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夏休みだった

この夏は、正しく夏休みがあった。
仕事から解き放たれて2番目の家に半月居候した。

毎日3番目に会いに行った。
平日夜と土日は昼も。土日は4番目と合流したり、母が行ける日は休んだりした。
病院で3番目と会うのは、ほんとにきつくて幸せだった。東京でも心の真ん中にあって、でも生身のなまなましさとインパクトはすごい。代わってやれず、役に立てず、でもそういう気持ちは出さずに淡々としゃべる。しょうもない話を。
そしてきょうだいでかわりばんこに体をさする。私はめっちゃ下手、4番目が福手と言われるくらいうまい。才能ってあるんだと思うくらい。歩けないと、体がどれだけむくんでも、ふくらはぎは誇張なしに骨と皮になる。そしてfootの部分がぱんぱんになる。
ごめん。そう思いながら、そう思いすぎないようにして、でもそばにいてさすれるだけありがたかった。今の3番目の体の感じを自分に刻んだ。
この見舞いを、2番目は毎日仕事帰り、車で片道40分かけて行っている。それが日常だからこその身のこなしに、申し訳なくてありがたくて胸がいっぱいだった。こいつは菩薩なんじゃないかと思う。

平日の昼間は、仕事に行く2番目を見送ったあと、ほんとにただの夏休みだった。
扇風機と開けた窓、夏っぽい日差しのなかで、とりあえず起き抜けにだらだらとひたすら書く。裏紙に、頭に浮かんだことを汚い言葉も無意味な言葉もそのまま。これをやると調子がいいのだ。
そしたら映画見たり。人生で初めてタイタニック見た。思ってたより良かった。
散歩もする。車社会の街の作りだけど、時間はあるのでぼちぼち歩く。神社行ったり、道の駅行ったり。そこで仕入れた魚を、病院から帰宅後2番目にさばく。スパイスカレーの日もハヤシライスの日もあった。せめて私が居る間くらい、少しでも楽させて、おいしいもん食べさせちゃる。お互い口には出さないが、思いを汲んでくれてたと思う。
なんでもかんでもおいしかった。

2番目と4番目が有休を合わせてくれた日には遊び倒した。
カラオケ行った。ラーメン行った。海行った。かき氷食べた。2番目に編み込みしてもらった。バチェラーあーだこーだ言いながら見た。100均のつけ爪をみんなでつけた。お寿司を4番目のおごりで食べた。バスケでなぜかかまいたちの山内を発見した。
カラオケで私の「儚くない」を聞いて流れた2番目の涙に気づかないふりをした。
きょうだいがそれぞれ動き回る病室にさした夕焼けを4番目が「エモい」と言った。
全部入り混じって、思う存分正しく夏休みをした。

ほんとうは言葉にしたくて、でもまだ言葉にならない。この2年半ずっとそんな感じだ。

でもこの夏は、苦しくて、きつくて、幸せだった。それは言える。

あと、来年の夏には、きょうだい5人全員で、焼き鳥屋で飲むんだ。5番目が20になるから。これも言っておこう。
私の私自身への誕生日プレゼントに、この言葉をしようと思う。


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