2分にかけた2ヶ月
おはようございます。
ラ・バヤデール 6/1〜6/12 東京/大阪 全6公演
無事にすべて終演しました。お越しいただいた皆様、ありがとうございました。
今回はドラムダンスのリーダー、そしてブロンズアイドルを踊らせていただきました。
両方とも踊ったことがある役ですが、どちらも好きな役。ドラムはちょっと意外でしたが……笑
ドラムに関しては、もうひたすらに猪突猛進して、スタミナという概念を感じさせないことを考えました。
何も考えずに見て楽しめる、究極のディベルティスマン。
話の筋としては本当に酷いストーリーのバヤデールにあって、唯一といっていいハッピーアワー。全てを持っていく気合いで臨んでいましたね。
本番では、終わったあとしばらく足の感覚がなくなるまで絞り出して踊りましたが、その魂が少しでも伝わっていれば嬉しいです。
*
ブロンズアイドルは、僕にとっても非常に思い入れのある役です。
小さな頃から憧れてきた役で、いつか踊りたいなとずっと思ってきました。
ルーマニアの地でプロになった12年前、初めていただいたソリスト役がこのブロンズアイドルでした。
デビュー直後、プロになったことと夢が叶ったことを実感して、カーテンコールの前に袖で号泣したのもいい思い出です。笑
時は流れ、23-24シーズンラインナップでバヤデールという演目が発表されたときから、「ブロンズがやりたい!」と願い続けてきました。
なので配役が発表されたときは、飛び上がるほど嬉しかったです。
思い入れのある役を、まさか日本で踊れるときがくるとは。踊っていないうちから感無量といった感じでした。
*
配役発表があってからは、まず肉体改造に努めました。もともと筋トレの習慣はありましたが、頻度を増やし、内容を変え、バヤデールという演目にふさわしい鋼の肉体に近づけるべく模索しました。
ときには、Opto公演のマチネとソワレの休憩時間にジムに行ったりもしました。
意味があるとかないとか、そういうことではなく、ストイックに過ごすことがブロンズアイドルという崇高な役を踊るにふさわしい振る舞いなのだと、そう信じていましたね。
そしてもちろん、踊ったことがある役とはいえ最後に踊ってから8,9年経っているので、きっちりと一つ一つの技の確認、研究にも時間を費やしました。
無機物感を出しつつ、ブッダの魂であるという崇高さや、ある種の人間味?も。踊り方にも心を砕きました。
*
Kバレエ版のブロンズの特徴として、全てが崩壊した地上を浄化するために踊られる、つまり物語の一番最後に真っ暗な中でスポットライトひとつで踊るというのがあります。
これが非常に難しい。
踊ったことのあるバージョンでは、ソロルとガムザッティの結婚式の場面でブロンズも踊るというもので、中盤の明るい中で踊られます。
それとは全く違う、開演から約2時間半の待機時間からの全開のソロ。これは本当に体調管理が難しかったです。
一度金に身体を塗ったら座ることも難しいですし、何かを羽織ることもできず、冷えや強張りとの戦いになります。
そして暗闇で踊るということ。これが何より大変でした。
話には聞いていたので、リハーサルの段階でときにはスタジオの電気を消して踊ってみたり、普段の練習のときから薄目で踊ってみたり。
いろんな対策を講じて本番に臨んだのですが、想像を遥かに超える視界の悪さにゲネプロでは絶望したものです。笑
上手く説明できないのですが、あの場に立つと、本当に何も見えません。
スポットを浴びると、自分の周りを光のカーテンで覆われたようになり、スポットライトの外側の視界がほぼゼロになります。
我々ダンサーは回転やジャンプの感覚を視覚に頼る部分が当然多いので、そこに制限がかかるのはかなりのディスアドバンテージでした。
視点をどこに合わせたらいいのか分からなかったり、自分がどれくらいの高さまで跳んでいるのかが分からなかったり……。
初めて照明を試したときは本当に怖くて、緊張を通り越して
「え、ほんとに今からここで踊るの?え?」
という気持ちになり、そのままいつの間にか踊り終わっていました。それほどの衝撃でした。
緊張よりも戸惑いの中で踊ったのは、後にも先にもこのブロンズ以外無い気がします。
とはいえ、自分以外のキャストを前から見たときにはその視覚効果の凄さを痛感しました。本当にカッコいい演出で、こうじゃなきゃね、と。
大変な思いをして踊る以上の価値があるというか、がんばろうと発奮させられました。
この演出、思い切った照明を考えたディレクターはさすがです。
*
ディレクターがリハーサルを見てくださったとき、少しですがお手本を見せてくれました。
そのときの感動といったら……。
小さな頃から繰り返し繰り返し見てきた、ディレクターのブロンズアイドル。もちろん今回も何度も映像を見て研究しましたが、その張本人が目の前で見せてくれた踊りは、もう言葉になりませんでした。
「これがあの伝説の……!!」
と思うと、ほんの数秒の一節であっても涙が出そうでした。
やっぱりディレクターはすごい。跳んだり回ったりしなくても、他を圧倒する何かがある。カルミナやクレオパトラでも知っているはずなのに、こういうときはいつも、まるで初めて見たかのような感動を覚えます。
短いリハーサルではありましたが、一生記憶に残るものになりました。
*
そんなこんなで迎えた本番。
ドラムダンスもブロンズアイドルも、実際に踊っている時間は約2分。しかし鮮烈な印象を残す大事な役。
この2分のために、2ヶ月全力を尽くしてきました。
もちろんOptoもカルミナもありましたし、新作マーメイドのリハーサルも頑張っていましたが、やはりいつも見据える先にはバヤデールがありました。
そうして全身全霊を傾けた2分。
短いけれど、信じられないくらい濃密なものとなりました。
悔しいなと思うところがないわけではありませんが、やれることは全部やった上なので、後悔はありません。
今回この機会をくださったディレクターはもちろん、みっちりリハーサルしてくださった先生方、メイク照明諸々の後ろ支えをしてくださったスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。
大変だったけど幸せで、かけがえのない時間を過ごすことができました。
そして影の王国のコールドのみなさん。
本当にお疲れ様でした。
毎公演あの坂を下るのは想像を絶する過酷さだったと思います。一度体験してみようかなと思ったのですが、そんな冗談すら憚られる気がして。
ブラボーでした。
*
さぁ、一息ついたら早速マーメイドのリハーサルが待っています!
気持ちを切り替えて、また新たに踏み出していこうと思います。
ではでは。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?