主のたたり(実話)⑥行事
雨が車の天井を叩きつける音で目が覚めた。
何時間寝ただろう。
あたりは明るくなっている。
すぐ横の大きな橋の上から渓を覗くと川はゴウゴウと音をたて怖さを感じる濁流だ。
「しまった」雨は大丈夫だったが、ここは乗鞍岳の麓。
濁流は計算外だった。
しかし引返す訳にはいかない。
とにかく降りてみよう、と凍った主、酒、塩を持ち現地にたどり着いた。
それは近寄るのがやっとで濁流は物凄い音と勢いで流れている。
近寄るのが怖い。
と足元を見ると目の前に直径1メートルほどの小さな凹みがあった。
そこは、なんと濁流が入って来ない透明度の高い凹みだった。
水深30センチくらいだろうか。
底には石や落ち葉がはっきり見えた。
ほっとした私は凍った主を手に持ち逃すようにしようとしたが手が滑り魚体は沈まず半分を水面に出して浮いた。
しまったと思ったが酒、塩を巻き手を合わせて、こう言った。
「ご先祖さまを持ち帰り申し訳ありませんでした」
これで全ての行事が終わった。
と思った。
⑦に続く