わたしとロールプレイングゲームの出会い・1

小学5年生ごろから、月刊誌『タクティクス』(ホビージャパン)を読むようになり、中学2年生ごろまで購読し続けていた。兄の影響で遊ぶようになったシミュレーションゲーム(以下、SLG)と、ゲームブックの解説に書いてあったテーブルトーク・ロールプレイングゲーム(以下、TRPGまたはRPG)を仲間と遊んでみたいと思うようになっていたけれど、そんなものに興味をもってくれそうな友人がいなかったから、なんとか情報が得られるのではないかと思って、ほとんど記事内容の意味もわからないのに熟読していた(そのかわり戦史には詳しくなった)。

あるとき、その『タクティクス』のお知らせ欄に、「SLG&RPGサークル立ち上げ!新会員募集」というおたよりが掲載された。名前はたしか「ドラゴンナイツ」で、連絡先は東京都足立区谷中となっていた。当時のわたしは「ナイツ」を ”Knights”(騎士)ではなく”night”(夜)だと思っていたし、
谷中というのは家の近くの台東区谷中のことだとカン違いしていた。「谷中なら、自転車で行けるじゃん!」と思っていたのだ。会長さんのお名前は、鈴木由紀雄さんとあった。

知らない人と会うのは別に苦ではなかったが、やっぱりちょっとコワい。SLGもRPGもサイコロを大量に使うため、親には「なんかヘンなバクチ打ちがおる」くらいの認識しかされておらず、兄はおそらくSLGもRPGも正確に把握していただろうが相談できるような関係ではない。たぶん相談してもムダだろうと思い、エイヤッと入会したい旨のハガキ(!)を連絡先である鈴木会長宅に送った。

数日すると自宅に電話があり、かなり怪訝な顔の母から電話を代わると、鈴木会長ご本人から、「次の日曜日にテーレー会があるので、ぜひトーヨコ線のツナシマ駅まで来てほしい。集合時間は10時、待ち合わせ場所は◯◯口」云々という連絡だった。わたしはテーレー会がなにか、トーヨコ線というのはどこかの鉄道のことだろうがどのあたりなのか、その他詳細のほとんどを理解できなかったが、必死にメモを取った。そしてなにか質問したげな母にトーヨコ線のツナシマ駅まではどのように乗り継いで行けばいいのか、電車賃はどのくらいかかるのかだけを聞き、よけいなことはいっさい言わず、またいっさい聞かれずに参加を決めた。鈴木会長という人の声が思っていたよりもずっと若く、高校生か大学生くらいだったことだけが、そのときの安心材料だった。「会長」といったら、ヨボヨボのおじいさんという勝手なイメージがあったのだった。

当日、多分使うことになるだろう各種サイコロ(とくにTRPGでは、6面体だけでなくさまざまな多面体サイコロを用いる)と、D&Dのベーシックセット(いわゆる「赤箱」)と、キャラクターシートをコピーしたやつをカバンに入れて、近くのバス停から国鉄の駒込駅へ向けて出発した。いつ恐喝されてもいいように、お金は往復の運賃と千円したもたなかった。駒込駅から山手線で渋谷駅まで。たぶん自宅からは御茶ノ水駅へ出たほうが渋谷駅には近いのだが、新宿駅の乗り換えができないのではないかと母は考えたのだと思う。渋谷駅からは東急東横線に乗り換えたが、鈴木会長が電話で「急行が停まる駅だ」と教えてくれていたので、急行列車に乗った。列車のなかでは、もしこの団体が悪い組織だったと気づいたとき、どのように逃げ出すか、そのことだけを真剣に考えていた。

待ち合わせの◯◯口に15分くらい前に到着すると、電話で伝えられていたとおり、なんだかよくわからない野球帽をかぶった男性が立っていて、すぐに声をかけられた。その第一声の感じは今でもありありと思い出せる。当時大学1年生(あとで知った)の鈴木会長は、完全にオドついている小学5年生に、「よっ、うちの期待のホープ!」と声をかけたのだった。わたしはその声を聞いた瞬間に、「あ、この人は悪い人ではないし、今日は楽しくなりそうだ」と心の底から安堵した。

(つづく……かもしれない)

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