィーク、これでは乗り切れないと察しての苦渋の決断です。以上、言い訳タイムでした。

【両チームのラインナップ】

 それでは早速、ラインナップの確認から参りましょう。

ルクセンブルクアゼルバイジャンスタメン

欧州でも下位グループに属する両チームの対戦ということもあり、一気にニッチ感が増したこの試合。FIFAランキングを見てみると、ルクセンブルクが96位でアゼルバイジャンが112位。アジアで例えると、レバノン・バーレーン・ヨルダン・北朝鮮あたりが該当します。
 まずはルクセンブルクから見ていきましょう。なんといっても注目は、かつてジュビロ磐田でも輝きを放ったジェルソン・ロドリゲス。現在はウクライナの強豪ディナモ・キエフに所属し、この欧州予選でも2試合連発スタートと波に乗っています。また、この試合のベンチからは外れましたがFWのデモータは現在代表101キャップを記録。次に出場すれば、同国最多記録を更新します。
 続いてアゼルバイジャン。今回招集された25名のうち20名が国内リーグに所属しており、結束は固そうです。時折欧州大会でも見かける強豪カラバフから9名が選出されています。EURO2020の予選では、8試合0勝1分7敗と大苦戦の末に敗退。今回の予選でも連敗スタートと苦しい戦いが予想されます。

【ルクセンブルク総評】

 立ち上がりからルクセンブルクがボールを支配して試合が始まりました。この試合に関して最も目を引いたのは、ルクセンブルクが用いた『七色の可変』とも言える柔軟な陣形変化です。中々事前に見どころを押さえるのが難しい試合でしたが、この可変フォーメーションをまとめるだけでも価値が生まれると感じました(丁寧な逃げ)。

①アンカーを落としての3バック化
 この試合で最も多く見られた可変です。俗に『サリー』とも呼ばれるもので、アンカーを2CBの間に落とす形になります。自陣からビルドアップを行う際(以下では『保持時』と表記)に、相手の2トップに対して数的優位を作れるメリットがあります。8番のマルティンス・ペレイラが担当していました。

②右インサイドハーフを落としての3バック化
 先ほど①で書いた3バック化の別形態です。右インサイドハーフのバレイロが最終ラインまで降りてきて、同じく数的優位を作ります。結果としては①と同じ3バック化なのですが、相手の目先を変えることでより複雑な対応が求められると感じました。

③アンカーを落として3バック化+両CBの幅取り
 同じく①の亜種。通常3バックの幅はペナルティエリアより一回り大きいくらいのイメージなのですが、ここでは両CBがタッチライン付近まで広がります。狙いとしては、相手の圧力を横に分散する意図があったと思われます。ルクセンブルクの両SBは攻撃的な素養があるように思えたので、彼らを高い位置に押し上げられる3バック化を好んでいたのでしょう。このCBの幅取りは、より思い切った形となります。

④アンカーを落として片方のCBが大きく開く2バック化
 系統としては③に近い変形となります。先述の通りルクセンブルクはSBの攻撃参加を活かしたいチームのようです。したがって、彼らを押し上げるための可変がいくつかパターン化されています。アゼルバイジャン側が2トップでの圧力を緩めた際などは、積極的に余った最終ラインの選手を押し上げていた印象です。このシーンはそれほど多くはなかったですが、インパクトが強く思わず目を引かれました。

⑤4-4-2ブロック
 ④までは主にボール保持時について書きましたが、ここからはボールを持っていない非保持時の形について触れます。まずはオーソドックスな4-4-2の形から。2列目に4人を並べるもので、小さなポジションチェンジで済むメリットがあります。アゼルバイジャン側は時に3-5-2時に4-4-2とこちらもポジションをいじっていたので、次の手を打ちやすい4-4-2での様子見は有効に思えました。

⑥5バック化
 これは3バック化同様の現象で、こちらもコストを抑えられる変化です。アンカーが落ちたりサイドが落ちたりとケースバイケースでしたが、相手の攻撃の厚みに対してよく反応ができていたと感じました。

⑦右CFが落ちての4-1-4-1迎撃
 長くなったルクセンブルク可変シリーズもこれがラストです。右CF9番のシナーニが右のサイドハーフまで列落ちし、4-1-4-1を形成します。この形においては、インサイドハーフとなった21番セバスティアン・ティルと16番バレイロは積極的に相手最終ラインに圧力を掛けていました。片方が前に出ればもう片方はバランス調整をするといったように、ルクセンブルクの面々はこの場面に限らず周囲の動きに同調してポジションを取るのが上手い印象を受けました。

【アゼルバイジャン総評】

 具体的な試合展開については後程触れますが、正直ルクセンブルクの変化ほど熱量を持って記せる内容が乏しいです。すみません。3バックを基調に落ち着いた試合運びをしたかったことが予想されるアウェイチームでしたが、ルクセンブルクの巧みな人員配置で混乱させられていたように思えました。ただ、一気に3枚を入れ替えた後半立ち上がりは盛り返しを見せました。2トップを縦関係にしてある程度のボール保持は許容しつつ、要所では元気な選手がゴールキーパーまでプレスに向かいました。前線1列目の少し下に中継地点を作ったことで、いくつかチャンスも生まれました。3-5-2と4-4-2を使い分けるなど準備ができていたことは感じさせるチームですが、統率の面ではボヤける部分もあったかと思います。正直なところ、予選突破には相当な覚醒と救世主の到来が必要ではないでしょうか。

【試合内容】

 ここまでで既に余裕の2,000字オーバー。長くなってすみません。肝心の試合内容に移りたいと思います。
 ルクセンブルクは柔軟な陣形変化としっかり人数を費やした攻撃で、序盤から主導権を握ります。待望の先制点は開始8分に訪れました。右のハーフスペースから出されたエリア前を横断するパスに、内側から駆け上がった左SBのピントが反応しました。左のハーフスペースでパスを受けたピントは、ワンタッチで相手のプレッシャーを回避し、そのまま左脚を振り抜きました。シュートはキーパーの脇下を抜けて、そのままゴールイン。アゼルバイジャンの目が慣れないうちに先制したことは非常に大きかったのではないでしょうか。
 続く26分。そのままのペースを維持していたルクセンブルクに2点目が舞い込みます。敵陣高い位置でのボール奪取に成功したジェルソン・ロドリゲスからのパスを受けたバレイロがエリア内に進入。たまらずアゼルバイジャン13番ヒュセイノフが足を出してPKが宣告されました。このキックをジェルソン・ロドリゲスが見事に沈めてルクセンブルクがリードを広げます。このゴールで欧州予選3試合連続ゴールを記録、チームを引っ張っています。
 その後は保持面でも非保持面でもルクセンブルクが安定した試合運びを見せ、2点リードで折り返しました。

 迎えた後半戦。アゼルバイジャンは一気に3選手を交代し、2トップを縦関係にした5-3-1-1のような陣形に変更しました。元気な10番エムレリが相手キーパーまでハイプレスを敢行し、ルクセンブルクはやや尻込みしたようでした。62分には関係を調整した前線が功を奏し、シンプルな裏抜けからアゼルバイジャンが決定機を迎えます。これは惜しくもルクセンブルク守備陣の奮闘に阻まれますが、続く67分にはエリア右前の好位置でフリーキックを獲得。これを8番マフムドフが右足でニアから巻いてビューティフルゴールを沈めます!試合を通して高い技術を感じさせるプレーを見せていたマフムドフ、その結実を見ました。
 その後はややアゼルバイジャンが盛り返す展開になりつつも、交代等を駆使してルクセンブルクが上手く逃げ切ることになりました。この結果、ルクセンブルクは2勝1敗となり、同一の欧州予選では初めてとなる『2勝目』を手にしました。多彩な陣形変化から相手の目先を変える戦いは、次節以降にどんな顔を見せてくれるのかと見る者の興味関心を惹くような内容でした。今回見てくださった方には『可変のルクセンブルク』とツイートすることで欧州識者を装える権利を差し上げますわ!(キングヘイロー)

【気になった選手】

 ここまで読んだ方にはお察しかもしれませんが、両国から1名ずつをピックアップ。

①ミカ・ピント(28歳・スパルタロッテルダム)

ピント

 勝利したルクセンブルクからは、立役者の一人である左SBのピントを選出。ユース年代ではポルトガル代表としてのキャリアを歩んできましたが、A代表ではルクセンブルクを選択。この度は嬉しい代表初ゴールを決めました。所属はオランダ1部エールディビジのスパルタロッテルダム。クラブでもそれほどゴールを決める選手ではありませんが、機を見た攻撃参加は光るものがありました。前線を内外からサポートすることが可能で、気が利く選手だなという印象が強いです。力強いインナーラップからの得点は、彼のダイナミックな攻撃参加が実を結んだものでした。

②エミン・マフムドフ(29歳・ネフツチバクー)

マフムドフ

 敗れたアゼルバイジャンから、見事なフリーキックからゴールを挙げたマフムドフを選出。その他にも両チーム最多となるパス成功71本を記録(成功率88%)し、タックルも2つありました。右足の精度が高く、実直なプレースタイルが印象的でした。年齢もそれほど若くはなく所属もアゼルバイジャンリーグと、恐らくこの企画がなければ出会っていなかった選手。こういった一期一会の出会いも醍醐味なのかと勝手に感慨に耽っていました。

【試合結果】

2021.9.1
22年W杯欧州予選 Group.A 第4節
ルクセンブルク 2-1 アゼルバイジャン
【得点者】
ルクセンブルク:ピント 8'
                             ジェルソン・ロドリゲス 28'
アゼルバイジャン:マフムドフ 67'
【警告】
ルクセンブルク:マルティンス・ペレイラ 66'
                             ボフナート 81'
アゼルバイジャン:ヒュセイノフ 27'
                                 オゾヴィッチ 47'
                                 クリヴォチュク 90'

  今回のレビューは以上となります。簡潔に書くなんて冒頭で宣言した割には、文字数が全く減らないどころか微増しました。次回以降は先達方のやり方も参考にしつつ、適度な質量を持ったレビューに仕上げられるよう頑張ります。
 ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。それではまた次回お会いしましょう!

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