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目指したい分析・戦略のあり方について

現在、ManabieというEdtechスタートアップにて、体験・オペレーションの責任者をしています。オペレーションの実行部隊とは別に、分析・戦略を行うチームを拡大しようとしている最中です。書籍によるインプットと、現場で働く中で、最近気をつけていることについてまとめました。

戦略とは何か

分析・戦略チームは一歩間違えると「何もしないチーム」に成り下がってしまいます。例えば、トップダウンで数値計画を作って、「達成してください」というのはただの丸投げであって、戦略ではないといいます。「リーダーの仕事は効果的に頑張れるような状況を作り出し、努力する価値のある戦略を立てること」であり、さらに「戦略目標はざっくりとした数字ではなく、具体的であるべき」です。例えば、「今月はリテンションを90%まであげよう!」は戦略ではなく、ただ数値目標を伝えているにすぎず、常に「どのようにあげるのか」が含まれた数値目標にするべきです。例えば、「リテンションを90%にするための要件の一つであるチューターの質問応答時間をx分までに削減する」まで具体化すると、一人ひとりのメンバーが集中すべき改善点が明確になります。

また、良い戦略には3つの要件があり、それぞれ診断(課題の見極め)、基本方針(課題への大きな方向性)、行動(どこまで設計通りに実行できるのか)だといいます。

戦略策定までの流れ

1. まず全体の数値をざっくりみて、体験やオペレーションのフローに合わせて、数値を分解していき、全体の数値の構成要素を見極める。もしくは現状数値には現れていないものの、季節性などを鑑みて、今後イシューになりそうなものを構造的に把握する。

2. 分解した数値・構造分析のうち、全体に大きな影響を与えていそうなものから順に優先順位をつけ、その週・その月にどの部分を診断するのかを決める。

3. なぜその数字に至っているのかを分析する。分析においては、行動観察・ユーザーインタビュー・サーベイなどの手法を用いて、表面ではなく、根本のボトルネックの問題を見つける。

4. 問題が見つかったら、打ち手を考える。打ち手は自分の頭で絞り出すというよりは先行事例を研究し、どれが自分たちのサービスの文脈に近いか、カスタマイズする必要はあるか、などの観点から定める。先人の知恵を借りる。

5. 打ち手が決まったら、実行の方法を考える。例えば、SOP(業務手順書)を作成し、教育ビデオを撮影。スタッフに見たり読んだりしてもらったあとで、テスト。それだけだとSOPに従うインセンティブが働かないので、例えば、キャリアパスにおいて、SOPテストに合格すると昇進の機会があるなどの条件をつける (以下書籍はどのように無印良品がSOPを作成しているのかについての「優れたサービスのしくみ」)

https://www.amazon.co.jp/dp/482012045X/ref=cm_sw_r_tw_dp_H27V8T9MD868Z72G5W5V

6. 上記「良い戦略・悪い戦略」のステップには含まれていないが、最後にして且つ最も重要なのは「スモールテスト」と「評価」です。今回出した打ち手が課題に対する最良の打ち手だと言えるかはわからないため、例えば、ある少数の拠点だけでテストしたりするなど、小さく初めて大きく拡大する必要があります。また、テスト前には「成功の定義」をしておく必要があります。何を達成したらテストとして成功で100%開放に踏み切れるのか、そこを明確にせずにテストをスタートすると描いた結果を得ることができません。仮に成功の定義に当てはまらなかった場合には、別の打ち手のパターンを試していく必要があります。

戦略が失敗に終わる時

1. 曖昧な戦略目的:戦略目的は戦略チームと現場で強く共有されていなければならない。戦略チーム側が現場側に気を使いすぎ、最終意思決定者を曖昧にし、現場側で決めてください(でも僕らはこれをやってくれると期待してるよ)としてしまうと、結果として戦略側が思っていたような統率の取れた行動にはならず、個人の感情に意思決定が左右されかねない。もちろん、戦略側が現場の声を聞かなかったりしたらそれはもっと問題になるが、重要なのは戦略側と現場側で目的をしっかりと共有することである。

2. 短期決戦の戦略志向:長期的な展望を持たずに数ヶ月先のことだけを考えた戦略も失敗の要因になりうる。数ヶ月で決着がつくことは誰も保証しておらず、例えば「数ヶ月で決着がついたらOK。もし長期化したらうまくいかないかもしれない」という情報があるにもかかわらず、長期化時の戦略がなければ、実際長期戦になったときには間違いなく失敗に陥ってしまう。サービス設計時にも2ヶ月後にお客様がどうなっているかだけの視点ではなく、1年・2年というスパンでのサービスの成長を考えたときに、どんな戦略をとるべきかが考え尽くされていないとならない。

3. 主観的で「帰納的」な戦略策定- 空気の支配:これはいわゆる忖度で、「上司が言ってるからきっと正しいんだろうし、なんか違う気がするけど、正しいって言っておこう」とみんなが思うことによって、例えばトップが暴走してしまうのを止められなかったりする。組織としては意見がボトムアップで上がるような風通しの良い状態にしておかねばならず、トップも現場の声を聞いての判断を忘れてはならない。

4. 狭くて進化のない戦略オプション: 一度成功したモデルに囚われてそれ以外に打ち手を試さなくなってしまうような状態で、例えばサービスレベルをあげようというときに、「よし、返信速度をあげよう」以外のアプローチがなく、様々な状況に対応できない。

5. アンバランスな戦闘技術体系:例えば強い人をある部門に集中的に貼りすぎて、他の部門が弱体化し、結果全体として統制の取れた戦略実行ができなくなること。教育系のサービスであれば、オペレーション部門に大量に優秀な人材を高給で雇い、逆に教務チームを疎かにすれば、どれだけOpsが優れていようと結果的に成績は上がらず、満足度は上がらない。

6. 人的ネットワーク偏重の組織構造:例えば、情緒的結合のある人を優遇して出世させてしまい、本当に優秀な人材を抜擢できない構造などになると失敗に陥りやすい。

7. 属人的な組織:あるトップパフォーマーにのみ依存し、永続的に成長する仕組みが存在していない組織の状態。その人が抜けたら終わりの状態を作るのはリスクが高すぎる。ここでこそSOPが重要になり、トップパフォーマーの仕事の手法が入ったばかりの人にもきちんと共有され、属人性を極力排除しなくてはいけない。

8. 学習を軽視した組織:失敗したとき、改善点があったときにそれがきちんとエスカレーションされず、次の改善に含まれないこと。もしくは一回は改善されたものの、忘れ去られ、結果また同じような問題があとで起きること。ここでもSOPが有効で、一旦問題になったことで構造的な課題であれば、必ず、その課題に対するアプローチをSOPとして残す。こうすることで、同じ失敗を何度も繰り返すリスクを低減することができる。

9. プロセスや動機を重視した評価:例えば、結果の数値ではなく、途中での仕事においての動機、「一生懸命に頑張る」などの曖昧な評価を重視したりすると、数値は形骸化する。また、一生懸命に頑張っているフリをすれば良い、となってしまい、結果と一生懸命さも相関しなくなっていってしまう。プロセス評価も「保守的にさせすぎない」という点で重要ではあるが、逆にプロセス評価によってしまうのも問題である。(以下書籍は「失敗の本質 - 日本軍の組織論的研究」)

https://www.amazon.co.jp/dp/4122018331/ref=cm_sw_r_tw_dp_Z9E89ZAAMJVQVHSTHC21

まとめ

日々戦略を練っているとどうしても自分のバイアスや願望に思考が邪魔されたりしてしまうことがある。そんなとき「良い戦略の定義」と「なぜ失敗に終わるのか」には常に立ち返っていたいなと思います。サービスグロースにはある程度方法論はあると思っていて(そもそもの最初の大方向が正しければ)、あとはどういう方法と順番でテストをするか、自分の願望や忖度に惑わされないかが重要になってくると最近思っています。


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