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光の海がそこにある

引っ越すことになったのは、3月のライオン16巻を読んだからだと思う。もちろん直接は関係なくて、通勤その他もろもろの現実面に迫られたわけだが、でも根っこのところでは関係している、そんな気がする。

3月のライオンはアニメ分だけ見ていた。去年の秋たまたま仕事で16巻を手にしたのだが、はいってる空気の変化にとっても驚いた。零くん、ほんとうによかった。この、未来がひろがっていこうとしている感じ。なにかが生まれようとしている感じ。切り詰めていた厳しさがゆるんで、また違う自分が見えてくる感じ。きゅんとした。

西荻には3年4か月とちょっと住んだ。転勤族でもないのに人生で2番目に長く住んだ家だ。西に帰るとかでもない限り、東京にいるうちは住み続けると思っていた。住み続けたいって。でも、いろんなことが動いていって、この流れで住み続けるのは不自然となり、自然と東京の東、3月のライオンで見たような橋がいっぱいあるところへ移っていった。

深夜車で帰宅する時、橋という橋を越え、水面に夜景が映って、光の海の中を走っているよう。もしくは星の中を飛ぶってこんな気持ちかなと思う。「わあ東京にいる」、夜景がこんなに胸に響くことってなかった。
何度見ても新鮮で、ふと16巻表紙への感覚と似ていることに気づいた。儚くて、きらめいて目を細めちゃう感じ。一瞬感じたあこがれやまぶしさが、自分を導き運んでくることがあるのだ、と知った。

恋をしているのも一緒なんだと思う。
歩いて10分足らずで、よなよな食材貸しあったりするのが大学時代を思い出して楽しい。ご近所さんがいるってこんなに安心するんだな。おいしいものがあったらすぐおすそ分けしあえるし、出かけるにも同じ駅から行ける。仕事の後中華屋さんに再集合もできちゃう。明け方中華屋さんから出てかくれんぼもしちゃう(小学生かよ)。電話しながら中間地点でめぐりあって用事を済ませ、川べりを私の家まで一緒に歩く、そういう時間がこんなに幸せって知らなかった。
普通に、自分の中が苦しいごちゃごちゃでいっぱいになることもある。でも「楽しい」ってやっぱりいいな。「楽しい」にいっぱいいられるといいな。

スーパーからの帰り夜景を見て東京だ~と思うとき、上京してから初めて「一生東京にいるのかもしれない」と感じている。どこにでも行ける切符が消えて、かえがきかないものが育ちつつある。
気づいたら過ごしてたそんな日々の底に、16巻のきらめきが静かにあった。その予感を受け取れて、とてもうれしい。

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