見出し画像

不思議な瞳の人

私の今の上司は、ほんとに不思議な人だ。

初めて面接であったとき、こんな人いるんだな~と思った。
目が深い湖のように静かで、でも人を強烈に引きつける魅力を放っているわけではなく(そもそもそういう発想がない)、この人と働くのは悪くなさそうって思った。

誰かが何かを暗に要求し、それを察して応えて「あげる」という自他の嫌なループができあがってた私は、最初ほんとに戸惑った。
どれだけ潜っても、私に対する期待も嫌悪も、「こうすべき」もないので、どう動けばいいのかわからないのだ。
少しずつ、どうやら上司の底は割れなさそうだと安心して、まだまだ私はがちがちだけど、他の周りは要求だらけだけど、でもそうじゃないゆるみを感じられるときが増えた。

最近一番はっとしたのは、バイトと社員の軋轢を相談したとき。
バイトの仕事の抜けが多く、それを社員は表でも陰でもダメ出し、それにバイトが腹立てたり萎縮したりして仕事の質が落ちる、無限の負のループ。
あっちの気持ちも分かるし、こっちの言い分もわかる、と頭の中でえせ平和を目指しちゃって、混沌のなかで力むだけ力みまくる私は、もうこりゃ上司にあげるしかない、と相談をした。

「俺の仕事の考え方として、人は変わらない。
だから今のバイトに能力以上のことを求めるのも、社員に陰口いうなというのも、俺が言ったからできるようなら最初からしてる。
そして、今のバイトの能力の現状としてこういう状態があるなら、仕事の振り分けの仕組みをこうしよう」

そうさっと言ったときの後腐れのなさ、そしてそれまで私の話を聞いていたときの瞳の色、すべてが見事だった。
誰にも期待せず、誰にも絶望せず、でも個に対してではない静かな愛がある。
この人がいるなら安心して仕事ができるなあ、しみじみそう思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?