ア・カウンターフィート・ニンジャ・イズ・ブリムフル・オブ・リスペクト・アンド・カラテ

濁った雨が車の強化ガラスを叩いている。昼なのにこのように煙る視界ではライトはつけっぱなしである。運転するフォーチュンクローは対向車のライトに眼を細めつつペットボトルの中の水を口に流し込んだ。
「都合よく晴れてくれませんかねぇ」助手席から言うのは女性のワーウルフめいたニンジャ、ナイトシフト。手元には「供給停止」「原因を特定中」の文字が踊る小型unixボード。「天気予報は…ちぇ、雨かぁ」毛皮に覆われた彼に取って湿気は不快だ、最もネオサイタマの湿度はいつも100%近いのだが…
ただ、この風景を見てネオサイタマ?と疑問を持つ者がいるのは間違いない。彼らの車はネオサイタマの外の農業地帯へ向かっている。今の風景は荒野、あるいは放棄された旧世代建築物の町並みである。
信号機は灯らず法もない地帯だがカーブが多く速度が出せない。そしてそこを狙う者達が建物に見え隠れする。農業地帯とネオサイタマを行き来する車を狙う野盗だ。「加速するぞ!」フォーチュンクローはアクセルを踏み込む。直後車は加速する!
フォーチュンクローの視界にはunixゲームめいて道順のレイアウトとガイドが表示されている。全身の大半がサイバネであり、目も例外ではない。コーナーをグリップ走行で抜け、中にはGがかかる。だが助手席のナイトシフトも、後部に座るワータヌキの男も遠心力を意に介さない様子。
「アイエエエ!!」追っていた車が見えなくなっていく。振りきったか?「1台ついてきてるな」レースめいて1台の車が後ろに張り付いていた。「イヤーッ!」フォーチュンクローは運転を続ける。が、離れぬ!相手も上手く、また加速力が大きい!「こんな曲がってる場所じゃパワー過多か!」
「追われるのも気に食わんな。追い払ってやろう」ワータヌキの男…アンディフィナイトは高速で走行する車のドアを開けた。「イヤーッ!」そこからスリケンを投擲!投げられたスリケンはバンパーの穴を通り抜けてサスペンションを貫通、破壊した!タツジン!
「アイエエエ!?」緩いコーナーに差し掛かりサスペンションの壊れた車は高速で曲がれず壁に擦り付けられ、ようやく止まった。フォーチュンクローの乗る車は既に見えなかった。
「どうしてあんなことができるんですかね…」ナイトシフトは感嘆した。録な姿勢を取れない社内からのスリケンで動き回る車のバンパーの隙間を狙い、足回りを攻撃する。凄まじいワザマエがなければ出来ぬことだ。それをアンディフィナイトはベイビー・サブミッションかの如くやってみせた。
「いい加減到着しないのか?そろそろ外の空気を吸いたいぞ」「もう目の前ですよ」「ありゃ」中世の城塞都市めいた防壁がもう目の前にあった。その間の抜けたアトモスフィアはさっきスリケンを投げた者とは別人に見えた。彼には人を警戒させない緩い雰囲気があった。

フォーチュンクローが身分を照会すると扉は開いていく。「古いものかと思ったが最近のやつだな。今はテックで埋め尽くされてるものと思っていたぞ」「なんでも最新がいいわけではありませんからね」皮肉めかしてナイトシフトが言った。
車を停めると駆け寄る農夫。格好からいって幹部かまとめ役だろう。「ドーモ、コマカギ協会の…キツネミミ社のエージェントですか?」「はい、早速何が起きたかを説明したください」「ヨロコンデー」

廃墟となった旧世代市街地を抜けた先は一面の田畑だ。今やキツネミミ社にとっては食料生産を支える重要な区画である。月破砕後はメガコーポ群がネオサイタマ郊外の水田の支配権を争ったがここに関しては野盗蔓延る不毛の土地であり、誰も手をつけなかった。
誰も見てない場所にこそ好機あり…敵と干渉せずに開発できるのならシルバーフェイスにとって容易い仕事である。訳あってネオサイタマから逃れてきた者を集め、ダイズやコメの生産を始めた。痩せた土地でも育つよう品種改良を進めた作物を持ち込み、この土地の食料事情を改善した。
「…なるほど、襲われていると。しかもニンジャ戦力ですか」「はい…先週は20人殺され、第23区画のジャガイモがネコソギにされました」ナイトシフトが話を進めていく。コマカギ協会は野盗対策のトラップや傭兵もある。ただのよた者程度なら容易く殺せるはずである。
メガコーポの関与を疑わざるを得ない、ナイトシフトはそう結論付けた。「そういえば、ニンジャ、いましたよね?今は何をしていますか?」「シーラス=サンは警備にあたっています」prrrr!電子メールが届いたらしい。「ア、失礼します…一体なんでしょアイエエエ!!」コマカギの幹部は失禁した。
「いたずらメールですか?私にも見せてください」断ることもなくナイトシフトは覗いた。「…随分と悪質ないたずらですね、これは」そこに映っていたのは…コマカギ協会の護衛ニンジャ、シーラスの生首である!ナムアミダブツ!

「おいどうした?」悲鳴を聞いたフォーチュンクローが尋ねる。「宣戦布告されました。相手はわかりませんが」ナイトシフトは状況説明のメールを打ちながらプランを練る。フォーチュンクローも通信体制を臨戦モードに切り替えた。護衛ニンジャを殺してきた、これはコマカギ協会の作物をネコソギにしようとする何者かの陰謀に違いない!
フォーチュンクローは警備システムに直結し迎撃装置を手動に切り替える。あらかじめキツネミミ社本部からの遠隔操作で手動攻撃ができるようになっているのだ。「私は野次馬にでも行きますよ。オタッシャデー」相手がメガコーポならばナイトシフト一人で相手取るのは厳しい。彼はソウカイヤ時代、まだニンジャスレイヤーがいない頃からのシルバーフェイスの部下であり信頼とそれに足るワザマエを持つ。しかし斥候とアンブッシュが主な任務である彼が真正面から戦うのは厳しい。
荒野を駆けるケモノめいてナイトシフトは爆音の方向へ駆けていく。(ひとまず相手の正体は掴まねば。そうすればいくらでも報復ができる)この距離では本社からの物理的援護は制限される。今いる戦力で可能なことをする。kabooom! kabooom!! すぐ近くだ。彼は気配を消すべくジツを行使しつつヘイキンテキに入る。バカシ・ジツ。彼のコートや毛皮は周囲の景色と同じ色になり、輪郭を容易にとらえられぬようにした。さながら肉食動物めいて。
「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」ニンジャ確認…こちらは気付かれていない。その数は3名。(大所帯ですねぇ)実際厳しい数である。「どうだ!俺のカラテマシンガンの前に敵なし!」白い小粒のカラテミサイルを実際マシンガンめいて飛ばすニンジャ。「いや俺のほうが殺したぞ!やはり実弾に限るな!」ガトリングを肩から提げてぶっ放すトリガーハッピーニンジャ。こいつらはなんとかなると計算した。
「油断するなマルチプル=サン、サークルガン=サン。相手はキツネミミ社だ。あの小賢しいキツネは必ず罠を張っている」それに何か言い返す二人…おそらくこの冷静なニンジャがここの指揮役だろう。その立ち振る舞いは確かなカラテを感じさせた。こいつが無事ならジリー・プアー…ナイトシフトは機会を伺う。
「死ねー!」「「「グワーッ!」」」傭兵を殺戮するニンジャ二人は周りが見えていない。よってナイトシフトがアンブッシュを仕掛けるのに十分な死角がこの部隊に発生していた。…一撃で深手を負わす。狙いは指揮役のニンジャ!「イヤーッ!」ニンジャソードをその心臓めがけて!「グワーッ!」命中!だが少し浅い!
「ドーモ、ナイトシフトです」先手を取ったナイトシフトがアイサツ!「グ…ドーモ、ナイトシフト=サン、サキシトキシンです」アイサツからコンマ一秒、ナイトシフトはワンインチ距離に詰め寄る!「イヤーッ!」「イヤーッ!」深手ながら巧みなカラテ!その手には麻痺毒が滴る!「援護しろ!」サキシトキシンが叫ぶ!だがマルチプルとサークルガンは撃たない。いや撃てない!ワン・インチ距離の応酬をするナイトシフトに撃てばフレンドリーファイア必至!彼は狙ってこの状況を作りだしたのだ!
「イヤーッ!」「グワーッ!」やはり出血が酷くカラテが乱れたか!ナイトシフトが一方的に有利!サキシトキシンは一撃に賭けて最大出力のドク・パンチでナイトシフトを狙う!食らえば呼吸や鼓動すら麻痺しかねない!アブナイ!
「イヤーッ!」魔手がナイトシフトに迫る!「グワーッ!」吹き飛んで倒れるナイトシフト!なんとか相打ちに持ち込めたか…だが強力な毒と出血で感覚を失っているため気付かなかった。その手にナイトシフトは触れてすらいないことに。「イヤーッ!」伏せた状態から飛び掛かり、その首めがけてニンジャソードを振るう。サキシトキシンは反応すらできず、その頭が転がり落ちて爆発四散した。
「な、なんだと!?イヤーッ!」慌ててガトリングを放つサークルガン!マルチプルも小型カラテミサイル連射!ナイトシフトは半時計周りに走って回避!回避!回避!そして見よ!その輪郭がぼやけていく!バカシ・ジツで体の色を変えて風景に溶け込んでいく。
「そんなもの、ばらまけば関係ねぇ!」実際居場所が解りにくくてもありったけの弾丸を二人でばらまけば接近は困難。「どうした!既に死んじまったか!」弾丸は的確にナイトシフトを追っているように見えた。だが見当たらぬ。こんな平野で弾丸を凌げるはずがない。
「ちっ、奴の悲鳴が聞きたかったが…行くか」「ああ、続きやろうグワーッ!」ニンジャソードが心臓を貫通している!「サヨナラ!」サークルガンは爆発四散!ナイトシフトは相手が回転に慣れてきたころを見計らい地面に穴を掘ってやり過ごし相手が回転して弾丸を浪費するのを眺めつつ気配を殺していたのである!風景に溶け込んでいて相手がいなくなったことに気づかれなかったのだ。
「そういえばあなたにはしてませんでしたね。ドーモ、マルチプル=サン。ナイトシフトです」「ドーモ、ナイトシフト=サン。マルチプルです。こそこそとこと小賢しいケモノめ!イヤーッ!」小型カラテミサイルの散弾攻撃!「イヤーッ!」きりもみ回転しながら斜め前に飛ぶ!するとカラテミサイルが体に沿って軌道が変わりナイトシフトに命中しない!小型ゆえにカラテからの干渉を受けやすいのだ!
「イヤーッ!」「グワーッ!」アンブッシュ重点のナイトシフトとてこのようなジツ便りのサンシタに接近戦で遅れは取らぬ。「イヤーッ!」「グワーッ!」ここまで接近されれば頼れるのは己のカラテのみ!だがマルチプルにそのようなカラテは無かった。気付けばマルチプルの心臓には、ニンジャソードが突き刺さっていた。「サヨナラ!」爆発四散した。

巧みなアンブッシュで数の不利を覆したナイトシフトに余裕の表情は無い。サキシトキシンを押し切れたのは幸運であった。そしてこのまとまったニンジャ戦力を送り込める存在…相手は強大だ。IRCを取り出して連絡を取ろうとしたとき、丁度着信だ。内容は…フォーチュンクローからのSOS!?(なんだって!?)陽動だったか!?いや、おそらく最初から複数の攻撃をしていたのだろう。
メールには気になる文があった。破壊的なエンハンスを行使する…と。(まさか…)フォーチュンクローはまだ戦闘している。急がねば!

数分前…

フォーチュンクローは警備システム全体のチェックをした。ハッキングからか、ダメになっている箇所もある。ひとまず敵の姿を確認せねば。しかし壊れた監視カメラの分布は道めいて…フォーチュンクローは直結を切断した。直後、何者かのトビゲリ・アンブッシュがフォーチュンクローめがけて飛んできた!「イヤーッ!」間一髪ブリッジ回避!一瞬でも判断が遅れればアンブッシュの餌食になっていたであろう。
「ドーモ、アスタークリークです」「ドーモ、アスタークリーク=サン。フォーチュンクローです」二者は間合いを警戒しつつ時計めいて動き出す。「何者だ」「サクモツ協会代表…ムナゾと言えばわかるかい?」「なんだ?素直に教えるのか?」「そうだね…キツネミミにサクモツの怖さを知ってほしいからね」「随分と余裕だな」
「そうとも。私は加護を受けたのだ。偉大な加護を!イヤーッ!」両者、接近してのカラテに移行!フォーチュンクローは体の大半がオイランドロイドボディではあるが火器を積んでいない。彼の武器は低姿勢からのケモノ・カラテ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ワザマエは互角か。激しいカラテの応酬!
互いの回し蹴りが交わりタタミ四枚分の間合いが開く。「むぅ、やむを得ない。おお…私に加護を…」イクサ中に祈るアスタークリーク。まさかマルナゲ!?「イヤーッ!」好機としてフォーチュンクローが低姿勢からの攻撃!その右手は鉤爪めいた形をとりアスタークリークの首を狙う!これはケモノ・カラテの奥義、ビースト・ハンティング・ツメ!
アスタークリークは銀色の金属光沢を帯びた軽いチョップで迎撃!無謀!「グワーッ!」だが悲鳴はフォーチュンクローから!奥義を放った右手が切断されている!一体何事か!「な!?」しかも右腕が痺れたかのように動かない!フォーチュンクローが驚いたのは奥義を迎撃されたことではなかった。
「これが加護だ。破壊の加護。あまり頼ると失ってしまうから、あまり使いたくないんだ…」アスタークリークは恍惚の笑みを浮かべながら間合いを詰める。「何が加護だ。偽物め」アスタークリークの表情が怒りに歪む。「偽物だと!?おこがましい!卑劣な冒涜!」疑問はたくさんある。だがあのエンハンスにフォーチュンクローがウカツに触れれば死ぬ!「イヤーッ!」ゆえに避ける!ガードさえも許されぬ!
「破壊されるがいい!異端者め!」「悪いが神は信じないからな」銀色のエンハンスが体の近くを通るたびサイバネの四肢の感覚が乱れる。いつまでも避けてはいられない。一方アスタークリークも不自然さを覚えていた。フォーチュンクローの口ぶりは明らかにこのジツ…ヤブリ・ジツを知っているようだった。自分にだけ許されているはずのこの偉大なる破壊の力が。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」横に回避!だが脊椎に感覚の乱れ!バランスを崩しかける!「イヤーッ!」「グワーッ!」銀色の金属光沢を纏う裏拳!咄嗟に左腕でガードするも肘から先が粉砕!強化骨格が形を留めぬ凄まじい破壊力!そのモーションとは明らかに不釣り合い!そしてアスタークリークは右腕を掴む!そして銀色の金属光沢を流し込む!「グワーッ!」
アスタークリークはフォーチュンクローが爆発四散すると確信した。だが粉砕したのは腕だけだった。流し込まれた直後、腕を切り離して致命的なヤブリの破壊が急所に及ぶのを防いだのである。「何!」「イヤーッ!」「グワーッ!」すかさずの回し蹴り!だがアスタークリークには余りダメージは通ってないようだ。
(やはり俺じゃ無理か!)ヤブリ・ジツを使われた時点でそもそも自分では勝てないと解っていた。ゆえに負けないように戦うことにした。そもそも何故そのような行動ができたのか?当然、ヤブリ・ジツを知っているからだ。ゆえに最適に近い状況判断ができたのだ。勿論このまま殺されるために時間を稼いだのではない!「イヤーッ!」「グワーッ!」ナイトシフトのトビゲリ・アンブッシュだ!だがダメージが軽い!「ドーモ、ナイトシフトです」「ドーモ、ナイトシフト=サン。アスタークリークです」
フォーチュンクローは倒れてナイトシフトのイクサを見守る。今の一撃で殆どダメージを与えられなかったことはナイトシフトにとっては痛手だった。フォーチュンクローとカラテでも殴り合える手合い、まともに戦うのは不利!「イヤーッ!」「イヤーッ!」だが先ほどのようにナイトシフトはバカシ・ジツによるカモフラージュをしない。
これもヤブリ・ジツの性質を知っているがゆえである。ジツやテック、改造などによって生じる不整合や構造的脆弱性、不安定さに入り込み破壊するという残虐な破壊のジツ、それが正体だ。迂闊にジツを使いそこにヤブリ・エンハンスを伴った攻撃を受ければ全身に破壊が迸る。ナイトシフトのジツの規模では致命的なダメージにはならないがそれでもリスクが大きすぎる。
「イヤーッ!」低姿勢からのニンジャソード斬撃!「イヤーッ!」跳躍回避!だがここまでは予想通り!「イヤーッ!」アスタークリークの死角へ跳躍!振り向いてスリケンを投「イヤーッ!」「グワーッ!」死角に入り込もうとした動きを察知したアスタークリークのソバットが命中!そのまま着地しワン・インチ距離に突撃!
「イヤーッ!」「グワーッ!」ガードが間に合わない!「イヤーッ!」「グワーッ!」だが攻撃の反動を利用してワン・インチ距離から離脱!ワザマエ!だが状況はジリー・プアー(徐々に不利)!いかに打開するか?ナイトシフト、フォーチュンクロー、共に有効打を通せていない。ナイトシフトは焦っていた。「そこまでだ!」

部屋の入り口には傘を被ったハカマ・ウェアのニンジャ…アンディフィナイトが立っていた。その歩みからは圧倒的なニンジャ存在感が感じ取れた。「ドーモ、ワイルドネス・ドージョーを代表してアイサツしよう。ウツシ・ニンジャです」「ドーモ、ウツシ・ニンジャ=サン。アスタークリークです」
「お前がアスタークリークか。話は聞いたぞ。しかしクラン同士のイクサとは懐かしい気分にさせてもらったわ」ゆっくりした仕草を交えてアンディフィナイト…ウツシ・ニンジャは語る。「ラプター、サンドウォーム、デスシックル、スティンガーショット、カーバイド…」「奴らがどうした」「ふっ、等しく我がカラテの障害に非ず」「所詮加護のない無神論者に栄光はないということだ」アンディフィナイトは鼻で笑う。「加護だかなんだか知らんが与えられたものに頼ることおいてお前も同類よ」「何だと」
「さあ…来るがいい」うつろいなき力を感じさせるアイキドーを構える。「イヤーッ!」銀色の金属光沢を纏った腕が襲いかかる!「ほう?」アンディフィナイトはそれを柔らかく受け止め、天井へ投げ飛ばす!「イヤーッ!」「グワーッ!」ヤブリ・エンハンスは何の破壊ももたらさない!
「な、なんというカラテ…」ナイトシフトは驚嘆した。思えば初めて敵とイクサをするアンディフィナイトを見るのだ。親しみやすいアトモスフィアの下にこれほどまでのカラテを隠し持っていたとは!
「まあ、多少はまともなのは認めるが…誤差の範疇よ」アンディフィナイトは退屈そうに呟く。つい数分前、彼はナイトシフトが潜伏し一人殺すまでの間に、敵のモーターガシラを一撃破壊、挑発して呼び寄せたニンジャ5名を一息に爆発四散させたのである。

「イヤーッ!」「ピガーッ!」モーターガシラはその拳一発で大きな穴が開けられ、力なく倒れた。「面白いからくりだな。妙にカラテもある。持ち帰れば喜ばれるか?」殺戮機械を前に軽妙な物言いである。「そうだ、通信を…む、置いてきてしまったわ」
仕方ないので周辺を探知することにした。何かが起きているのは間違いなかろう「…ほう、これはクランへの攻撃と見ていいだろう」ニンジャ存在感、10ほど。基本的に政治が絡むことに興味のないアンディフィナイトであるがこれ程までの攻勢に出られてはこちらも受け答えるのが礼儀。ましてや飯を取られるなど許しがたい。「さて…カラテを振るうとするか!」

「よし…お前ら、行くぞ!」「「「ハイヨロコンデー!」」」
モータル、戦闘兵器よ軍勢、サクモツ協会の本軍のうち片方を率いるのはラプターというニンジャであった。ナイトシフトが向かった先は陽動、しかしニンジャであれば無視するわけにはいかぬ。
陽動は成功した。ならばあとは蹂躙すればいい話。攻めきれなくても援軍がいる。失敗するはずはないのだ。「ラプター=サン、誰かいます」「む?」行く手を遮るように笠を被ったハカマ・ウェアのニンジャがいた。「キツネミミのニンジャだろう。この数で負ける心配はない。撃て!」「「「シャオラー!!」」」武装したモータル達が一斉射撃!アブナイ!
だがそのニンジャは少し体を動かしただけで全て避けてしまった。タツジン!「ヌゥー!」ラプターはその凄まじいカラテを感じとる。「ニンジャだけ来い!奴はただ者ではないぞ!」「ヨロコンデー!」そうしてニンジャが飛び出してくる。笠を被ったニンジャは不敵な笑みを崩さない。「ドーモ、サクモツ協会です」ラプターが代表してアイサツした。「ほう、やはりクランによる攻撃だったか」どこか勘違いしている様子のニンジャがアイサツを返す。「ドーモ、ワイルドネス・ドージョーを代表する。ウツシ・ニンジャです」
相手の多さを見て首を動かすウツシ・ニンジャ「カラテで相手してやりたい所だが…気が変わったわ。俺のジツを見せてやろう」彼は笠に手をかけて空中へ投げ飛ばす!現れた顔は…タヌキではなく…いや顔から下さえも古のニンジャを思わせる所々金属で補強された褐色のニンジャ装束の男!
「壊し甲斐のあるやつから来い」その声、仕草、カラテ、まるで別人!「イヤーッ!」ニンジャのうち一人、スティンガーショットがヤリで突撃する!「イヤーッ!」強烈な踏み込みからセイケンヅキを放つ!「グワーッ!」あまりの衝撃に胴体が分断!な、なんという威力!!スティンガーショットは空中で爆発四散!「ササエ!」彼の取った姿はササエ・ニンジャ。古の怪力ニンジャである!
空中に飛んだヤリをキャッチするその姿はササエ・ニンジャ…ではなく背中に旗を差した武者鎧のニンジャ!「久々じゃのう!首はどこじゃ?」演舞をしながらそのニンジャは間合いを詰める。「残念だが落ちるのはお前の首だー!」サクモツのニンジャ、デスシックルがカタナを構えて突進!「お前か!イヤーッ!」武者鎧のニンジャは空中に飛び上がり急降下!「イヤーッ!」「グワーッ!」脳天から全身を貫かれデスシックルは爆発四散!「ハテン!」化けた姿はハテン・ニンジャ!彼の急降下を生かしたヤリのワザマエは幾多のニンジャをこのように脳天から貫いたという!
武者鎧のニンジャはヤリを地面に差し、落ちてきたカタナを掴んだ。その姿は着流しのワーウルフのニンジャ!「雑なワザマエだ。刀が泣いている」「何処を向いている!イ…」地面から飛び出したサンドウォームは既に頭から胴体にかけて二分割されており、攻撃を放つことなく空中で爆発四散した。ワーウルフのニンジャは既にカタナを振り抜いてサンドウォームを斬っていたのだ。タツジン!「コロウ!」この姿はコロウ・ニンジャ。バカシニンジャ・クランのアーチニンジャであり、諸国を放浪していたイアイドーのタツジンである。
ワーウルフのニンジャはヤリを拾い上げる。するとヤリは緑色の燐光を纏う。持っていたカタナをつがえてまるでユミめいた備えである。「もぐってるのしってたもんねー!」それを持つのは薄汚れたワーキャットの女ニンジャ。「もうまってあーげない!」緑色の燐光の弦が引き締められ、カタナを矢めいて放つ!狙われたニンジャ…カーバイドは避けようとブリッジ回避を「アバーッ!?」矢が速すぎる!「サヨナラ!」心臓を貫かれて爆発四散!「リサイクル!」この姿はリサイクル・ニンジャ。若きリアルニンジャでありガラクタを組み上げて武器や道具にしてしまうユミを扱うニンジャだ。
「さあどうした、ラプター=サン。俺はここにいるぞ」ハカマ・ウェアのワータヌキの姿だった。ウツシ・ニンジャの本来の姿である。ラプターは既に悟っていた。とても勝てるような相手ではないと…「さ、下がれ!逃げろ!」だがウツシ・ニンジャは襲撃したニンジャをみすみす逃がすほど甘くはなかった。既にその手にはスリケンが握られ、野球の投手めいたフォームで背中を向けたラプターに投げ付ける!「イヤーッ!」「グワーッ!」スリケンはラプターを貫き、ラプターは爆発四散した。先に投げた笠がゆっくりとウツシ・ニンジャの頭に戻り、あるべき場所へ着陸した。それほどに短い時間のイクサだった。

「アイエエエ!!」「おい、聞きたいことがある」転んだモータルの一人に話しかける。「他にニンジャはいるか?」「ア…アスタークリーク=サンが…会長が…」「よし、どこへでも行け」ウツシ・ニンジャは残虐行為に興味は無い。カラテは脅威に向けてこそ強く美しい。それが彼の信条であった。彼は周囲のニンジャ存在を探知すると迷いなく走り出した。

「ヤブリ・ジツを扱うには余りにも遅いカラテよ。偽物が本物を越えることはあるが…」アスタークリークはウツシ・ニンジャを見下ろした。そこには菖蒲色の長髪の銀のワーキツネがいた。「ヤブリ・ジツを加護と表現するのは訂正させていただこう。イヤーッ!」「グワーッ!」
(アンディフィナイト=サン!何故!?)ヤブリ・ジツの持ち主相手にヘンゲをするなど自殺行為!だがウツシ・ニンジャは解っていてそれをやっている。それはジツやワザマエを編み出した者へのリスペクトが理由であり、ヤブリ・ニンジャが修行の末会得したヤブリ・ジツを貰い物という表現をしたシツレイを本人に代わって怒る為である!
「イヤーッ!」「グワーッ!」アスタークリークの吹っ飛んだ先に回り込みすかさずカラテを見舞う!「イヤーッ!」「グワーッ!」それをもう一度!「イヤーッ!」「グワーッ!」もう一度!「イヤーッ!」「グワーッ!」さながらケマリのボールめいた一方的攻撃!

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

アスタークリークは決して弱いニンジャではない。だがウツシ・ニンジャはベイビー・サブミッションめいて彼を圧倒した。「これはヤブリ・ニンジャの速さではない。私とて偽物だ」アスタークリークの四肢には最早感覚は残っていない。「だが偽物はオリジナルへのリスペクトを忘れてはならない。加護?それはお前の為の力ではない」「ア、アバー…」
「何故…サツガイ=サン…無敵の…加護では…」「サツガイだと?話してくれ」「神に探りを入れるなど…冒涜…」「冒涜?冒涜を犯したのはお前だ、アスタークリーク=サン」これ以上詮索は不可能と考え、ナイトシフトに目配せをする。「…無理でしょう」「うむ。…イヤーッ!」脳天に拳を振り下ろすと、アスタークリークはしめやかに爆発四散した。「サヨナラ!」

「アリガトウゴザイマス、アンディフィナイト=サン。勝てませんでした」「うむ、後でカラテを鍛えねばならぬな」「アイエッ!?」「はっはっはっ!」ナイトシフトはジゴクを予感した。「…アー、よし、やることは済んだ」両腕を失ったフォーチュンクローが起き上がる。
「寝ながら仕事してたんですか?」「まあな」彼は被害状況と敵戦力をまとめ、避難勧告と援護の要請を行っていたのだ。「って、アンディフィナイト=サン…全部やっつけちゃったんです?」ワータヌキの姿に戻ったアンディフィナイトが答える「うむ。クランで攻めてきたのだ。それを迎え撃っただけのことよ」相変わらず何か勘違いしているが、傷ひとつなくあれほどの戦力を撃退してしまった次元の違うカラテにナイトシフトとフォーチュンクローは首を傾げたのだった。

「なんだ、ネオサイタマにも旨いトーフがあるではないか!」「…それ大豆100%ですからね…高級品ですよ…」アンディフィナイトとナイトシフトは食堂で豪華な夜食をとっていた。ニンジャ交戦手当のようなものだ。「スシもトーフも贋作ばかりで舌がおかしくなるところだったわ」「ははは…」ナイトシフトは苦笑いした。
「ところで…アスタークリーク=サンのヤブリ・ジツ。あれなんだったんですか?」「ああ、奴が編み出したものではない。だがヤブリ・ジツは本物とおよそ同じものであった」ナイトシフトは少し考えた。「…ということはあなたみたいに生きたままニンジャソウルの一部が行っちゃったとか?」「いや、そうではない。奴のニンジャソウルは…ニンジャソウルはそうだな。バカシニンジャとも全く関係ないものだが…」「?」「歪んでおった。本来の形ではなくなっていたのだ」
「サツガイ…」アスタークリークが口走ったその名前が気になる。おそらくその男がなんらかの手段でヤブリ・ジツ…まだ産まれて間もないジツを授けたのだ。「知ってます?」「知らぬ。まあ調べ事はシルバーフェイス=サンに押し付けるとさて、それよりもこのオヒタシを食ってみろ。旨いぞ」「ああ、はい…」シルバーフェイス=サン、またあなたの仕事が増えそうです…ナイトシフトは心の中で謝罪した。
ナイトシフトのIRCにメールが着信した。フォーチュンクローからである。ナイトシフトはニヤニヤして中身を見ずメールをゴミ箱に入れた。


「俺の分のトーフも残しといてくれぇー!!」「わー!接続してるから騒がないでー!」「グワーッ!」
ルナダンサーの修理がわざとゆっくりしているように感じられるフォーチュンクローだった。

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