【私的メモ】𠮷田多麻希 「日目」展

会場風景

LAGで開催されている𠮷田多麻希さんの展示へ行ってきました。
本展は東京都写真美術館で開催中の「WONDER MT.FUJI」で展示されている吉田さんの作品のスピンオフ展です。

富士山近辺でロードキルされた動物たちに光を当て、日目(ひのめ)を見るための展示です。死んだ動物たちは、動物の種類や場所によっては、バラバラの原型がとどめる事がない状態まで損傷する姿となり、その状態を回収されたのち、ゴミとして廃棄されます。
その悲惨な姿にフォーカスする事ではなく、それを見た人の意識を考えようとする意図を持った展示です。

富士山近辺でロードキルされた動物達をダゲレオタイプで撮影された展示ですが、銀板写真だからこそできる展示を作り上げてます。
銀板写真にイメージを焼き込んだだけでなく、銀板に写り込む環境が、ロードキルされた動物たちの生きていた環境までも写しています。
壁ではなく、床に写真が設置されたのも、会場を暗くした事も、すべて計算された設計です。

壁の展示されている写真は森の写真で、ガムプリントと言う手法で印刷されています。
富士山近辺の溶岩や土を粒状まで粉砕して顔料とします。植物からは色素を抽出した顔料とし、それらをアラビアゴムと感光剤と混ぜ合わせて作られた印画紙です。
事故にあった動物たちが生息していた場所を物理的に取り込んだ印画紙で露光された像は、動物たちが生きていた環境をそのまま取り込んでいます。

何も写っていない銀板写真

この銀板写真には、何も写っていません。
しかし、そこに写るのは自分。
写真と鏡を掛けた、いろいろと見直す意味のある写真です。

ロードキルされた鹿の写真

ロードキルされた鹿を直接ダゲレオタイプで撮影したわけではなく、デジタルカメラで撮影した動物をプリントし、それを自作のダゲレオタイプのカメラで撮影。銀板は約A4サイズ(8*10に近い)レンズはイタリアの航空写真用の300mmレンズ(35mm換算で120mmくらい?)
撮影は、櫓を組んでカメラを設置し、モチーフを三脚のエレベーター昨日で上下させてピントを合わせるそうです。

動物たちが生息していた森
森の写真が写り込んだ鹿の写真

展示会場が暗いのは、銀板写真は黒が表現できないから。会場を暗くし、その暗さを反射させて黒を表現しています。

植物のタンニンの違いで、プリントの色が変わる不思議な手法
ロードキルマップ


”会場は銀盤に過去に彼らが生きた土地が写り込み、当事者でもある「人」も重なり、さらに光という要素が加わることで、相互の関係性を体感しながら、様々な読み込みができる空間になるよう考えました。人と自然の関係性は正解を導き出すことは難しいテーマです。ですが、個人が思考を認識し塗り替えていく事ができると私は考えています。そのきっかけを横たわる生き物たちが届けてくれるはずです。

目を背けたくなる物を改めて考えさせられた素晴らしい展示でした。

下記企画詳細/

営業時間:13:00–19:00 *定休日:日、月、祝日
会場:LAG(LIVE ART GALLERY)/ 〒151-0001 東京都渋谷区神宮前2-4-11 Daiwaビル1F
Opening Reception:6.12 wed. 18:00–20:00

[協力] WONDER Mt.FUJIプロジェクト事務局、KLEE INC TOKYO
[特別協力] 富士山アウトドアミュージアム、遠藤和帆、東條會館写真研究所、戸倉幸治、名久井伴久

LAG(LIVE ART GALLERY)では2024年6月11日(火)から7月6日(土)まで、東京都写真美術館にて開催される「WONDER Mt.FUJI 富士山〜自然の驚異と感動を未来へつなぐ〜」展のサテライト展示として、𠮷田多麻希 個展『日目』を開催致します。

—写真家、𠮷田多麻希の思考と表現—
生成AIやバーチャルリアリティが現実世界を侵食し、人々の共通認識、社会を動かす価値観は時事刻々、猛烈なスピードで変化している。昨今のこうした状況にあって、多くの写真家が自身の制作姿勢への迷いや未来への不安を口にする中、全く動じることなく、写真表現の可能性を信じ、論理的な思考と圧倒的な行動力で制作を展開する作家、それが𠮷田多麻希だ。彼女の揺るぎない美意識に基づく制作姿勢は、写真がその誕生から約200年にわたって継承してきた“リアリティ−”へのこだわりと「物事の核心」を徹底的に追求するストイックさによって成立している。
今回の作品は彼女の“生物観”である「人間は地球上の生物のひとつにすぎず、全生物の生命の循環によって機能する地球秩序を壊してはならない」というメッセージを色濃く反映している。本作品の制作にあたり𠮷田が採用したダゲレオタイプは、1839年にフランスで発表された実用的な写真撮影法で、銀メッキを施した銅板を感光材として用いるため、日本では“銀版写真”とも呼ばれてきた古典技法である。ただ、彼女がダゲレオを選んだのは、昨今流行りの懐古趣味などではない。人間社会の利便性のために進む開発により野生動物の生育圏が破壊され、図らずも命を落とした動物たち。その命を丁寧に弔う神聖な儀式として、ふさわしい写真技法がダゲレオタイプだと考えたからだと話してくれた。
撮影も現像も難しいこの技法での表現された動物たちの亡骸は、私たちが普段目にする写真とは一線を画した崇高な「生命の存在」として、永遠の光を纏っているように感じられる。写真表現の大前提は被写体への尊厳であることを、今更ながら教えてくれる本作品。『日目』は、『葬斂』の流れを汲む彼女の代表作として骨太なシリーズとして完結することだろう。

太田菜穂子(KLEE INC.)
本展キュレーター

Artist Statement
これは、交通事故に遭い路上に放置された生物の死にフォーカスしたプロジェクトである。血管の様に張り巡らされる「道」。
その発展は私たちにさまざまな恩恵をもたらし、社会、経済、生活あらゆる面での活動を活発化させてきた。そして、その道は、富士山麓にも無数の登山客や観光客を届けている。
華やかに賑わう富士の懐の命は、本来ならその地の土の上で命を終え、他の生物やその土地の一部になるはずだった。
多くの人々の活動と共に、多くの生物の死も生まれる。その闇に目を向けることは、私たちの生き方を知ることでもあると私は考える。

𠮷田多麻希

𠮷田 多麻希「日目」 | LIVE ART GALLERY (live-art-books.jp) より。

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