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ガールズケイリンの今後を考える際の注意点・前編【令和競輪どうしましょ3】

競輪界はファンの意見を免罪符にしがち

1964年まで存在した競輪の女子戦が2012年7月に復活し、ガールズケイリンと名付けられました。2023年10月執筆時点では復活から12年目ということになります。そんなガールズケイリンは今年からG1レースが3開催誕生し、ようやくグレード化の第一歩を踏み出しました。着実に発展へ進んでいることは喜ばしいことです。

ただ、まだまだ課題は多いといえます。X上ではガールズケイリンの改善案が日々ポストされているのは、それだけ興味が拡大しているという意味では喜ばしいのですが、残念ながら現状の理解が深くないようなものに多くの賛同が寄せられていたりします。放っておけばいいのでしょうが、競輪界はことあるごとに「ファンの意見を(精査もせず)聞いておいて手を打つ」ことをします。一見良いことに聞こえるでしょうが、悪く言えば「ファンの声を聞いて実施したんだから結果がどうあれファンのせい」となることが多いのです。そうやってB級廃止や記念の改悪などが起きました。

話がそれましたけれども、今回の記事での目的は、ガールズケイリンの発展を願う上で前提として知っておいたほうがいい情報を整理しておこうというものです。

選手数の問題

2023年10月8日現在、ガールズケイリンに登録されている競輪女子選手数は192名です。以下は昨年の資料ですが、2021年までの女子選手数推移になります。1年で約13人増のペースです。

第17回 産業構造審議会 製造産業分科会 車両競技小委員会 資料3 女子レースの展望 P.3②より

ちなみに選手養成所への入所者はもっと多く、初年の36名を除き毎年約20人です。2023年1月に発表された合格者数も20人でした。そして直近の応募倍率は2倍台前半です。入学が約20人で増加が約13人というのはなぜかというと、代謝が1年で6人(前期後期3人ずつ)いるというのと、代謝以外での引退や、養成所を卒業できない人があわせて年平均1人いるということです。

第17回 産業構造審議会 製造産業分科会 車両競技小委員会 資料3 女子レースの展望 P.3①より
第17回 産業構造審議会 製造産業分科会 車両競技小委員会 資料3 女子レースの展望 P.3①より

小委員会では「今後も有望な選手を確保するためには、職業としての魅力向上及び競技者の裾野を拡大する必要がある」としていますが、重要なのは太字化されていない前半部分の「今後も有望な選手を確保する」のほうです。

合格者数を増やして選手数を増やそうにも、受験者が増えなければお話になりません。そういう意味では合格者数も受験倍率が横ばいである以上、選手の増加を加速させることができていない、ということになります。

次は開催についてのデータを見ていきますが、選手数は開催の柔軟性をもたせる上で必須なのですが、先に結論を書いておくと、現状の選手数では開催やクラス分けに多様性をもたせることはほぼ不可能です。Xでよくみる「レース数を増やした方がいい」「クラス分けをしたほうがいい」「ガールズG1の前座いらないから全部G1トーナメントにしろ」というのは、この後説明しますが、今それをやると確実に歪が出ます。

よく勘違いされるのですが、私はレース数増、クラス分け、前座なしオールガールズG1は全部賛成です。しかし「今の選手数ではできないorやってはいけない」ので時期尚早である、と言いたいのです。そして、これらのことを実現させるためには現状の選手数増加ペースのままでは10年以上先の話になってしまうことを、この後説明します。

「1開催2Rでほぼ毎日」が基本の開催状況

今年からG1が3開催創設されましたが、それ以外の開催での大半は1開催2Rを、男子の開催に「入れる」形で現状のガールズケイリンは開催されています。

そして、ガールズケイリン唯一のクラスであるL級の平均あっせん回数は2023年9月を見てみると2.16回です。これは男子S級の2.21回やA級の2.32回と比較してもほとんど差がないことが下記の表でわかると思います。

JKA 広報KEIRIN 競輪第186号(2023年9月30日発行)より

わかりやすくいえば、現状のガールズケイリンは今の選手数と開催数であれば、男子とかわらない斡旋バランスを2R制で保てている、ということになります。そして、開催数的にもほぼガールズケイリンはどこかで開催されています。

つまり、現状はガールズケイリンの選手増加にあわせて開催数を増やすことで、男子と変わらないあっせん回数を維持しています。別の視点になりますが、女性選手用施設が整備され、開催ができる競輪場の増加と開催数増をリンクさせることで、現状は女子選手の増加を開催数(対応競輪場数)で現状は吸収できているのです。

ただ、もうガールズケイリンが開催できない競輪場はほとんどなくなりました。女性選手用施設はまだまだ男女共用が多いなど完全ではありませんが、ガールズ開催ができていなかった競輪場は小松島競輪場だけだったのですが、2025年2月17-19日に小松島でミッドナイトG3がS級7R+L級2Rで開催されることがすでに発表されており(keirin.jp 2024年度GIII等開催日程の決定より)、来年度のどこからかあたりでL級開催が始まる見込みであり、つまりガールズケイリンが開催できない競輪場は来年で存在しなくなることになりました

とても喜ばしいことですが、逆をいえばガールズケイリン対応場が今後増えることはもうない、ということになります。選手は毎年約13人増えていきます。この13人という数はだいたい1開催分ですね。つまり、今後は1競輪場あたりのガールズ開催数か、レース数を増やさないと、L級のあっせん回数は維持できなくなることになります。

1開催のレース数を増やすときに考えなくてはいけないこと

とはいえ直近数年レベルでは開催数増の微調整で済むでしょう。ただ、それなら「ガールズを3R制にできないか」という意見が出てきます。ですが、これは別の面で難易度が跳ね上がります。

それは男子開催との兼ね合いの問題です。

先程、ガールズの開催は男子の開催に「入れる」形になっていると解説しました。

★12R制
A級6R+S級6R ⇒ A級5R+S級5R+L級2R
チャレンジ5R+A級7R ⇒ チャレンジ5R+A級5R+L級2R
★9R制(ミッドナイトやモーニング)
チャレンジ4R+A級5R ⇒ チャレンジorA級7R+L級2R

こんなふうに入れる形になっています。ですが、これをL級3Rにした場合、どうなるでしょうか? 9R制のほうは男子1クラスの開催に入れる形なので影響が少ないですが、12Rのときは男子2クラスのどこかで4R制をやらねばならなくなります。9R制のときにチャレンジ4R制は存在していますが、上位クラスの開催で4R制をやると、準決勝3R制を維持しようとなると初日が甘くなり、準決勝2R制にするとこんどは普段の基本が崩れてしまいます。

一応の対応策はあります。L級3R制をツイントーナメントで、つまり2セット入れて6Rにしてしまうことです。そうすればSorA級6Rに並んで入れることができます。

ですが、これを標準とするのは簡単なことではありません。いままでにガールズケイリンの開催の3倍ものあっせん数を1場で消化することになります。現状でほぼ毎日どこかでガールズケイリンを開催できてたものが、おそらく現状の選手数とあっせん回数では不可能になるのです。

いずれにせよ、ガールズを開催できる競輪場は先程説明したとおり、もう増えませんので、あっせん回数やガールズの開催をほぼ毎日維持するためには、3R制にするだけでもガールズの選手数は現状の1.5倍に、対応策のツイントーナメントでやるならば3倍に増やさねばなりません

そして、2023年10月8日現在、ガールズ競輪に登録されている競輪女子選手数は192名でしたので、これが現状の1年13人増加ペースで1.5倍になるには7.38年後、3倍になるには14.77年後までかかります。

たった1レース増やすだけ、と思うかもしれませんが、1.5倍だと考えれば、簡単な話ではないことがわかってもらえるかと思います。そして、今すぐに3R制を基本とした開催を組むことが非常に難しいこともわかるかと思います。

後編の予告

長くなりましたので、前後編に分けようかと思います。後編では
・代謝をやめれば選手が増えるのか
・クラス分け問題
・オールガールズクラシック前座問題
を含めて書こうと思います。

……っていうか配信ではこんな話何回もやってるので、気になる人がいたら配信見に来てくれ。

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