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20220430 人生で四番目に辛い日 前

4月30日、午後、吉祥寺に来た。吉祥寺と言えばケロロ軍曹、といった謎の固定観念があった。もっとも、今調べたところによると、ケロロ軍曹の舞台は、正確には西東京市の方らしいが。一度だけ、C大学の隣にあるM大学まで練習試合に行った際に、オレンジ色の電車に乗って一度だけ通過したことがある駅。M大学がその標高の高さから異常に寒いことは知っているが、吉祥寺は何も知らない。降りたことすらない。

改札を出るとそこはアトレだった。改札を出たはずなのになぜもうアトレにいるんだ!?と若干混乱するが、そういえば秋葉原にもこういう出口があったな、アトレ口ってやつだな、と落ち着きを取り戻す。こういう作りにすると、確かにアトレに訪れてくれる人は多くなるだろうけど、混雑が激しすぎてスーパーにいる人々(恐らく普段使いの方々)が身動きが取りづらそうで良くない気がするのは私だけだろうか。というか、こんなところから田舎侍が出てきてしまって申し訳ない、という気持ちの方が大きくなる。

そこの改札出てすぐには、アトレ内のタリーズがある。吉祥寺らしく老若男女問わず様々な面々が、思いも思いのひと時を過ごしているのが見える。上野のように老人グループがワイワイ話している席もあれば、一人で黙々とモバイルワークに勤しんでいるサラリーマンもいる。卒論で「テレワーク推進」をやっている身からすれば、外での会社の事務作業はセキュリティ上の問題があるので、出来れば控えた方が良いと言いたくなるが、私には恐らく関係の無い企業なのでほっておくことにした。まあ、デジタルを使わなくとも隣の老人グループの大声の会話でも情報漏洩はするし、人間生活を営んでいる以上、情報を漏らさないで生きていくなんて相当難しいのではないかとも、思ってしまった。

そういえば、この前知った知識の中で「地理的に遠く離れた地域の言語同士が似ることはあっても近くの地域の言語が似ることは稀」というのがあったことを思い出した。民族移動によって遠くの地域の言語が似ることはあるが、近い地域の言語は敵対する他民族もいるので「情報漏洩」を防ぐために、わざとわからないように別の言語にする傾向があるらしい。確か。関係ない話をした。

閑話休題

それらに混じって私と同年代らしき人がいることに気がつく。黒髪で眼鏡、なぜ勉強をしているだけなのにそんなカチッとした服装をしている?というくらいちゃんとした格好をしている。そして、参考書を開いて勉強をしている。緑色の表紙、分厚い問題集に、白いテキストを添えて。恐らく、私と同じ予備校に入っている人だ。ということは、多分、同じ目的でこの街に来た人だろうな、と直感的にわかる。

明日、5月1日は都庁Ⅰ類Bの試験日である。
私は、この受験のためにこの街へ来た。
試験勉強を初めて、1年と12日目の日である。

はい、明日です

自宅から吉祥寺までは2時間近くかかるので、それならば前泊をして快適に試験へ向かおうじゃないか、という考えである。その前の週にあった某国家公務員試験へは1時間半ほどかけてM大学まで受けに行ったわけだけれども、着いた時点で相当に眠かったし、移動で疲れてしまっていたから、今回の試験は前泊代を母親が出してくれると言ってくれた時はとても助かった。から、そのお言葉に甘えさせていただくことにした。

まず宿へ行く。15時チェックイン。駅前のクソデカホテルである。特に言うべきところもないし大して記憶にも残っていない。素泊まりだし。逆に、夜ご飯と朝ご飯をどうしようか考える必要はあった。落ち着かないのでひとまず、勉強することにした。時事問題、物化生地、日本史世界史、記述の論点整理、今更ながらよくもまあ、こんなに広い範囲を出すもんだな、と思った。それを2時間半で概観し、17時半に切りあげる。実は、18時からとある店の予約をしていた。

一旦、宿を出る。駅前へ。未だに人通りは多かった。確か、寒かった気がする。こんな薄着で来なければ良かったと後悔した気がする。これら全てうろ覚えだが。まあ、うろ覚えであるこの記憶すら忘却の彼方へ行ってしまう前に備忘録的にこの話題を書き上げたかったのだから、この側面を描写できた時点で目的は達しているのかもしれない。

その予約とは、マッサージである。えっちぃのを期待とかでは無い、正当な、堅気のマッサージ店である。揉みほぐしってやつ。接骨とか整体とかでもない、もんでくれるやつ。1時間3600円とかだったかな。実際担当してくれた方は私の姉よりは母親に近い年齢の方だった。が、めちゃくちゃ力が強くてとても良かった。同系列のマッサージ店の宮益坂店のチャンネーは楽しくお話できるけど身体は凝り固まったままだったから。不意に話しかけられる。マッサージ中に話しかけられるとちょっと呼吸が辛いから実は勘弁。

「なにかお仕事されてますか?」モミモミ
「(そんな老けて見えるのか?)えと、大学生で、明日試験があるのでたまたま吉祥寺まで来てまして」
「あ、そうなんですね」モミモミ
「(...いやなんもないんかい)」

「...前に右足、なにか怪我されました?」モミ?
「(よくわかるな)はい、野球部の時に股関節の疲労骨折を」
「左右差あるので、今後腰痛の原因にも云々」モミモミ
「ハ、ハイ(なんか、ごめん)」

など。まぁ、なんだかんだ良かった。かなり解れたきがする。たまに整体に行くのだが、単純な身体の軽さで言ったらこちらの方が良い気すらする。帰り際、本心からの「また来ます」を申し上げたが、今のところ、その言葉は嘘となっている。

店を出て19時、夜ご飯を食べに言ってもいいのだけれども、先に試験会場をした見に行くことにした。私は方向音痴では無いので当日地図と格闘しながら行くのでも本当は良い。良いのだが、私は尊敬する前主将の「注意資源」のお話が大好きなので、当日の確認事項はなるべく少なくしたかったのである。

試験会場までは駅から徒歩20分程度かかる。すごく雰囲気の良い街。住みたい街ランキング上位なだけある。個人的に好きなまいばすけっともある。歩道は細いが。しばらく歩くとローソンと歩道橋があった。どちらも青い。青は心を落ち着ける色、自殺の名所新小岩駅のホームも青く塗ったとか塗らなかったとか。試験会場前の色合いとしては最高、なのかもしれない。

そこの角を右に曲がると視界が開ける。大きい正門があった。明日の決戦の地。人生が決まる場所。いや、自分で勝ち取りに行くのだから、人生を「決める」場所だなと思い返した。やる気は十分、準備も十分、やるだけやってきた。あとは、天命を待つのみ。

朝の時点で考えていた

とはいいつつ、まだ前日の夜である。まだ受験生どころか会場誘導員すらいない。また、歩いていて身体は暖かいが、まだ4月の夜である。あまり長居をしていると風邪をひいてしまう。私は宿に戻ることにした。

その帰り道、とある人と電話した。公務員試験対策の間、心の支えとなっていた人。その人の小指になりたい人。電話している途中におっさんがチャリンコで正面衝突してきた以外は特に、つつがなく会話が進む。緊張していた糸が、解ける。心が洗われる。

「私はね〜あんまり心配してないよ!」
「君が努力してきたの知ってるからね〜」
「君以上に勉強してる人はもっとほかのことした方がいい」

みたいなことを言われた気がする。ただ、そんな言葉尻を一言一句覚える必要は無いのだろう。この、人生で八番目に辛い日に、一人でいる時に、バイトの合間を縫って電話をしてきてくれたこと、この事実は変わらないのである。

4月25日以降、ほとんど誰とも話していなかったらしい

駅前の三菱UFJの前の生垣に座り込む。通りすがりの高校生のカップルの会話がうるさい。私は耳が遠いのだから、周りも少しは配慮してくれと思う。そんな雑念を抱いていたら、私と話をしている電話の主が、「そろそろ切らなければならない」旨を伝えてくる。どうやらバイトの時間が来てしまったらしい。話の流れで、「今日は消化の良いもの、うどんを食べるべき」という結論に至っていた。最後に、「頑張ります、結果は必ず伝えます」とだけ、電話を切る。○亀製麺がないことは知っていたから、Googlemapにて、はな○うどんを探す。ホテルのソバにはな○うどんを発見(うどんなのにソバなのが面白い)。食べに行く。

確か牛肉の時雨煮うどんみたいなのを食べた気がする。今考えれば、消化の良いものであれば肉を避けるべきであった。当日、お腹は壊さなくてよかった。

吉祥寺駅の南側は、The繁華街といった格好である。要は苦手である。渋谷のそれと同様、下を向いて歩いた。ギリギリ目に入ったファミマで、翌日の朝と昼の食糧を調達する。高3の時に某国立大を受験してから朝はカップスープとサンドウィッチ、昼は水と明治のチョコレート、カロリーメイトと決めている。一つ、高校時代と異なるのはカロリーメイトをフルーツ味からバニラ味に変更したことである。これは、今年の春先に「カロリーメイトバニラ味がちんすこうに似てる!」と昨日の電話の主に言われ、半信半疑で食べたことに由来している。確かにちんすこうの味がする。ジェネリック、って感じだけど。

宿に戻る。数時間ぶりではあるのだけれど、なんだか久しぶりな気がする。もう風呂に入って、寝よう。本当は今日、コーチミーティングだけども、お休みをいただいているし。今日くらいは部活を忘れて、自分の為だけに時間を使おう、と思った。

ユニットバスにお湯をためる。ユニットバスは好きでは無い。嫌いまである。清潔な場所と不浄な場所が一体となっているのが、気に入らない。一人暮らしをしたくて行き帰りの電車内、計3時間をSUUMO閲覧に費やしていた大学1年生の頃も、真っ先にバストイレ別欄にチェックを入れていた。いつもなら宿探しも大浴場があるところを探しているのだが、直前に予約をしたため、あまり宿が残っていなかったというのが正直なところである。先程のマッサージの「お姉様」に「よく水を飲んで、お風呂に入るように」と言いつけられていたので、大人しく湯船に浸かる。明日の試験会場への道順。着いてからなにを復習するか。教養問題を解く順番。専門記述の予想論点。約一年間、勉強してきたことも、その間の思い出も。浮かんでは消え、浮かんでは消え、これを3週程した頃に、もういいかなと思い、上がった。

風呂で書いた

風呂を上がるとLINEが入っていた。新一年生からの欠席連絡だった。担当俺じゃねーよ、せっかく部活を忘れられていたのに、と若干キレてしまうが、新入生に主将と主将代理の制度をいきなり理解しろってのはまあ酷な話であった。返信する。もう部活の連絡には反応しないと決めた。ちなみに、その部員は早々に退部していた。

さあ、明日が勝負だ。目覚ましを1分刻みに大量にかける。まずは何事もなく起きられることを祈念して、就寝。おやすみ。

早めに就寝おじさん

翌朝、寝違えた自分がいた。人生で四番目に辛い日の始まりである。

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