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帯広畜産大学環境整備計画に卒業生として思うこと

はじめに ~このnoteの目的~

帯広畜産大学における「キャンパスマスタープラン」計画執行に伴う
樹木の伐採の一連の騒動は大学側と学生側の協議を経て
一部プロセスや計画を変更したうえで、伐採が執行されることとなった。

9/25頃、大学構内の木々が伐採されるらしいという情報から
今回の計画が広く学生・卒業生に知れ渡ることとなりました。

そこから3週間、主に学生が中心となって大学側と協議がなされ
要約すると以下のことが協議の結果として進行しました

 ・ 大学側と学生側が計画について協議をする場が設けられたこと
 ・ 環境整備計画の詳細(全体像・スケジュール)について
   大学HPなどで広く周知されるようになったこと
 ・ 計画執行に際して、再度の環境調査が行われたこと
 ・ 調査の結果、一部計画を変更して一部の樹木の保全をすること
 ・ 伐採自体は中止せずに執行されること

声を上げなければ、計画の詳細自体もあまり知ることもなく執行されていたことを思うと、この3週間の間で学生を中心にこれらの変化をもたらしたことは大きな進展であったと個人的には思っております。

特に学生代表を中心とした在校生のパワーには
卒業生としては誇りに思える行動だと思っています。

既に計画は執行フェーズに入っており、
10月16日より計画に基づいた伐採が開始されました。

https://kachimai.jp/article/index.php?no=517296

今回の経緯を踏まえて、
・ 議論のポイントがどこにあるのか?

を個人の考えの下で整理した。
今回の計画に関しては「大学の法人運営」「予算と執行の関係性」
「野生動物保護の視点」「樹木管理の視点」など多くの意見があり
そのそれぞれについて評することはここでは避けることとします。

また個人としては感傷的になってしまう点もあり
どこまで客観性を持ってまとめられるのかは不安ではありますが、
自分としては「大学のステークホルダー」だと思っている
卒業生の一意見としてご覧いただけますと幸いです。

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出てきた意見を4象限で整理する

「畜大の杜を考える会」のFacebook グループでは
様々な経験・知見を持つステークホルダーから様々な意見が寄せられた。
また、ここに書くことができない人たちの間にも多様な意見があると思われる。

「大学の法人運営」「予算と執行の関係性」
「野生動物保護の視点」「樹木管理の視点」

全てを書きだすことは出来ないが、
これらを違った視点で整理をしてみようと考えた。

4象限にまとめる上で大事になるのが2軸(Y軸・X軸)をどう定義するかだ。

様々な視点がある中で、今回は大学が特に重要視していると言ってきた

「安全性」

の視点をまずは第一軸に
それ以外の理由を第二軸に持ってきた場合の取るべきアクションを整理した

図1:畜大の樹木伐採の理由整理の図

画像1

このマッピングの結果どういう対応になるのかをまとめたのが図2である

図2:マッピングと対応の例

画像2

(左上)安全性が低ければその他の理由を問わず伐採すべき

という視点もあると思うが、後述するように安全性の基準が絶対的では
ないと考えたので、ここではあくまで「可能な範囲を探る」に留めた
なので、ここは「伐採してはいけない」ではないことは事前に明記します。

恐らく今我々はこの4象限の基準のバーとなる
Y軸・X軸の基準で揺れている。
この基準のコンセンサスが大学やステークホルダー間で取られていないと
学生・卒業生・他ステークホルダー間で物議を醸していると考えている。

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第一軸 安全性

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「安全性の観点から伐採せざるをえない」
計画の遂行にあたって大学が最も言い続けてきた理由である。

安全性の軸がどのように定義されるかを考えた。

① 樹木そのものの寿命/状態によって作られる安全性
② 樹木を取り巻く環境によって作られる安全性

① 樹木そのものの寿命/状態によって作られる安全性

これは比較的難しい話ではない
人間においては主に

「呼吸の不可逆的停止」
「心臓の不可逆的停止 」
「瞳孔拡散(対光反射の消失)」

が挙げられ、医師による死亡診断を持って「死」とされる

よく遭難等で「心肺停止」と書かれるのは
上記の死亡の条件を満たしているが、医師による診断がなされていない
状態を指していると言われる。

近年は「脳死は人の死か」といった議論により
この基準はその時代によって変化はするものの、
樹木(単体)としての寿命/状態はこれらを専門とする人によって
診断されれれば良いことと考える。

② 樹木を取り巻く環境によって作られる安全性

これは樹木自身の問題以外の、
樹木を取り巻く環境によって変化する要素である。

例えば、
人や車も来ないような環境にある木と
人や車の往来があったり、建物の近くにある木では
同じ樹木の状態でも安全性の位置づけは異なる。

また、近年は地球環境の変化で
大型の台風が北海道で猛威を振るったことは記憶に新しいことだが、
そういったことでこの安全性の基準も変化する

現在並びに近しい未来において、求められる樹木としての安全性の基準は
樹木そのもの寿命に比べると曖昧で設定する人の基準によりけりな
要素が強いと思われるが、ポイントの一つは「バランス」であろう。

あらゆる危険を取り除く(それによる副次的な影響は全て排除すれば)
全ての木を伐採すればいいが、それは過度な対応ということは
そこまで意見の相違はないと思われる。

そのバランスを考える上で畜大の杜を考える会でも、大学構内の樹木は
「森・杜」なのか「街路樹等に近い”作られた空間”なのか」
といった議論もあり、その位置づけによっても安全性の基準は変わってくるであろう。
このあたりもしっかりと関係者の間で意見を交わした上で
計画を練るべきだと思っているし、それがどこまで話し合われているかについては少なくとも私は計画からは見えてきていない。

ただ、少なくとも

可能な限り事故はあってはならないが、過度な対応は好ましくない

これが「樹木そのものの寿命・安全性」に加えて
この安全性のバーを上下させる重要な要素という視点自体は
そこまで関係者の間で大きな相違が発生する要素ではないのではと
個人的には考えている。

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第二軸 (安全性以外の)伐採する理由

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この軸に関しては一つの要素ではなくいくつもの要素が出てくる
そのあらゆる観点を議論した上でこのバーが設定され
その第一軸と第二軸によって作られたマッピングにより
伐られる木と伐るべきではない木を決めるのが望ましいだろう。

ここの要素については関係者それぞれの大事にすることによって異なる。

ただ、そういった中でも比較的コンセンサスが取りやすい例としては

(その木が存在することが)甚大な悪影響を与える

といった理由である。

例えば
 ・ 特定の種の存在自体が他の種の生態を脅かしてしまう

といった例である。

① 存在すること自体で問題があるものは即時的に撤去され
② 存在の仕方によっては問題がある場合は基準を設けて撤去される

例えば
①の例でいうと、人を死に追いやるウイルスなどは
この「存在すること自体が駆逐する理由」に該当することが多い

②の例は結構多く
例えばブラックバスとか中国由来のオオサンショウオとか
それこそ森における鹿なども
(外来種か固有種かといった議論は一旦置いておいて)
そのものが存在したからと言って即時に駆逐されることはないが
増えすぎたり、既存のバランスを崩し始めると駆逐されたりする。

この第二軸の設定は人それぞれである
またその基準は意見によって相反することもある。

「野生動物の生態維持」の視点では可能な限り残す方が望ましいが
その樹木の種類や生態から考えれば残さない方がいい

「畜大の杜を守る会」の意見の中でも例えば

「畜大のエゾリスにとっては大事な生活のための木であるが、
 エゾリス自体は絶滅危惧種でもないし、その餌となっている木自体が
 そもそも外来種であり、木の生態としては好ましくない」

といった意見があったが、こういった意見はまさに
人によってその木の存在意義が異なる典型的な例だと思う

この意見に対して是非を述べることはできない
ここでは人によってその基準は異なるという点をお伝えしたい

大学における(安全性以外の)伐採する理由

これは「キャンパスマスタープラン」であり
それに基づいた予算の交付と執行の期限というのが大きいと思われる。

この基準によって構成される4象限の右下にあたる

木の安全性としては切る理由は無くても
計画の遂行上は切ることが望ましい

という基準に該当する木の範囲が関係者の間で乖離が発生している。

伐るべき理由は人によって異なるがこそ

伐るべき理由を一つに統一する必要もないし
全ての意見を包含した最大公約数にする必要もないと思う。

それはどうやっても不可能だからだ

だからこそ、あらゆる意見を聞き検討する場は厚くしてほしいというのが
今の関係者の不満の一番だと思っている。

大学が目指したい計画のコンセンサスを取る場もなく
自分たちが大事にしている視点を共有する場もない
なのに伐採の基準が設定され、その基準を持って執行されている
その上で「安全性」を盾に伐採する範囲を拡大解釈しているのでは

これが多くの関係者が辟易としている要素だと考えている。

図3:伐採するために軸を動かしていないか?

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「キャンパスマスタープラン」自体は古くから計画されており
その計画の内容自体に伐採直前まで関係者の多くが気づいていなかったのは
計画を執行する側の責任もあるが、

大学の杜を大事にしていると思いながら
これらの計画に興味や危機感をもってこなかった


側にもやるべきことはあったと思っている。

以前から言っていたのに、今更計画そのものに反対されても

これは大学として感じていてもおかしくない感情だと思う。


ただ、今はその計画による合理的な範囲の拡大(X軸の移動)だけでなく
「安全性」を旗印に過度にY軸自体も拡大しているのでは?という
疑念が関係者の間で挙がって物議を醸しているのではないかと考える。

この基準について関係者の一定の理解が得られるプロセスを
大学として踏んでいるのか。今一度環境整備計画の再調査の結果を
それぞれの視点で見てほしい。

私個人としては不十分だと思うし
大学としての計画の意義やあらゆる視点での議論の時間をもう少し取るべきだと思うし、今のプロセスはいささか乱暴なのではないかと思っている。

この視点の下で、私個人としては
既に伐採は進行しているが、まだ残っている木々も含めた
整備・伐採の意義を話し合う機会を求めていきたいと思っています。

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おわりに ~守りたいものがある、では誰が守るのか

「安全性」と「(安全性以外の)伐るべき理由」という視点で考えたときに
それに影響する要素にある一つの要素に注目しました

大学の規模・財力で維持管理できる領域
木そのものの健康状態がよくなかったこと

今回のことが起こって、私たちは大学の杜が大事だと述べる一方で
この視点でどこまで大学や杜をサポートできてきたのかという視点では
自分達のこれまでの行動に疑問を感じています。

今回の整備計画とその予算の執行を見ても
その執行タイミングでのことはよく書かれていますが、
その後どう維持管理していくのか?という視点が充分ではない印象も受けています。

また、そういった維持管理が充分に行えるだけの環境があれば
今回のような計画を立てざるを得ない状況も変わったかもしれません。

「安全性」と「(安全性以外の)伐るべき理由」のバーを右上に上げて、
可能な限り自分たちが大事にしたいものを守っていく

そのために今までできなかったこと、これからやるべきこと

口を出すだけではなく

ヒト・モノ・カネ

物心両面で支援していく必要があると思いますし、
批判だけでなく建設的な行動も合わせてしていきたい

そう思いました。
そのためにできることを考えて具体的にアクションしたい。

以上、長文大変失礼いたしました。

#帯広畜産大学 , #キャンパスマスタープラン , #十勝毎日新聞 , #畜大の杜を考える会

今回の文章は帯広畜産大学の卒業生個人としての発言であり
現在の所属等には関係ないことを改めて注記致します。

また、「畜大の杜を考える会」の意見の総意でもありません。
「畜大の杜を考える会」においてはそれぞれの思いや専門範囲を踏まえて
建設的に様々な意見交流をしている場であり、
大学の計画や伐採に断固反対し阻止するといった目的で活動している会ではないことを改めて記載いたします。

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10/22 今回とは異なる視点の考察noteを追加しました


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