ディンギーセーリング 津波が来たらどうするか

「3.11 東日本大震災における津波からの避難報告」(TSF 東北セーリング連盟)によると、震災時に宮城、岩手、茨城で練習中だった大学生と高校生は全員避難することができたという。「地震が起こったら津波が来る」という危機意識あってこそ避難が成功したと言える一方で、港内ですぐ戻れる状態だったこと、沈艇が出なかったこと、強風ではなかったことなど、避難するうえで好都合の条件が重なっていたことも読み取れる。

もし大きな地震が起こった時、ハーバーから離れた海上で練習中だったら?操縦が難しい強風だったら?レスキュー艇の人員が少なかったら?

東日本大震災の避難例を読み、危機管理を高めなければならないと思う一方で、悪条件が重なってしまったらどうしたらよいのだろう…という不安が高まる。


ディンギーセーリング中に地震が起きた際の対応について整理してみたい。

1 地震発生後の津波到達時間
警察庁webサイトによると、東北地方太平洋沖地震(震度7)の発生時間が14時46分に対し、津波の高さおよび到達時間は以下の通り。

・岩手県宮古市 …波高8.6m以上 15時28分
・岩手県大船渡市…波高8.0m以上 15時18分
・宮城県石巻市 …波高8.6m以上 15時26分
・福島県いわき市…波高3.3m以上 15時39分

最短で32分後に津波が到達したことがわかる。

もちろん到達時に海上や港にいては助からない。大船渡の「地震発生から32分後に津波」をベースとし、高台への移動を考えると、遅くとも20分後には着艇を終え、港から避難を開始している必要がある。

2 日頃の備え
「20分以内に海上から避難し、10分で高台へ移動する」ためにはどうすればよいか。(ここでは時間を示しているが、もちろん「すぐさま撤退するためにはどうすればいいのか」が原則)日頃の備えは以下の通り。

・海上にいながら大きな地震を認知する備え
  ⇒スマホの緊急地震速報
・練習者が避難時に必要となるヨット操作を習得しておくこと。
 ⇒曳航ロープの使用、曳航時の動作、任意の場所に艇を止める、任意の方
  向に帆走する、完沈させるなど
・練習海域から最寄りの港を把握しておき、情報共有する。
 ⇒出艇ハーバーに戻るのに時間がかかるようであれば、別の港へ避難
・避難先の港から高台への最短距離・時間を把握しておき、情報共有する。
・艇を係船できる浮標の場所を把握しておく
 ⇒場合によっては練習者をレスキュー艇に乗せ避難することも考えられ
  る。その際に艇を放棄することになるが、係船浮標などに係船すること
  で艇を失うリスクを減らせる。
・錨泊用アンカーの備え
 ⇒係船による艇の放棄を選択する場合、アンカーを使った艇の錨泊も考え
  られる。


3 地震発生時の対応

(1)震度の確認⇒避難対応
 気象庁によると、地震発生から約3分後に大津波警報、津波警報または津波注意報を発表されるとのこと。また、震度速報は震度3以上で発表される。やや強い地震が発生した際には、津波が来るものだと判断し、津波に関する情報が発表されるまで待つのではなく、すぐさま避難対応を始めたい。
 もちろん震度の強さによってどれくらいの津波が来るか断定することはできないが、想定はできる。震度4以上であれば津波が来るものと考え、すぐさま避難対応をとるのが無難だろう。

(2)避難先の判断
 避難と判断したら、次は「どこに避難するのか」「艇を放棄するのか/しないのか」を判断する。考えられるパターンは2通り。

①ハーバーへ艇を曳航して避難を始める。艇は放棄しない。(津波注意報発生時)
 ※津波注意報の予想高さは1m以下とされている。
 ※「津波1mに巻き込まれた場合ほとんどの人が亡くなる」という話もあるが、かさ上げされた岸壁に波高1mの津波が到達する状況は「津波注意報」でなく、「津波警報」「大津波警報」発令時と考えられる。津波注意報発令時に死者が出るというのはあまり聞いたことがない。ただし津波注意報時にも狭い河川等では潮津波のような急流が発生するので注意。
 ※津波注意報が出た時点でリスクではあるが、艇を放棄してまで避難するほどのことではないように思う。命の危険が生じるということはとても低いように思う。どうなんだろう。

②艇を帆走により避難させる。あるいは艇を曳航、錨泊、停泊、または放棄し、最寄りの港へ避難を始める。(津波警報・大津波警報)

 最も早く避難するには、艇の放棄⇒レスキュー艇による避難
 ※強風で艇の操縦が困難な場合には、躊躇なく艇の放棄による避難を判断したい。

 艇と命の両方を守るためには、艇の錨泊・停泊⇒レスキュー艇による避難
 艇と艇を曳航ロープでつなげる、係船浮標ロープを結ぶ、または錨泊させる。その後レスキュー艇に練習者を乗せる、その後避難する。…20分以内にできるかは不安なところ。

 艇の曳航はレスキュー艇のスピードを出せないのでうまくない。


…艇と命を両方守る対応をとるのか、命を最優先にするのか。それぞれの手段により、どれくらいの時間で避難が完了するのか知っておきたいところ。練習者がまだ慣れてない頃から避難の流れを確認させるとともに、実際に避難の流れ(沈からレスキュー艇に乗り込む、錨泊・停泊する、曳航する)をデモンストレーションしてみることも必要かもしれない。
それから津波注意報のもやもやするところ…艇を放棄するまででもないと考えるがどうなのだろう。

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