16の水問題に関する政策起業に成功した政策起業家の共通戦略
最近スローイノベーション、スローリーダーシップというものを知りました。
政策起業は粘り強さが大事で、本質的かつ長期的な構造にアプローチをするということを考えると、とても相性がいいのかもしれません。もう少し勉強して政策起業家との関連性を発信したいと思います。
今日は海外の論文である、
「Policy Entrepreneurs and Change Strategies: Lessons from Sixteen Case Studies of Water Transitions around the Globe
(政策起業家と変革戦略-世界各地の水の変遷に関する16のケーススタディからの教訓-」を読んで簡単に要約と考察を書きたいと思います。
こちらは2010年に発行された論文です。
世界15カ国とEUにおける水政策の変化の比較分析に基づき、政策起業家が実際にどのような戦略を用い、どのような効果を上げたのか、そこからどのような教訓を得ることができるのかを検討するものです。
結論、5つの戦略が導かれました。それを紹介します。
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【戦略1】
Strategies for developing and disseminating new ideas within multi-level governance networks(マルチレベル・ガバナンス・ネットワークにおける新しいアイデアの開発と普及のためのストラテジー)
様々なケーススタディから、外部や中央から強制されたトップダウン型の政策移行の有効性や適切性について、重大な疑問が生じています。そうではなく、アイディアをパイロットプロジェクトとして実施、メディアを利用して広げていくことを行なっています。
【戦略2】
Building coalitions: balancing between advocacy and brokerage(連合体の構築:アドボカシーとブローカシー(仲介)のバランスをとる)
3つのタイプのアドボカシー連合が見られます。
1.同じ考えや非常に似通った考えを持つ人々の連合。「特定の考え」を提唱します。
2. 同じ政策信念、価値選好、世界観を共有していないにもかかわらず、特定の種類の政策変更を実現することに関心を共有している当事者間の連合のことです。(戦略的連合)
3. 信念や問題意識、政策的選好を共有していませんが、異なる目標を実現するために単に互いに依存している当事者が含まれます。政策の移行は、連合メンバーの別々の目標がうまく達成されることに付随するものです。交渉と妥協のプロセスが必要となることが多いです。したがって、成功する政策起業家は、アドボカシーとブローカシーの間の連続性の中で常にバランスを取る必要があります。
【戦略3】
・Anticipating, manipulating, and exploiting windows of opportunity(機会の窓を予測し、操作し、利用する)
キングドンの政策の窓に関しての戦略。詳しくはこちらの記事を参照してください。
【戦略4】
Connecting informal to formal networks: the exploitation, manipulation, and creation of venues(インフォーマルなネットワークとフォーマルなネットワークをつなぐ:場の利用、操作、創造)
政策起業家は、人々を集めて問題を議論するための新しいフォーラムを意図的に作ることがあります
【戦略5】
Crafting institutions for learning or for realizing particular policy ideas?(学習のための機関を作るのか、それとも特定の政策アイデアを実現するための機関を作るのか。)
政策起業家たちは、学習よりも自分のアイデアが受け入れられ、制度化されることに関心があります。そのために、彼らは主要な意思決定の場にアクセスし、場を操り、危機を戦略的に演出し、戦略的な同盟関係を構築して資源をプールし、ナラティブを戦略的に利用して支持者を集めようとしたのです。
また制度の違いが、実際に政策転換の達成や転換の持続に影響を与えていることを示しています。国によって、個人や集団の起業家が目標を達成するための機会(機会構造)が異なることは明らかです。
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上記を元に6つの行動のアドバイスとしてまとめられていました。
1.関連する制度的システムの特徴や特殊性に関する知識を深めることが大切です。このステップは、機会を認識し、特徴を把握し、特定の変革戦略の有効性を評価するために必要です。
2.移行プロセスを実行に移すためには、リソース、特に時間を惜しまず、粘り強く取り組んでください。
3.政策代替案に支持者を引きつけ、連合体を構築しましょう。アドボカシー戦略と仲介戦略のバランスをとることが大切です。交渉と妥協は、新しいアイデアを伝えることと同様に重要な場合があります。
4.解決したい社会課題の構造理解をするためのさまざまな方法を認識しましょう。問題をフレーム化し、制度的・社会的背景に合ったものを中心に物語戦略を展開しましょう。
5. 衝撃的な出来事や政治的な変化によって開かれる機会の窓を予期することが大切です。このような機会を利用し、新しいアイデアを政治的な議論に入れる準備をしましょう。パイロットプロジェクトは実現可能性を示すのに有効ですが、実験とテストを排除してはなりません。
6. 政治的なゲームをしましょう。問題や災害は、戦略的なフレームワークが必要です。フォーラムを操作する必要があるかもしれませんし、変更を妨げるものを回避するためにフォーラムを開催する必要があるかもしれません。
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考察としては、Mintromで触れられている属性、スキル、戦略に全て当てはまりそうなので、「水政策の独自に特に必要なものはどれなのか?」については不明でした。
またナラティブ(物語を語ること)は、他の論文でも指摘されています。しかしこれはエビデンスに基づく政策立案(EBPM)の流れと逆行するようにも感じます。
エピソードとエビデンスのバランスをどうしていくことがより公益に増進する政策変革を起こせるのか、考えていきたいと思います。
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参考
Meijerink,Sander and Huitema, Dave(2010)"Policy Entrepreneurs and Change Strategies: Lessons from Sixteen Case Studies of Water Transitions around the Globe" Ecology and Society , Jun 2010, Vol. 15, No. 2 (Jun 2010) Resilience Alliance Inc.
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これまでの政策起業家に関する記事一覧はこちらになります。
また、政策起業家の行動原理など、海外の30年間の研究蓄積がまとまっている書籍の翻訳本の出版を行います。30年分の差を、この1冊で埋められるとは思っていませんが、少しでも日本で早く「政策起業」が拡がればという思いでいます。
最後までお読みいただきありがとうございます。
日本では「政策起業家」に関する研究が非常に遅れています。
研究を応援いただける場合には、
「サポート」していただけますと大変嬉しく思います。
サポート資金は全額、「博士後期課程」への進学資金にさせていただき、
更なる政策起業家研究に使わせていただければと思います。
どうぞよろしくお願いします。