大森靖子に負けた話

私は大森靖子が嫌いだった。

大森靖子も、大森靖子を好きな女も嫌いだった。
椎名林檎の勝訴ストリップのジャケットでパロディをした時から嫌いだった。

くだらないサブカル気取りの、くだらないサブカル女に好かれる女というイメージしかなかった。それだけで反吐が出るし、聴きもせずに食わず嫌いをしていた。

銀杏BOYZの峯田和伸とコラボしたRe:Re:Loveという曲がある。

中学生の頃から聴いていた銀杏BOYZ、相手が苦手な大森靖子とは言え、聴かないわけにいかなかった。初めてまともに大森靖子の歌を聴いたのはこの時が初めてだったと思う。

毛嫌いしていた彼女の声や表情や歌詞は、ものの数分で私を突き刺した。

あの娘の水色の水着から逃げて
月へ届け 世界の出口さ
ブレーキかけたら 同じ朝踏もう

私は恐らく、この水色の水着を知っている。

銀杏BOYZの夢で逢えたらの歌詞に出てくるあの"水色の水着"ではないか。

君の胸にキスをしたら君はどんな声出すだろう
白い塩素ナトリウム 水色の水着を溶かすなよ
君を乗せた宇宙船が夕暮れの彼方へ消えて
光るプラネタリウム いっそのこと僕を吸い込んでよ

そう考えると"月へ届け世界の出口さ""君を乗せた宇宙船"に掛けているようにも思える。


大森靖子が大森靖子としてまだ世に出る前、曲を作っては面識のない峯田に送り続けていたそうだ。一方的な片思いをコラボ曲を出すまでに至らせた彼女の行動力はすごい。(彼女の推しメンの道重さゆみに関してもそうだが)

その背景があってこそ、歌詞の繋がりにより価値観を見出せる。


これも飽くまで推察に過ぎないのだが、

Re:Re:Loveというのは大森靖子が売れる前に面識のない峯田に送り続けた愛(Love)に峯田が応え(Re:)、それに対する大森靖子からの返事(Re:)という意味でのRe:Re:Loveなのではないだろうか。

二人のバックグラウンドを考えると、そんな風にも思える。

ここまで考えたときには、ただもう参ったとひれ伏すような気持ちだった。

すぐにアルバムを聴き漁り、ライブ映像を見漁った。

推しメンと二人でステージに立つ姿も、本人も最初は想像しなかっただろうと思う。

あたしの有名は
君の孤独のためにだけ光るよ
君がつくった美しい君に会いたいの

あたしの夢は
君が蹴散らしたブサイクでボロボロのLIFEを
掻き集めて大きな鏡をつくること
君がつくった美しい日々を歌いたい

どこからどう見ても王道のアイドルである道重さゆみも、大森靖子とマジックミラーを歌うだけで偶像(アイドル)ではなく実在する人間なのだと思える。歌がアイドルをも泥臭い人間に見せるのはその曲の力だと思う。


不器用で、脆くて、泥臭くて、人間臭くて、人間の奥底にある汚い部分や狂気を曝け出すように表現する大森靖子はロックの体現であり「人間」のリアルそのものだ。


ZOCをプロデュースして度々問題が起きているのも知っているが、それすら彼女の魅力だと思えるのは異常な贔屓だろうか。いや、もう贔屓だと思われても構わない。私はどんな彼女も受け入れる受け皿を彼女によって形成されてしまったのだから。それだけの呪いにも似たパワーが彼女にはある。

大森靖子さん、私の負けです。
私はあなたが好きです。

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