2.7 彩瀬まるトークイベント

彩瀬まるさんの新刊『さいはての家』のリリイベ(リリイベではない)に行ってきたので、覚えている範囲で覚えておきたいことと考えたことを残しておく。

その覚えている範囲というのがほとんど「はねつき」の話だった…。
1番好き、私の中の彩瀬まる作品像はああいう感じ。

・「嫌う」と「憎む」の違い
・植物の無秩序状態は視点人物のアンコントロール状態を表す
・「女性像」を破壊する
・つるちゃんは聖母か
・グラデーション
・逃げる理由

〇「嫌う」と「憎む」の違い
「はねつき」の話。2つの言葉に違いがあるのは当たり前に知っているけれど、その感覚を改めて言語化して説明されると、すとんと吸収される感じがする。
言葉によって受ける印象や感覚の違いを理屈的に説明する、という仕事をしているので、こういう話を人から聞けると嬉しい。

〇植物の無秩序状態は視点人物のアンコントロール状態を表す
手入れされている状態とそうでない状態がわかりやすく、視点人物の精神状況が荒れるにつれて周囲の植物が繁茂していくという話。
視点人物って一人称小説における語り手という認識でいいのかしら…?
『森があふれる』なんてまさにそうだよなあ、というか最初から植物になってしまうし爆発してたんだよなあという感じ。
私自身、名前に「樹」の字が入っているので、なんとなく自分自身に置き換えられるとも思ってしまった(名は体を表す信者)。
よく悪い感情がわさわさと茂って、手入れできないぐらいになるもんな〜わはは〜
変身譚、というか安部公房がめちゃくちゃ好きなので「デンドロカカリヤ」に通じるところもある。

〇「女性像」を破壊する
これ、これが、彩瀬まる作品の好きなところなんだよ…と思いながらウンウン頷いてしまった。
理想の女性像を耽溺する男(とは限らない)とそこから羽化するように変化を遂げる女。
「はねつき」も『森があふれる』も『あのひとは蜘蛛を潰せない』もこれ。好き。
彩瀬さんが寄稿している号の『カドブンノベル』のテーマ「その境界を越えてゆけ」、とてもしっくりくるよなあまだ買ってないけど買って帰れば良かった。

〇つるちゃんは聖母か?
司会さんの発問で出た「つるちゃん聖母」説はちょっとびっくりした。
まあ確かに愚痴をうんうん聞いてくれて、逃亡にもついてきてくれてヒモ生活を満喫して、ってなると野田さんにとっては聖母なのか、男性視点だとこう見えることもあるのか〜と思って聞いていた。

〇グラデーション
「ゆすらうめ」パートの時に出た話題。
その時は逃亡者2人の関係性に対して「白黒つけられない部分を表現したい」ということ(たぶん)を言ってたんだけど、
彩瀬さんの作品って、関係性に限らず色んな物事に対してその「白黒つけられない部分」を大事にしているから響くんだろうなと思った。
主に感情。これ、と言い表し切れないところにメスを入れて切り開こうとしてくれる。
ちょっと話は逸れるけど、『森があふれる』を男女の話として処理してしまうのに抵抗がある。
男だから・女だからよりもっと根深い(森だけに)話、それこそ白黒つけられない部分の話だと思うんだけど、適した説明が未だにできない。

〇逃げる理由
「かざあな」パートでの、読者が納得できる理由でないといけないという話。
作家さんが読者の思考を計算していることなんて当たり前にわかっているけれど、そのポイントを知れる機会によって改めて実感された。
確かに〜という感じ。


今までどうして彩瀬まるさんの作品が好きなのか自己分析しきれていなかった。
あんまり現代の作品を読まないからかと思って他を読もうと思ってもあまり気が進まなくて…
でも今回のグラデーションの話で納得した。
時には現実と虚構も曖昧になって、それでもリアルに感じるのは、これと断定できない絶妙なところを表現しようとしてくれるから、だと思う。

アンソロジー『妖し』を読んでもやっぱり1番好き!となったので、現代作家でいま1番好き。
生きている作家さんの作品をリアルタイムで追えるのがとても嬉しいので、こういうイベントには行ける限り足を運びたい。

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