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20240227_再録・黒石寺蘇民祭初参戦記【5】突き抜ける灼熱
第一にして最大の難関(?)、三度の水垢離を終え、服を着込み、ふたたび焚き火で暖をとって安堵する、我々DEEDEE'S班一同。
……が、ゆっくりできたのも束の間、周囲の別パーティーの人たちが次々と服を脱ぎだし、また下帯一枚の姿に戻る。
僕なんかは、もう正直気が進まなくなってるんだけど……(苦笑)。
さて、次は「柴燈木登り」(ひたきのぼり)、ですか。
「柴燈木登り」(ひたきのぼり)
“登り”とは庫裡から本堂に向って行列を組んで進むことで、行列の先頭は“たち切り”で二人の男が互に刀(手木)で切り結ぶ動作をしながら行列を先導する。その後に、ほら貝や太鼓、焚きつけや柴を持った人たちが続く。行列が本堂前に達すると、柴燈木(境内の山中から採られた生松木を長さ五尺に切り二ッ割にしたもの)を井桁積に三m以上の高さに二カ所に積み重ね、それに火を点け、人々はそれに昇って火の粉を浴びて身を清める。これは修験道の柴燈護摩と考えられる儀式である。
(黒石寺HPより。http://kokusekiji.e-tera.jp/sominsai.html)
しかしこれが、ナマで見たら実に勇壮なこと勇壮なこと!
フォト
柴燈木をキャンプファイヤー状に組んだ巨大な櫓によじ登り、煙と火の粉に包まれながら「ジャッソー、ジャッソー」と周囲を煽る男たち! よく見たら、あんな小さな子供まで気合い入ってる!
意を決して、我々DEEDEE'S班も出動!
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それでは、僕も…。
僕がチャレンジする時点で、炎の勢いは一層激しさを増し、もう足元数十センチ下ぐらいの所まで迫ってきている。
恐る恐る、柴燈木に足を掛けててっぺんまで登ると、そこは巨大な鉄板焼状態。サウナどころの騒ぎではない。
煙と一緒に、直に迫る熱気が下半身全部の皮膚を直撃し、そのまま脳天まで突き抜けるような感触!
目の前はもちろん煙、煙、煙。
煙の合間から、やっとこさ仲間たちの顔を見下ろせるような状態。
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結局、この上で30秒も我慢し続けられただろうか。
必死に角燈を振り回しジャッソージャッソー叫んでたのも束の間、足元の熱気はますます凄まじく、ついに忍耐の限界がやってくる。
……スネ毛に引火した!
狂おしいほどの熱さに、小躍り気味に跳ね回ってしまう。
もちろんスネ毛に火がついたなど、まったくの錯覚なのだが、ヒザから下を直撃する熱気がそこまで強烈になっているのだ。
そして同時に、これまでうまいことに直撃を避けることができていたどす黒い煙が、風向きが変わったことによって僕の全身を直撃し、煙のカタマリをごぼっと、思い切り飲み込んでしまう。もう限界!
降りる意思表示を見せるとすぐに、年配の世話人が手を差しのべてくれるが、行儀よく降りる余裕などまったくなく、その手に向かって大慌てで不格好にダイビングしてしまう。
昔、ビル火災のニュース映像で、逃げ遅れた可哀相な人が、煙に耐えられずに高い高い窓から死のダイブを決行してしまう瞬間を見るたびに、
「あんな高い所から飛び降りて助かるわけないのに…」
と不思議がっていたが、今ならその気持ちがよくわかる。燃え上がる煙の直撃は、生理的に30秒以上我慢するのは無理なんだよ!
しかし中には、火の粉と煙に何十分と包まれていようとも、櫓の上で涼しい顔でジャッソーを叫び続ける猛者もいる。いくら蘇民祭のベテランといえど、いったいどういう身体の構造をしているのかと不思議になる…。いや、素直に脱帽だし、尊敬するけども。
高熱と火の粉と煙に苦しめられながも、DEEDEE'S班、無事に柴燈木登りも完遂。
あとは明け方の蘇民袋争奪戦だけだ! と安堵の気持ちに包まれ、そのいい気分のまま本堂で記念撮影。
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僕たちに向かって、やたらめったらと焚かれるフラッシュの雨あられ。
……おかしいな、フラッシュやけに多すぎないか?
自分たちと関係のないギャラリーにも写真撮ってもらうのは、まあ別に悪い気はしないけど、いったいどんな人たちが撮ってたんだろう?
それに僕たちの写真は、僕たちの知らぬどこかのサイトでアップされてたりするんだろうか?(笑)。
しかも周りの証言によると、どうもいよいよ“蘇民祭といえばソノ筋の人たち”が本格稼働し始めて、そんな彼らも僕らをバシャバシャと激写してたらしい(苦笑)。なんだかなあ…… 。
まあとにかく、蘇民祭の三大イベントというか、三大苦行のうちの二つがこれで終わった。
これで終わりというわけでは全然ないんだけど、DEEDEE'S班の面々にも、「ここまで来たぞ」という充足感がみなぎり始める。
ゲームでいえば、ラスボス退治前の高揚感ということか。
野球でいえば、日本シリーズを控えた優勝チームの気分か。
ふたたび休憩所に戻る。
争奪戦出陣の午前4時まで、まだまだ時間はたっぷりある。
今度こそ、じっくりとくつろげる。やっと訪れた、本格的な平穏。
マスターが用意してくれた、昆布だし(精進中だから)のスープでこしらえた精進うどん、焼き餅、焼き芋、それから熱燗やお茶などであったまりつつ、ひたすらまったりと弛緩しきって過ごす。
前夜の原稿書きでほぼ徹夜に近い状態だった僕は、焚き火の暖かさに気持ちよくまどろみ、そのまま浅い眠りについてしまう。
どうもあとで聞いた話によると、休憩所でくつろぐ我々に向かって、藁ぶきの壁の隙間から、カメラのレンズを覗かせてた不届き者(男)がいたらしいけど…… 。
まあいいか。眠いから。
【つづく】