NPB入団テストの前と後 〜下〜

雨の中、先頭でエントリーをする…予定外のことが早速2つ続いたテスト当日でしたが、時間は刻一刻と"その時"に近付いていきました。

野球で生活している男達

エントリーをしてしばらく待機していると、胸に企業ロゴの入ったユニフォームの選手達が続々とやってきました。彼らは独立リーガー。紛うことなき「プロ野球選手」です。

私と同様に、早い時間帯にエントリーした選手は、社会人だけど野球が好きで、諦められなくて…という選手が多く、苦労話なんかもしましたが、独立リーガーは毎年が勝負。キャリアアップの可能性に賭けてやって来ているのです。

テストを受ける前、周囲から「独立なら受かるんじゃない?」ぐらいのことは言われていましたが、この数時間後、彼らの凄さをまざまざと見せつけられることになります。

それとだいたい時同じくして、チームのスタッフも到着しました。

高校時代、学校のグラウンドに練習を見に来ていた尾形佳紀スカウト、現役時代好きだった末永真史スカウト、大瀬良大地のクジを引き当てた田村恵スカウト…恐らく、スカウト陣はほぼ全員いたのではないでしょうか。

周りを見て感動できるあたり、精神的な余裕はあったんだと思います。


球場入り〜テスト

ほどなくして、室内練習場のドアが開き、ゼッケンを手渡されました。ユニフォームに着替え、その上から赤地に白で整理番号が書かれたゼッケンを着けて準備完了。

ウォーミングアップは苫米地鉄人トレーナーの担当でしたが、体格に驚きました。現役時代の公称は185cm85kgで、「こういう人がプロで投げるんだな」と改めて感じました。

アップは比較的普通の内容でしたが、ブラジル体操みたいなものがあり、初見で対応するのが中々しんどくて、はっきりと「コノ姿を見られたら落とされる」と思いましたが、あえて努めて堂々とヘタクソな姿を晒す(方が少しはマシと思って)ことにしました。本当に恥ずかしかったですが…


どうにかこうにかアップを乗り切って、次はキャッチボール。

一番のアピールの場だと思い、キャッチボールと言えど、ベストボールを投げるつもりでいたら、意外と制球もまとまり、不調ではなさそうな感触。

ただ、隣で投げていた、中国地方の強豪高校のエース左腕が小柄ながらキレッキレのボールをビシビシ決めていて、世の中の広さを改めて実感しました。


テスト本番 50mと遠投

とうとうこの時間がやって来ました。どちらも整理番号順なので、当然のことながら先頭です。

50mは余裕の手応えでゴール。隣で走っていた選手の足が速くなかったので、20mあたりから単走のような形になってしまいましたが、出来ることはやりました。

実際に基準(6.5秒)を切れていたのですが、反省点としては、力んで走っていたことが第一に挙げられます。ただ、逆にあの環境で力まずに走れる選手はいたのでしょうか。


続いて、ある意味鬼門の遠投。

屋内なので、肩の強さよりも回転やコントロールが求められそうな形。ハッキリ言ってめちゃくちゃ苦手です。

これももちろん先頭。

2投するのですが、最悪のデキでした。ついさっきまで余裕の表情で周りを見渡せていたはずが、力みかえってシュート回転。修正して投げたはずの2投目もシュート。ハッキリと「即時帰京」の4文字が頭にデカデカと浮かびました。

人生で最も悔やむべき1球はどれか?と聞かれたら、真っ先にこれが浮かぶことでしょう

このテストの趣旨に合致した能力の持ち主は誰か?というと、やはり捕手。50m程度の距離を丁寧なバックスピンで正確に投げる点では図抜けています。目立った選手はほとんど捕手でした。


テストを終えて

当年のドラフトの結果や、そもそもこの記事を書いている以上明らかですが、番号を呼ばれることはありませんでした。

どころか、誰も受かりませんでした。

やはり、遠投のシュート回転(と、アップで露呈した運動神経の鈍さ)がネックだったと自覚しています。と、確実に年齢。上限ギリギリの年齢ともなれば、よほどのことがなければ呼ばれることはないはずです。

とは言うものの、受けた後悔などあるはずもありません。

小さい頃から憧れた場所でプレーをする

プロの目が光る下でプレーをする

野球で生活する選手のプレーを同じ立場で見る

などなど。挙げたらキリがありません。

また、多くの球団が非公開でテストを行う中、公募制のテストを毎年行う広島球団には感謝しかありません。

帰りにスカウトの方々や球団事務所で働く方々に挨拶をして球場を出ましたが、本当に暖かなチームで暖かな土地だと感じました。

カープを応援しない日がこの先の人生で一日たりともないように、この日のことを思い出さない日もこの先の人生で一日たりともないはずです。


最後に

ここで書ききれなかったこと、ここには書けないこと…たくさんありますので、テストを受けたい…!と思いつつも、実行に移せていない選手がいるのなら、是非、受験してみてほしいと思います。

余談ですが、私は往復の新幹線とホテルがついて33000円の出張パックを利用したので、学生も少し頑張れば問題なく手が届く範囲です。

また、本気でプロになる!と思ったら、独立という選択肢も間違いではないでしょう。2回目になりますが、彼らは紛うことなきプロ野球選手です。きっと、見るだけでも良い刺激がたくさんあるはずです。

テストを受けた、という話から広がった、野球界でのいい出会いもその後たくさんありました。これも今の私にとって、非常に大きな財産です。


夢は自分から動かなきゃ叶わない

有名な言葉ですが、その通りだなーとひしひしと感じました。


ご質問、ご感想等ありましたら

Twitter(@cstrhs)のDMまでお送り頂ければ幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?