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本来レース映像はフリーであるべきではないか

 昨今の生配信界隈ではVtuberとともに同接数を稼いでいる分野がある。それはボートレースの配信である。ほぼリアルタイムで生配信のランキングをしているライブランキングZさん(https://live-ranking.com)をぼんやり眺めていればすぐわかるだろう。レースのない深夜以外、上位にほぼ必ずどこかのボートレース中継配信が入っている

 しかし、その出演者はタレントかパチンコ・スロットライターで、雑談配信の生え抜きやボート業界の人はほどんどいない。ゲーム配信ならゲーム配信者、実況配信なら実況配信者といった専門家が出ていない生配信がこれだけ同接を稼いでいる。

 この状況に喜ぶ人もいれば批判する人もいる。私も初期は批判的であった。人を呼べる人を呼んだところで、いつまでたっても競技に理解を示してくれないと思っていたからだ。ところが、この状況が数年に渡るにつれ、演者もボートを理解してきた方が増えてきたことにより、初期にあった頓珍漢な感じではない配信が増え、現在は生配信での定番の一つとなっている。

 今となって私はあまり批判的ではない。だが、悔しい気持ちは拭いきれない。なぜなら、公営競技の配信者たちはすでに10年以上前から存在し、下手すれば今よりも多かったからである。

おおらかなニコ生で着実に土台はつくられていた

 一つのコミュニティを紹介したい。「みんなで公営競技生放送」(https://com.nicovideo.jp/community/co17470)だ。1200回以上配信していたが、現在は誰も使っていない。コミュニティができたのは2009年3月18日。私がニコ生を始めたのが2010年の3月9日なので、ほぼ1年前である。開設当時は「みんなで競艇生放送」であった。ニコ生でユーザーが配信できるようになったのが2008年12月12日なので、このコミュニティはニコ生発祥から3ヶ月後にできた大変古いコミュニティということになる。コミュIDが5桁しかないのは、その名残りだ。

 このコミュニティはルールさえ守れば誰でも配信することができる場所であった。配信者の多くはそれぞれ自分のコミュニティから配信しつつも、ここを利用することで交流ができたり、知名度を上げることができた。正確な数はともかく、当時の競艇だけでも20人を超える競艇生主が存在していた。同様に競輪にも、オートにも、そして当然競馬にもそれぞれ生主たちが存在し、活躍していたのである。

 本題はここからだ。当時、公営競技配信は通報されるとBANといって、放送を打ち切られ、コミュニティが使えなくなったりする制裁を課せられることがあった。ドワンゴからすれば「無許可映像使用」と通報されたならBANするしかない。

公営競技配信の初期にあったこと

 色々なことをした。まずは各公営競技場に問い合わせ、「黙認」であることを確認しドワンゴに伝えた。これは当時のことなので現在は違うことだけは前もって記載してきたい。テレビ・ラジオ局が管理しているJRAと、拒否を明言した岩手競馬以外でレース映像を使用した配信はこれによってBAN対象から外れるようになった。

 それでもまだやるべきことがあった。いろいろな配信をちょい見せする「ニコ生クルーズ」で公営競技配信の事情を知らない視聴者からは常に「はいBAN」「通報しますた」とコメントされ、認知の足りなさを悩む日々だった。公営競技配信がメジャーな分野にならねば、いつまで経っても視聴者に説明しながら配信しつづけねばならないし、タイトルだけで見に来ないという可能性もあった。

 ナマケットに出場した。私ともう1人ボートの生主、さらには競馬の生主と、レース映像の使用に関して(当時は)咎められていなかったことを、生主No1決定戦で多くの視聴者が集まる場で説明も兼ねて示すことで、ようやく俺たちの「公営競技生主」という存在が「ヤバくない生主」であると知ってもらえるようになった。

 さらに、そこにJLCとGambooという公営競技の企業チャンネルがニコニコに参入し、配信をするようになった。参入が発表された当時、今でも思い出すが公営競技生主の間では賛否両論だった。反対派は「俺たちの視聴者が奪われるだけ」「またBANされる未来しか見えない」という考えだった。そう考えるのも仕方ないだろう。

 私は賛成派だった。「パイを争うのではなく、広げると考えれば両手で歓迎するべきだ」と思っていた。私はさらにJLCに問い合わせた。俺たちの放送を咎めるつもりだろうか、と。答えはNOだった。JLCの配信担当者からは「共存共栄」の返事をもらったことを私の配信で説明し、この論争は終止符が打たれた。

 そう、共存共栄。いつかニコニコの大分類である「歌ってみた」「踊ってみた」「ゲ―ム」のように「公営競技」が存在することを夢見ることができる状況が揃ったことで、より配信者は増えていく一方だった。

ゲーム実況のようになりたかった

 しかし、共存共栄とはならなかった。BANされる流れにはならなかったが、反対派の生主たちが懸念していた「視聴者が奪われる」だけの結果となり、パイは広がらず、日に日に公式企業配信に視聴者を取られ、最盛期には100人は超えていた公営競技配信の個人勢は徐々に引退していくようになってしまった。

 私は積極的にJLCやGambooと絡んだ。JLCやGambooの番組に出演したり、これらの配信がトラブルで中継が止まったりした際にはリレーで間をつないで避難所配信を行ったりした。だが、売り込み続けるもののいつまで経っても、むこうからのアプローチはない。

 JLCではタレントが、Gambooでは(公営競技生主ではない)人気生主ばかりが案件をもらい出演した番組を続けた。個人勢からは導線を作ったにも関わらず、企業側からは導線を作ることを考慮してもらえなかったのだ。

 てっきり私は、ゲーム配信界隈のように、ゲームの案件ならばゲーム実況生主を呼んだりする流れと同じになるとばかり思っていた。結果、これらの放送はタレントや人気生主の力で視聴者は「その時は」増えるものの、いつまで経っても公営競技配信としてではなく、見たい演者がたまたまレースを打ってるだけの配信と成り下がり、気がつけば誰も見ない配信となって、どちらも生配信をしなくなってしまった。

 結局、続々とニコ生に限らず様々な公式配信が始まり、公営競技生主たちは只々、視聴者を奪われ、日の目を見ることがなく歳を重ね、引退が続出していったのである。当時のニコ生は配信そのもので収益をあげられる構造ではなく、人気配信者になったり、専門分野で強い配信をして認められて案件を貰うしか、配信で喰うという道はなかった。

 なにより、公営競技配信者はニコ生にあっては高齢者だった。10代20代が中心のニコ生にあって、俺たちは若くて20代後半、30代が中心だった。20歳以上でなければ公営競技は打ってはいけないのだからまず10代は基本的にいない。この配信者の年齢層が高いことが、Youtubeが主流となるまで待てなかった理由の一つでもある。歳を重ね、結婚したり子供ができたり、会社で出世したりと、収益も産まない配信を続けられなくなるタイムリミットが、普通の配信者より短かったのである。

引退したり、バラバラになったり

 ここに公営競技配信の個人勢文化はほとんど消滅したといってもいい。ニコ生も廃れ始め、Youtubeなど他で始めるものもいたが、公営競技配信そのものがメジャーになれなかったことで皆苦戦する道を歩んだ。そしてさらなる引退、引退……気がつけば、私より先輩だった配信者で今も公営競技の配信をしている人は誰一人としていなくなってしまった。

 気がつけば、Youtubeでの公営競技配信は一つの答えを出した。パチンコ・スロットライターの起用である。一部には詳しい人もいるが、ほとんど素人だらけであったが、彼らはCSやDVDでの映像作品で「打つ」番組を数多く経験しており、競技に対しては素人でも「打つ」様を見せることにおいてはプロであった。

 先に書いたとおり、私はこの流れに批判的だった。もちろん、悔しさが一番の理由で感情的な批判だったのだが、それ以外にも、それはかつてJLCやGambooがタレントや人気生主ばかりを出して、ちっとも競技を伝えず、人だけ集まる配信と何も変わりがないからだった。同じ失敗を繰り返すのか、私はそう思っていた。

 だが、全員ではないにせよパチンコ・スロットライターも一生懸命な人が多かった。彼らのホームであるパチンコ・スロットの業界が縮小傾向だったからである。雑誌は廃刊、番組は減り、新たな職場ともいえるボートレースの番組に真剣に取り組み、競技を学んで成長していく演者がそこにはいたのである。

 私も批判的な目で見ながら徐々に知識を増やし、パチンコ・スロットライターから見事にボートレース演者に生まれ変わった人を見るにつれ、認め応援するようになった。もちろん全員ではない。中にはハァ? と思う人もいっぱいいる。だが、育っているのは事実である。一辺倒に「素人が」とは、もう思っていない。

 でも待ってくれ、やっぱり悔しい。10年前、育てば立派になる配信者がいっぱいいたはずじゃなかったか。なんで今になって、パチンコ・スロットライターばかり重宝され、当時の公営競技生主にこういった扱いをしてくれなかったのだ。

 今有名な有名ゲーム実況者はほとんど私と同期である。ゲーム業界も初期はゲーム実況という分野を認めるかどうか足並みが揃っていたわけではない。でも今は「実況してくれたほうがゲームは売れる」と考え、多くのゲームがガイドラインを作成し、配信を認めている。そうやってゲーム実況者には自由競争が生まれ、有能な実況者が育ち、現在においてもゲーム配信は配信の一大コンテンツになっている。

本来レース映像はフリーであるべきではないか

 現在知っている限りでは、ボートレース大村は申請制でレース映像の使用が許可されている。私もこれに申請しており、許可を得ているため大村はレース映像を使用して配信することが可能だ。だが、このように対応してくれるレース場は限られている。かつて全公営競技場に確認をとり、「黙認」だった時代は過ぎ、大半のレース場で「映像使用は認めない」という旨を宣言している。個別に問い合わせても、ほぼ個人勢ならば門前払いである。

 数年前にYoutubeを始めて申請した配信者の一部は大村で起用されるなど、先行者利益を充分に活かして活躍している。彼らのことは応援したい。だが、今となってはそれを志したいを思う人はたぶん出てこないであろう。もう先行者利益はない。

 そもそもレース映像に権利を主張するのは個人的には間違っていることだと思っている。今やどの公営競技でも、ネット販売が売上の半分以上を占めている。つまり、レース場や場外でレースを見るよりも圧倒的にネットでレースを見て買う人のほうが多い時代になった。

 言い換えれば、レースが公正に実施されているかどうかを見る場が現場メインではなくなっているのである。今や無観客開催やミッドナイトなど、ネットでしか買えないレースも当たり前になった。ここまで来たら、レース映像は公正を示す唯一の場である。映像を見て納得し、投票券をネットで買う人たちからすれば、これらに権利を主張されることに全くもって納得はしないはずだ。もちろん、レースの合間に流れる番組に権利を主張するのはわかる。そこは流さないでほしいなどの条件は設けられても納得である。

 レース映像や展示・パドック・選手紹介など、レースを見せる部分はガイドラインを設け、自由化するべきと考える根拠は、私の都合だけではない。現在の公営競技が考えようとしている映像規制の考え方は、明らかに時代に合っていない。

 レース映像が自由化されれば、配信者の競争も生まれ、私よりも実力のある人気公営競技配信者ももっと増えるだろう。ゲーム実況のようにガイドラインを作り、自由化を節に願うのだ。これは12年この道で戦ってきた私からの、ささやかな願いだ。


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