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新型コロナウイルス感染症がもたらすスタートアップ・VC業界への影響

Plug and Play Japanのshumpsです。

新型コロナウイルス感染症の世界経済への影響が拡大しています。日本経済新聞によると、世界の株式時価総額は3/9-13の一週間で約10兆ドル減少。地域別でみると、イタリアやスペインを筆頭に、欧州における株価急落が目立ちました。また、今月11日には世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症を「パンデミック」と認定。各国政府・企業が感染拡大への対応や株価対策に追われている状況です。

未上場企業の企業価値は、上場企業の企業価値の様に分刻みで市場に評価されるわけではありませんが、資金調達や事業計画という観点で、新型コロナウイルス感染症はスタートアップ・VC業界にも膨大な影響を及ぼしています。2020年第1四半期のプライベート・マーケットにおける資金調達額は、前期比16%減で着地する事が予想されており、この値は過去10年間で2番目に大きい前期比減と言われています(出典:CB Insights)。また、2002年のSARS、2015年のジカウイルスの流行時と同様、今回もアジアのプライベート・マーケットにおける影響が懸念されています。下表によると、2020年第1四半期のグローバルの投資案件数は前期比20%減と予想される中、アジアにおける投資案件数は前期比40%減にも及ぶと予想されています。

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(出典:CB Insights

特に中国では2月19日時点で投資案件数及びスタートアップによる資金調達額ともに、前年同期比で60%以上の減少が確認されており、投資家が慎重になっている事が伺えます(出典:PitchBook Data)。中国におけるベンチャー投資は、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する前から失速が懸念されていましたが、更に追い打ちを受ける事になるでしょう。

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(出典:PitchBook Data)

尚、新型コロナウイルス感染症の影響が一番に懸念される産業は、言うまでもなく、観光業です。2019年には500社以上のトラベル領域のスタートアップが資金調達を実施しており、合計調達額は77億ドルにのぼります(出典:Crunchbase)。これらのスタートアップは今まさに逆境の真っ只中におり、多くの企業は事業の存続をかけた事業計画の調整に走っています。例えば、昨年10月にSeries Fで約15億ドルを調達したOYOは、中国市場において従業員30%に相当する3,000人の解雇を予定してます(出典:QUARTZ)。また、2020年のIPOを計画していたAirbnbに関しても、新型コロナウイルス感染症の影響による大幅な予約減少を受け、上場を延期する可能性があります。

一方、現在の状況をチャンスと捉えるスタートアップもいます。昨年5月にSeries Dで4.8億ドルを調達したGetYourGuideのJohannes Reckは現状に関して下記の通り述べており、調達した膨大な資本を基に、当面の間はプロダクトや技術を磨き上げる事に集中するといいます。

「新型コロナウイルス感染症の影響により、トラベル業界は確実に変化します。危機を乗り越えた時、トラベル業界は今のものとは全く異なる形態となり、企業にとっては事業の存続自体が業界における競争優位性となるでしょう。我々は新型コロナウイルス感染症の影響で多くの企業が破綻すると考えており、既に業界では、大型リストラや事業再編が発表されています。(中略)我々は長期視点で事業の可能性に期待しています。その為の投資として、今はプロダクトとエンジニアリングに集中したいと考えています。」(出典:TechCrunch

スタートアップ同様、今後の投資や支援活動という観点で、投資家も力量が試されています。Sequoia Capitalは今月6日、Mediumでの記事「Corona virus: The Black Swan of 2020」にて、投資先スタートアップに対して事業の健全性を守るためのガイダンスを提示しています。投資家はスタートアップのビジネスが今までとは異なる環境に順応するための助言をする必要があるのです。

また、今後の厳しい経済環境を想定し、投資家は次の成長分野に目を向け始めています。新型コロナウイルス感染症の発生を機に、経済活動のオンライン化が進めば、バーチャル会議、デジタルヘルスケア、サイバーセキュリティ等への投資が更に進む事が予想されます。一例として、今年に入ってからビデオ会議ツールのZoomの株価が急上昇しています。経済活動のオンライン化が一時的な流行りなのか、又は人々の習慣の長期的シフトなのかは、今後の見どころとなります。

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(出典:Google Finance)

では、VC業界自体のオンライン化はどうでしょうか。今月7日にはYCが新型新型コロナウイルス感染症の影響を受けて2020年のデモデーをオンラインで実施すると発表しています。Fifty YearsのパートナーであるSeth BannonはYCの判断を称賛したうえで、「ファウンダーはその投資家と今後10年間付き合っていかねばならないかもしれない。それを判断するには人と人との直接の対面が非常に重要だ」と述べています(出典:TechCrunch)。VC業界においてイベントや業務のオンライン化が進む一方、ファウンダーと投資家は新型コロナウイルス感染症の危機が去った後も長期間付き合う関係にあるという事は事実なのです。世界が健康・経済危機に直面する今だからこそ、スタートアップと投資家が寄り添い、理想のエコシステムの形を考え直すチャンスなのかもしれません。





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