見出し画像

君のこたえをきかせて 1話

割引あり

毎日やりたい仕事でもない仕事をしているじゅん。ある休日、携帯でニュースをみていたら10年前に通っていた高校が廃校になるニュース。ひさしぶりに仲良かった友人の秋乃から連絡があり、制服を着て廃校前に集まる約束をした。なつかしくなって、高校時代の卒業アルバムを出してみることにした。懐かしい写真などを見て、微笑む。その中の一人に


●現代
○初春じゅん自宅(ワンルームマンション)、朝

スマホのアラームが鳴る。

初春、アラーム止めて驚いて起き上がる。

初春「やばっ、遅刻……っ!」

スマホの日付は土曜日である。

初春「あ、今日やすみか……はぁ……びっくりした……」

初春、ベッドに寝転びぼうっとしながらSNSを開く。

上司や友人からメッセージアプリが届いているが初春はそれを開くことはしない。

画面を適当にスクロールしながら、ニュース欄を眺めている。

その中に《折節高校、今年度で廃校へ》と書かれている。

初春、はっとした顔をしてしばらくその文字を眺めていた。

M初春「それは自分が十年前に卒業した高校の名前だった。
懐かしさに思わず、ため息が出る。

青春なんてそんなまぶしいものではなかったけれど、今ならわかる。
あれは紛れもなく、青春でもう取り戻すことのできない時間だったのだと。もしも

あの日に戻れるのなら、僕は——」

スマホ、着信。画面には《秋乃 ひろし》と書かれている。

初春、少し迷って電話に出る。

秋乃「おお、初春か……? 朝から何回もメッセージ送ってんのに……」

初春「おはよ……ごめん寝てた」

秋乃「まじかよ、もう昼過ぎだぞ。昨日夜遅かったのか?」

初春「いや、別に……特にすることなかったから寝てただけ……」

秋乃「趣味とかないの?」

初春「別に何も……昔からこれといってしたかったことなんてなかったし……仕事もこれがやりたいとか特になかったから……」

秋乃「なあ……初春……お前さ……。ああ、違う違う、連絡したのはさ、ほら俺たちの高校がなくなっちゃうだろ?」

初春「ああ、ネットニュースで見た」

秋乃「そうそう、来年には取り壊しがもう決まってるらしくてさ」

初春「そうなんだ」

秋乃「それで、みんなで集まらないかって話になったんだよ。高校の時の制服きてさ。ほら、今まで小さい飲み会はしたけど、同窓会はちゃんとしてこなかっただろ」

初春「ええ、僕はいかないよ。どうせ僕のことなんて誰も覚えてないでしょ」

秋乃「なんでだよ、お前高校時代は明るかったし人気者だっただろ? 大丈夫だって。せっかく企画したんだから来いよ」

初春「まあ、いけたら……」

秋乃「よし、絶対だぞ? 夏川も、冬木しおりもくるからさ……」

M 初春「冬木しおり。その名前が出た途端、頭の中を懐かしい風が吹き抜けたような気がした。
僕は彼女のことが好きだった、

ほんの少しの間付き合って、大好きでたまらなくて、それなのに卒業した後は互いに連絡を取ることはもうなかった。

彼女が今どこにいるのか、何をしているのかも僕は知らない。
いや、知りたくなかったと言った方が正解なのかもしれないけれど」

秋乃「そんじゃ、日付が決まったらおって連絡するからさ」

初春「うん、ありがと」

初春、電話を切って小さくため息をつく。

自宅の棚の奥の方にしまってある古いアルバムを取り出す。

初春、アルバムの埃を払って軽く咳き込む。

アルバムの表紙には《折節高等学校 卒業アルバム》と書かれている。

初春「なつかし……」

初春、アルバムを開いて適当にページをめくる。

そして、あるページで手を止める。

初春、ふっと軽く微笑む。

冬木しおりとかかれた名前の上に彼女の写真が貼られている。

彼女は静かに柔らかく微笑んでいる。

ここから先は

3,758字

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?