いかないで

家に帰ったらインコが羽から血を出してケージの床に這いつくばっていた
私は慌ててゆっくりケージから出してそっと撫でた
けれどインコは嫌がって、バタバタと何度も飛んで離れた
飛ぶ度に羽から血が出て、至るとこに付着した
これ以上は危ないから、仕方なしにケージに戻した
ケージの床にぺったりと這いつくばって、荒い息
開かない眼
もうお別れなのだと思った
涙が止まらなかったけど、ちゃんと言いたいことは言わねば、と思った
今までありがとう
をたくさんと、インコに良く聴かせた歌を歌った
インコはうつらうつらとしていたが、歌を歌ったときだけスクっと一瞬ケージの床で立ってみせて
……すぐにまたぺったりとなってしまったけど
それがまた私の涙を溢れさせた

そこからはもう、情けない私だった

お願いいかないで
まだ一緒にいたいよ
ごめんね
本当にいい子だね
いかないで
痛いよね
ごめん、ごめん
眠たいよね、寝ていいよ
私も隣で寝るからね
でも私がそばにいるとインコは強がってしまうから
ちょっとだけ離れて、泣き疲れて私は寝てしまった
1時間くらい、そばで泣いていたと思う

夢でもインコが出てきた

もうボロボロのインコは、インコの姿を保ってられなくて紙の姿になってて
ペーパーマリオみたいなやつ
でも私が近寄ると、なんとかインコの形を保とうとしてさ
それがまた、愛しくて、悲しくて
泣きながら目が覚めた

2時間ほど寝てしまっていた

涙で上手く目が開かなくて、でもインコが気になって、アタフタしてたら
かさ、かさ、って音

……餌、食ってね?

慌てて涙を拭いケージを見たら、いつも通り餌を食べて、満足気にブランコをクチバシでつつく姿がそこにあった

びっくりした

あれ?さっきまでって全部夢?


いや、違う、至る所についた血はまだあるし、インコ自身を見ても移動はちょっと覚束無い

それでも、少なくともいつも通り餌を食べている


……聞こえてたんだろうか

いかないで、と


インコの出血は少量でもだいぶ命取りだし、特に床に這いつくばって息を荒くしている姿を最期として見た事が経験上ある

だからついにと覚悟を決めたのに


まだ、まだ、そばにいてくれるのね


夜間だから病院にも行かせてあげられなくて、しかも高齢もあるからどうしようもなくて、自分が情けなかったのに

あなたはまだ、生きてくれるのね


あとどれくらいなのかはわからない
長くない気がする

けどその生命力に、生きようとする姿に
私がどれだけ泣いて安心して勇気づけられているか


頑張って私も生きなきゃな



そんな話を、ここにこっそり残しておく
忘れたくなかったから、今日のこと

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