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手術部位感染予防のための腹部創閉鎖時の滅菌手袋および器具の日常的交換(ChEETAh):低・中所得国7カ国における実用的クラスター無作為化試験

第56回感染管理抄読会で取り上げた論文の紹介です。

論文タイトル
Routine sterile glove and instrument change at the time of abdominal wound closure to prevent surgical site infection (ChEETAh): a pragmatic, cluster-randomised trial in seven low-income and middle-income countries

書誌情報
Lancet 2022; 400: 1767–76
Published Online October 31, 2022 https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)01884-0

この論文を選択した理由
以前勤務していた病院で、SSIのバンドル対策の一つとして閉創時の手袋と手術器械の交換を提案していました。しかし、外科系医師からエビデンスがないと取り組みに否定的な意見が多かったです。それから数年経った現在、質の高い学術誌でC-RCTの内容で掲載されていたため、今後エビデンスレベルが変化するのではないかと思いこの論文を選択しました。

抄録
背景:手術部位感染(SSI)は、依然として世界中で最も多い手術合併症である。WHOはエビデンスがないため 創閉鎖前に手袋や器具を交換することを推奨していない。本研究の目的は、創閉鎖前の手袋と器具のルーチンの交換が腹部SSIを減少させるかどうかを検証することである。

方法:ChEETAhは、低・中所得国7カ国(ベナン、ガーナ、インド、メキシコ、ナイジェリア、ルワンダ、南アフリカ)を対象とした多施設クラスター無作為化試験である。参加国で腹部手術を行っているすべての病院(クラスター)が対象となった。クラスターを無作為に現在の実施群(42施設)と介入群(39施設:スクラブチーム全員が創閉鎖前に手袋と器具を交換するルーチンの実施)に割付けた。緊急腹部手術または待機的腹部手術(帝王切開術を除く)を受けた成人および小児で、準清潔創手術、不潔または汚染創手術を対象とした。研究責任医師や結果評価者を盲検化することはできなかったが、患者には介入割付けを盲検化した。主要アウトカムは術後30日以内のSSI(参加者レベル)とし、CDCの基準とITT原則により評価した。この研究の検出力は90%で、少なくとも64施設(クラスター)から12,800人の参加者が必要であった。この試験はClinicalTrials.govのNCT03700749に登録された。

結果:2020年6月24日から2022年3月31日までに、81の病院(クラスター)がランダムに割り当てられ、これには合計13,301人の連続患者(現在の実施群7,157人、介入群6,144人)が含まれていた。全体として、患者13,301人中11,825人(88.9%)が成人で、13,301人中6,125人(46.0%)が待機的手術を受け、13,301人中8,086人(60.8%)が準清潔創手術を受けた。 13,301 人中 5,215 人 (39.2%) が不潔または汚染創手術を受けた。手袋と器具の交換は、現在の実施群の患者 7,157 人中 58 人(0.8%)、介入群の患者 6,144 人中 6,044 人(98.3%)で行われた。SSI発生率は、現在の実施群では6,768人中1,280人(18・9%)であったのに対し、介入群では5,789人中931人(16・0%)であった(調整後リスク比:0・87、95%CI 0・79~0・) 95; p=0・0032)。事前に指定されたサブグループ分析のいずれにおいても、効果の不均一性を示唆する証拠はなかった。重篤な有害事象に関する特別なデータの収集は行われなかった。

考察:この研究では、腹部の創閉鎖前に手袋と器具を日常的に交換することの確かな利点が示された。我々は、これが世界中の外科診療に広く導入されるべきであることを提案する。

ディスカッション内容
 この論文以前にプロトコル研究論文が存在します。緻密にサンプルサイズの計算を行い、大規模研究としてデータを収集かつ群間の差がみられないのは素晴らしいと思います。しかし、SSIの有無のデータだけではなく、SSIの種類(表層か深部か)などのデータも必要ではないのかと感じました。また、SSIの評価者が詳細に記載されていなかったため、評価者によってSSIの発生率に影響があるのではないかと思います。
 創閉鎖前の手袋と器具の交換がSSI対策の全てではなく、術前抗菌剤の使用や皮膚消毒薬の選択など複数のバンドル対策の一つとして創閉鎖前の手袋と器具の交換を行うことは効果があるのではないかとこの論文をクリティークして考えました。

(担当:T.T.)

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