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競輪がJRAに情報面で圧勝していた時代の記録

2017年4月6日。



実はこの日は『日本最大のスポーツ情報が消滅した日』である。2017年4月5日一杯をもって、競輪公式データビュワーソフト「競輪見太郎」の提供終了、およびビュワーに使用する情報ファイルの提供終了となり、翌6日から競輪の情報はサイトに公開されているものを見るしかなくなったのだ。



ビュワーソフト「競輪見太郎」で閲覧できたものは、現在Keirin.jpでほぼ提供されているため、ほとんどの競輪ファンにとっては問題とはならなかった。なんだ、ビュワーソフトの提供終了じゃないか。サイトで同様のものが見られるんでしょ、と思った人は、提供終了されたもう一つのものを見落としている。



情報ファイルの提供終了だ。この情報ファイルが実はお宝の山だったのである。この情報ファイルには、競輪見太郎の閲覧には使用していない「ほぼ全て」が詰まっていたのである。



ファイルの中身はカンマ区切りのCSV形式。記憶している限りでも、レース結果ならば時計情報だけでも全選手のラスト1周半、1周、半周時計に、レース全体の時計にレース残り2周と1周の時計。着差に獲得賞金、制裁情報、天候、風速、さらにはG2以上であれば初手からの周回位置情報などが入っていた。



選手マスタを見れば、全参加レースの成績と獲得賞金、競走得点、制裁情報などが入っていた。つまり、これらを全てを取り込むDBを作成すれば、誰でも競輪の成績を管理・閲覧どころか研究することが可能だったのである。



なにより、これらが全てタダだった。JRAが提供するJRA-VANは有料である。そして競輪のレース数はJRAの比ではない。あらゆる日本のスポーツ全てを考えても、競輪の情報となれば「日本最大」を名乗ってよい規模であり、ひいては「日本最大のスポーツ情報」であると呼んで差し支えなかったのである。



ただ、このファイルの仕様は公開されておらず、どのカラムに何の情報が入っているかは競輪データ派にとって各自の独自研究対象となっていた。恐らくではあるが、このデータファイルの正体は車両情報システム(※1)からエクスポートされたもので、競輪見太郎では一部だけ表示させるようビュワー側で制御していただけである。

(※1…競輪の成績や車券の発売票数など競輪にまつわるデータの全てを管理するシステムのこと。ちなみに昨年発生したシステム障害は特別昇級した選手の更新処理が実質2日かかる仕様であることを把握せず、特昇翌日に昇級後の斡旋データを流し込んだため、夜間日次処理後、翌日発売開始から処理が無限ループを起こして異常終了したものだった)



競輪見太郎のために必要な情報だけをエクスポートするプログラムを作る気はなかったようだ。そんなシステムを開発するのが面倒だったのであろう。



つまり、このファイルをもって競輪情報を提供をしようと考えていたものではなかった、ということだ。これが結局、競輪見太郎廃止とともにファイル提供もやめてしまうという意識に繋がっていると考えられる。だが、この判断は最悪だ。ビッグデータが大事にされ、競馬ではデータを基にした新しい予想法がどんどん発明されていく。ネット投票もどんどん普及し、よりデータを扱うことに価値が生まれる状況のなか、競輪は取り残されてしまったのである。

ほぼ車両情報システムを使ってできたいろんなこと

現にこのデータファイルを使って競輪データ派は色々なものを作っていた。あるものは既存の専門紙情報の低質さに呆れ、自ら専門紙を無料で公開した。ほとんどの競輪場で発売されている専門紙が出走表に毛が生えた程度の情報しか掲載していないなかで、関東のアオケイに準ずる紙面の全国版がネットで無料で手に入ったのである。



またあるものは、違反点状況や評価点ランキングを正確に集計しサイトに公開していたことで、選手からも期末に自らがあと何点必要であるかを知るのに使われ、また、期末勝負駆け情報として予想する側からも信頼される情報源となった。一部の専門紙が勝負駆け選手を間違って取り上げていたような状況だったのだが。これをすぐに指摘できる状況だったのである。



私は時計情報から先行選手の1周時計を集計し、これまで存在していたかった先行の距離と時計の評価を取り込んだ予想法を開発し、個人でシステム化していた。私は今ならばストップウオッチでレース映像から計測したり、赤競.netやスポーツと競輪のレース結果PDFから得られるレース1周時計から逆算したりする手間など一切いらない。公式の選手ごとの1周時計が情報として存在しているので抽出すれば終わりだったのである。



結局、これらのサイトは全て消えてしまった。残ったのはどこからデータを取ってるのかも怪しいレベルの粗末な「情報サイト」のみである。



競輪場でファン同士が「なんであの捲りを止めにいかないのか」という話を聞くたびに、データがあった当時であれば「違反点が累積で直近4ヶ月112点なんで無理ですよ。牽制で重注10点加算されたら斡旋止まりますから月末までおとなしくするしかないんですよ」という説明ができた。



結局、これらの数字的説明ができなくなったため「無気力」なのか「制約があったのか」の見分けがむずかしくなった。keirin.jpでは気休め程度に1ヶ月に一度、違反点状況の上位者を掲載しているが、月初に90点付近以上だけを掲載されて役に立つ範囲は限定的である。毎日点数は加算され、月末に減産されるのだから、こんなもの日々の違反状況を示してあとはデータ派が集計すればいいだけなのである。

競輪データ派はみな競輪を離れていった

競輪見太郎、もといデータファイルの提供が終わった2017年4月5日。競輪のデータ派たちは競輪から距離を置くことになってしまった。いくつか存在していた競輪データ派のサイトやブログはどんどん閉鎖か更新停止状態となり、一部は競馬に移ってその能力を活かしている。



今、ミッドナイト競輪では直近4ヶ月得点順に内枠から車番を振る運用になっているが、これによる初手の影響がどのようなものか、サイトから手作業で成績を取り込むのは一苦労で、なおかつ手作業によるものであるため正確性も怪しくなってしまう。結局、この競走得点順の枠番制度が良いか悪いかの評価について多くのファンは「印象論」だけで語り合うという、私から言わせれば不毛としかいえない低次元な議論に終始しているのである。データさえあれば集計して、運用前後でどうなったかが一目瞭然でわかるはずなのだから、本当に無駄な時間である。



違反点についても手作業で頑張っている人がいるが、元SEとしてはその手作業で長期間の集計をしたものに対して100%の信頼は置くことができない。そんな手順書、システム屋から言わせればゴミである。



情報が何に使えるのかは検証せねばわからない。だからこそ「要らないデータなどない」のである。データはデータ予想だけではない、運用や、ファンへのサービスにもつながる大事なタネなのである。その意識がないことは不幸でしかない。



ある実況アナウンサーもデータファイル提供終了と同時に嘆いていたことがある。選手の過去の優勝がいつ以来であったか、調べるのに昔であればデータファイルを探せば見付けられたのだが、今はkeirin.jpの12場所前の成績を開き、そこからまた12場所前までの成績を表示させ、優勝したところまで探し回るという悲しい手作業を行っている。



じつにバカバカしい。これでは競輪を世に紹介する情報すら、公式発表を待たねばならず、公式が紹介するまでもないと捨てられた記録は消えてしまうということになる。無論、世間が何かに気づくチャンスもゼロだ。



データが何に使えるか、それは運営側が決めることではない。データが何かに使えるかもしれないから示すのが運営側のやるべきことなのである。車両情報システムは今年から次期システムの開発が始まり、過去データを流用する形であることがわかっている。公開は2022年だ。このときにデータの公開をしないようであれば、競輪はもはや最後のチャンスを失って衰退すると思っている。もう4年経ってしまった。



今はちょうど次期システムの設計段階だろう。今、声を上げるべきなのである。成績や獲得賞金、違反点がファンに示されていない状況がいかにマズいことなのか。もしJRAで騎手の制裁情報やラップタイム、総賞金が非公開になったらどうなるかを想像してほしい。そんなバカな話はないだろうと大騒ぎになるだろう。



競輪はそれが4年続いている。そして、騒ぐなら次期システム開発中の今である。

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