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はじめて人工言語を作ってみたレポ

はじめに

こんにちは、ヘリウムです。
今回のnoteは今までの記事と趣向を変えて、タイトルを“はじめて人工言語を作ってみたレポ”としました。
そもそも人工言語とは何なのか、人工言語を作るにあたってどのような経緯をたどったのか、そのすべてをお話ししたいと思います。

一部の人は既にお気づきかもしれませんが、人工言語というものは概念自体が複雑なうえ、私は今それを事細かく説明しようとしています。おまけに、私は文章を書くのも要約するのも下手。
つまり、この記事はきっととんでもなく長く読みにくくなるということです。…どうかご了承ください。


※このnoteは、 「言葉遊びコミュニティ『p:/ピーコロン』」(→#ピーコロン)というサーバーが主催する、 #言葉遊びAdvent2023 というイベントの8日目の記事です。
12月25日まで毎日記事が投稿されるので、気になる方はぜひほかの記事もご覧ください。




人間と、言葉と、人工言語

私たち人間にとって、言語というものは必要不可欠な存在である。あらゆるコミュニケーションは、口から発せられる数十種類の音、すなわち声が組み合わさることで成立する。

日本語、英語、中国語など、世界には様々な言語がある。だがそれはいずれも、同じ国に生きる人が皆、同じ言語という共通認識を持ち、言葉を発せは意味が一意に伝わるという素晴らしい特長をもった文化だ。言語というのは、なんと素晴らしい発明なのだろうと思う。

さて、今挙げたような言語は、言語の中でも「自然言語」に分類されるものである。つまり、人間が生活していく中、長い期間を経て自然に成立した言語であるということだ。

それに対して、人間によって人為的に作られた言語のことは「人工言語」と呼ばれる。

言語の分類を表した図
一般に言われる「言語」の分類。ここに書かれていない分類も沢山ある。

※注釈:コンピュータ言語は、「機械が理解する言語」というよりは「機械語への翻訳ができる言語」を指す。イメージとしては「機械が理解する」でも間違いでは無いが、一応留意していただきたい。

「人工言語」と言うと、プログラミング言語などを含むコンピュータ言語を指す場合もあるが、この記事内での人工言語とは「人間同士がコミュニケーションを取るために作られた言語」のことを指す。要は、自然言語のようなものを人為的に作ろうというわけだ。

「なんで既に言語はあるのに自分で言語を作るの?」と思う方もいるかもしれないが、人工言語にはきちんと役割がある。人工言語は、その役割によって「国際補助語」と「芸術言語」のふたつに分けられる。

1887年にルドヴィゴ・ザメンホフによって開発された「エスペラント」は、「国際補助語」として作られた。それはつまり、世界中の人の第二言語になることを目標とした言語ということだ。
この言語は、基本的には西洋の文法を取り入れながらも、活用変化などがシンプルになるように設計されている。

2001年にソニャ・ラングによって開発された「トキポナ」は、「芸術言語」のひとつである。芸術言語はその名の通り、製作者の表現が主となった言語のことだ。
この言語は「最小の努力で最大の意味を表現する」ことを目標とおいた言語で、総単語数がなんと120個しかない言語だ。習得に必要な時間はわずか30時間で、誰でも手軽に学ぶことが出来る言語である。

様々ある人工言語に触れてみると、尖った特徴や新たなアイデアに感心することもあれば、日常生活では気づけないような既存の言語の中の気づきを与えてくれることもある。人工言語は、既知の言語に縛られない新しい視点を与えてくれるのだ。

余談だが、この「言葉遊びAdvent2023」を主催するピーコロンサーバーでは、人工言語制作プロジェクトが進んでいる。さすが言葉遊びサーバーである。

そう、言葉遊び。
人工言語というものは、最高の言葉遊びだなと、私は思った。
ならば、自分で作ってみようじゃないか。

かくして私は、人工言語という究極の言葉遊びに足を踏み入れたのだった。


人工言語を作ってみよう

単語を作る

まず私が取り掛かったものは、単語の制作。まず単語がなければ文章が作れないし、文法無視でカタコトで会話することさえできないからだ。

日本語や英語を出典として、数十個の単語を作った。以下はその一部である。

作った単語の一部。

とりあえず文法とか使う文字とか発音とかはぜ~んぶ無視して、単語だけをぽんぽんと作っていく。

最初に作った単語は「helium」。私の名前であるヘリウムは特別な単語にしたかったため、とりあえず”神”という意味を持たせた。我こそが神也。

他にも、単語に元素をたくさん絡ませたかったため、最初の方はもっぱら元素関連のワードから言葉が作られている。例えば、先ほど挙げた「helium」という単語には、”神”のほかに"2"という意味もある。これは言わずもがな、ヘリウムの元素番号は2番だからである。

同様に、リチウム由来の単語「liti」には”3つの”という意味が、「fermi(フェルミウム=元素番号100番)」や「nihon(ニホニウム=元素番号113番)」にはそれぞれ”100”、”113”の意味があてられている。113がたった1単語で表せる言語というのは、なかなかに珍しいのではないだろうか。

ただし、ベリリウム由来の単語「beli」には"4"という意味は与えられておらず、代わりに"2倍の"という意味がある。これは、元素番号がヘリウムを基準として2倍であるためである。同様に、水素由来の単語「hydi」は"半分"、つまり"2分の1"という意味になる。我ながらややこしい。


数字を作る

さて、数値に関する単語が一通りできたので、こんどは数字を作っていく。
先ほど「beli」という単語が"2倍"という意味を持つ話をしたが、このような仕様にしたのは、数字をかけ算によって表現しようとしたからである。

”数字を掛け算で表す"こと自体は珍しいことではない。例えばフランス語で"97"は「Quatre–vingt–dix–sept」( 20 × 4 + 10 + 7 ) だし、そもそも日本語だって「九十七」は ( 9 × 10 + 7 ) である。既存の言語と違う点は、この言語の数字は、それが"素数の掛け算"によってあらわすことだ。

百聞は一見に如かず、以下が私の作った数字である。

先ほど紹介した "2"、"3" に加え、"10"を表す「rikag」と"7"を表す「plutog」などを追加して数字を作った。

例えば"6"という数字を表したいなら、"3倍"を表す「liti-」に "2"を表す「helg」につけてやればいい。よって"6"は「litibelg」となる。

しかし、この方法には少し問題がある。上の表の中で、ある数字がなにか異彩を放っていることがお分かりだろうか。

belibelilehelg ("8")。"2倍"を表す「beli」を、"2"を表す「helg」に2回つけて、2 × 2 × 2 = 8 というわけだが、数字としてはあまりにも実用的でないほど長くなってしまった。これが掛け算の宿命か。

しかしこれはあまりにも長い。"888"なんて書こうもんなら、こうなる。

belibelihelg-fermi-belibelihelg-rikag-belibelihelg

なっがい。
ドイツ語もびっくりである。

ちなみにドイツ語で888は「acht­hundert­acht­und­achtzig」。「belibelihelg-fermi-belibelihelg-rikag-belibelihelg」よりはマシだが、やはりドイツ語も長い。もっとも、日本語の「はっぴゃくはちじゅうはち」も結構長いが。

これは引用ではなくただの余談

この長ったらしい数字は、後に単語自体が変わることで事なきを得た(代わりに、かけ算要素は失ったが)。


文法を作る

単語がある程度できたところで、次は文法を…といきたいところだが、実はこの言語、まだ文法構造がはっきりしていない。

なんとなくSVOかな~程度で、単語を並べてあとは読み取ってくださいという、なんともひどい言語だ。

なぜこうなったかと言えば、「文法を作る」という動作が想像の100倍ぐらい難しいものだったからである。

「私の勉強不足」と言えばそれまでだが、文法を意図的にきれいに作るという動作はハードルがあまりにも高い。

特にあの "世界一難しい言語" 慣れしている日本人が、それと同じような言語を作ろうとすれば当然行き詰まることは想像に難くないだろう。


「もっと英語を勉強してればな…」と、初めて心の底から思った。あの頃は人工言語に興味をもつなど夢にも思っていなかったが。


人工言語の魅力

ここまでいろいろありながら人工言語を作ってきた私だが、その中で人工言語というものの魅力と難しさを沢山感じた。

私が感じた人工言語の一番の魅力は、自身の思想を表現できること。

既存の言語にも言えることだと思うが、言語には必ずその形となった背景があり、それに絡む文化がある。そして、時代によって絶えず変化し続けるものだ。

人工言語は、そんな言語の歴史と思想が、全て自分の手によって作られていく。もちろん、0から全て作り上げるのは大変だ。人類が長い期間をかけて獲得してきた言葉を、私は数週間程度でつくりあげようとしているのだから(とはいえ既存の言語はあるし、文法の一般化も済んでる時代なので幾分か楽ではあるのだが)。

人工言語「シャレイア語」を制作したZiphil Shaleirasは、人工言語――特に芸術言語について、以下のように語っている。

言語を作るのって、Minecraftみたいなものだと思っていて。自由に、自分だけの世界を作れるんですよ。言語って、その裏にある世界や文化が反映されているものです。たとえば、お米文化の日本では「米」「稲」「ご飯」という微妙な言葉の違いがあるのに対して、英語圏は小麦がメインだからか、全部“rice”で通じますよね。逆に考えると、自分で言語を作ってしまえば「自分が世界をどう見ているか」を表現できるんじゃないかと思ったんです。

Ziphil Shaleiras, 人工言語「シャレイア語」の生みの親。 "QuizKnockに「ゼロから言語を作っちゃった」人がいる【鶴崎の友達】"より

私は言葉は、世の中に存在する事象を絞り込む"範囲"を意味するものだと考えている。

タコとイカ。「ゲームとかブログ」より引用。

この画像は、見ての通りタコとイカ。当たり前だが、私たちはもちろんこの2種類の魚(?)を区別し、別の名称で呼んでいる。

しかしデンマーク語では、イカもタコも「blæksprutte」。直訳すると「墨を出すやつ」といったところで、どっちも同じくくりにされている。これは、デンマークにおいてイカやタコへの関心が薄く、わざわざ区別する必要がなかったのだろう。

このように、言葉が絞り込む"範囲"は、言語によって変わってくる。そしてその範囲の広さ狭さこそが、言語の持つ歴史性であったり、文化性であったりするのだ。

先ほど紹介したシャレイア語では、「好き」を意味する単語が5つもあるそうだ。それぞれニュアンスが異なり、使い分けられるそう。
これもやはり、Ziphil氏の持つ価値観から生まれた、またひとつの言葉のもつ範囲であろう。


人工言語を作ることで、自分の思想や価値観が、文字通り言語化されていく。自分の世界が言語という客観視できる形で具現化されるというのは、非常に興味深いことであろう。

とはいえ、いきなり人工言語を作ろうとすると私みたいになるので、まずはいろんな人が作った人工言語を調べてみることをお勧めする。


"最高の言葉遊び"である人工言語に、皆さんもぜひ、触れて頂きたい。



最後に

現在私は、今回紹介した言語の改良版を制作中です。

単語や文法はスプレッドシートにまとめてあるので、ぜひご覧ください。

また、今回紹介した旧言語も別ページに載ってます。興味がある方はぜひ。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1bhjSxuQl4Bzps20jRGR3PmpIoy7XW_73wYDy59n4u3I/edit?usp=sharing


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