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Zapposのトニー・シェイについてのまとめ
2020年11月、46歳という若さで亡くなったZapposのトニー・シェイ。
彼の著書「Delivering Happiness」(ザッポス伝説)は自分も買って読んだことがあったので、その訃報に驚きました。
米国テック界隈では追悼のTweetがたくさん見られました。
Tony Hsieh was one of the most thoughtful people in the startup world, in both senses of the word.
— Paul Graham (@paulg) November 28, 2020
"No matter what your past has been, you have a spotless future." -- Tony Hsieh, RIP
— M A (@pmarca) November 28, 2020
日本でも。
世界一好きな起業家が亡くなってしまった。彼が変えてきた会社の概念を受け継いでいきたい。
— 堀江裕介/dely (@yusuke_horie) November 28, 2020
Zappos co-founder Tony Hsieh, who stepped down as CEO earlier this year, has passed away at the age of 46 (Katie Abel / Footwear News) - Fior Reports https://t.co/Upviw2EF2g
2008年頃、初めてECの仕事するにあたって訪問した会社がZappos。チーム文化を核にする経営とかカスタマーサポート重視とか影響受けた。街づくりの仕事をされてたのでビジョンを伺って見たかった。ご冥福を祈ります。
— 宮坂学 Manabu Miyasaka (@miyasaka) December 1, 2020
Zappos前CEOトニー・シェイ氏、46歳で死去 https://t.co/8c1lGKPMRH @mashupnyより
世界初の靴のECや、顧客を第一に考えるカスタマーサクセス、一般的な上司がいないホラクラシー(holacracy)というユニークな組織スタイルで有名なZapposですが、Zapposといえばトニー・シェイ、トニー・シェイといえばZapposというイメージですよね。
でも、実はトニー・シェイはZapposの創業者ではなかったり、Zapposの前にスタートアップで成功した経歴があることは(日本では特に)あまり知られていないかもしれません。
大学まで
トニーの両親は台湾から米国への移民で、彼自身はイリノイ州で生まれ、その後5歳でサンフランシスコのベイエリアに移ります。
子供の頃からお金を稼ぐということに興味があり、色々なスモールビジネスをやったと著書には書いてあります。
しかも中学時代には通販バッジ製造ビジネスで毎月200ドルくらい安定して稼いでいたそうなので、なかなかの商才です。
そして彼はハーバード大学でコンピューターサイエンス(CS)を学んだあと、オラクルで働きながら、ちょうど当時インターネットの普及し始めだったこともあり、副業がてら地元企業やお店向けにウェブサイト制作を始めます。彼は結局オラクルを5ヶ月ほどで辞めています。
LinkExchangeでの成功
副業でやっていたウェブサイト制作の過程で、いわゆるオンライン広告ネットワーク、今でいうGoogleアドセンスのようなアイデアを思いつき、LinkExchange という会社を創業します。
当時、オンライン広告はYahooのような有名なサイトだけができるものでしたが、LinkExchangeはそれを小さなサイトオーナーでもスクリプトを追加するだけで広告表示ができるようにしました。
LinkExchangeという名前からも想像できるように、どうも最初は単純に相互送客のような、小さなサイトオーナーがネットワークを作って広告を表示し合う感じだったようですが、2年半で従業員100人超の企業に成長。最終的に1998年にマイクロソフトに$265Mで売却します。
大学卒業のたった3年後くらいでの売却で、しかも金額もなかなかの規模なので、この時点ですでにサクセスストーリーという感じです。
ただ、実際は人が増えたことで会社でのカルチャーが崩壊し、トニー自身も会社に行きたくないと思うほどだったそうで、それが売却の理由だと語っています。これがZapposでのカルチャーにつながるんですね。
インキュベーター&投資を始める
マイクロソフトに$265Mで売却したものの、いわゆるvesting期間が設定されていたので売却した株式を現金に全て変えるには一定期間マイクロソフトに在籍する必要がありましたが、トニーは「時間を無駄にしたくない、自分に素直でいたい」という意思でそのvesting途中でマイクロソフトを辞めます。
なのでキャッシュとしてはもらえたはずの額よりも少なくなったようですが、それでもある程度まとまった額のキャッシュが手に入ったということで、次にトニーは Venture Frogs というインキュベーター兼アーリーステージベンチャーをはじめます。
1990年代後半なので、アーリーステージやプレシードベンチャーとしても比較的先駆者と言えるのではないでしょうか。
Venture Frogsの資金は$27Mだったそうですが、その半分はトニー自身が出資、あとの半分はLinkExchangeのメンバーから集めたようです。
インキュベーターで創業初期の企業への投資を始めたものの、トニー自身はあまり楽しいと思えなかったようで、自分で何かを作り上げるような経験を欲していたと語っています。
Zapposへの投資と参画
Zapposは実はニック・スウィンマーンという人物が最初にオンラインでシューズを売るというアイデアを持って(ベンチャー投資をしていた)トニーのVenture Frogsにコンタクトしたことから始まります。
その時はまだ shoesite(シューサイト)という名前だったそうですが、すでに注文が少量ながら入っていて動き出していました。
トニーとしては当初、実物も見ないでネットで靴を買うというアイデアにかなり懐疑的だったようですが、実際に注文が少しは入ってきていること、当時フットウェア(シューズ)は米国で$40Bの市場規模があったこと、そして一番成長していたセグメントが通販カタログ(当時で全体の5% = $2B)だったことなどの情報を機に、Zapposへの投資を決断します。
当時ニック・スウィンマーンはフレッド・モスラーというノードストローム(米国の百貨店チェーン)で働いていたシューズに非常に詳しい人物にZapposにジョインするよう声をかけていましたが、トニーからの出資が決まったことをきっかけにフレッドもジョインし、以降彼はずっとZapposで重要な役割を担うことになります。
Zapposがトニーの運営するインキュベーターに入った後、トニーはZapposを時々ヘルプする程度だったそうですが、その後だんだんと積極的に参画するようになります。
ちなみにZapposでは当初、本当に人々がネットでシューズを買うか確かめるために、在庫を抱えるのではなく、近くの靴屋のシューズの写真を撮ってサイトにアップし、実際にそれが売れたらお店まで買いに行って発送する、ということをしていたそうです。まさにローコストのPoCですね。
余談ですが、Zapposの名前の由来はスペイン語で靴を意味する Zapatos だそうです。
Zapposの成長とカスタマーサービスフォーカスへのシフト
最初の数年は赤字を脱却できず、かなり苦労したとトニーは著書で書いています。実際、その当時必要だった資金はほぼ全てトニーが自己資金を費やしていたようです。
LinkExchangeの売却で得た資金でトニーはサンフランシスコのベイエリアでいくつかの物件(アパート)を買っていましたが、結局すべてZapposに必要な資金を捻出するために売却したと語っています。
また、ドットコム株の暴落や9・11のテロなどの情勢もあり、ほとんど外部からは資金調達をできなかったそうです。
Zapposは途中から差別化戦略やブランディングといった観点から、カスタマーサービスを第一とするスタンスにシフトしていきます。トニーはこれがZapposとしてのターニングポイントだったと振り返っています。
無料で返品可能、などはZapposがはじめたと言われているものの一つです。
We are service company that happens to sell shoes.
我々はたまたまシューズを売っているサービス企業である
↑のフレーズはZapposを説明する時に頻繁に目にするものですが、Zapposを端的に表す素晴らしい一文だと思います。
Zapposでは顧客にできるだけカスタマーサポートに電話してもらうような戦略を取っていたりしますが、トニーは「5 - 10分電話で話すこと、そしてそこで良いインプレッションを与えることによって、その顧客のライフタイムバリューは4 - 6倍になる」と言っています。
多くのテック企業が様々な部分を自動化することを目指している中で、Zapposはローテクとも捉えられる電話でのカスタマーサポートによってLTVを高める戦略を取っていると言えます。
Amazonによる買収
当初のドロップシッピングのビジネスモデルから自社で在庫を持つスタイルに変えたことや、上記のカスタマーサポートを大事にするスタンス、そしてネットショッピングの普及などの相乗効果でZapposは急成長していき、2008年に売上高が$1B(1000億円超)を達成します。
そして2009年に有名なAmazonによる買収となります。
Amazonは2009年の数年前から実は買収提案をしていたそうです。それに対してZappos側は最初はノーと言っており、Amazonは Endless というオリジナルブランドを立ち上げて競争を仕掛けてきます。しかし結局マーケットシェアをがっつりと奪うことはできず、最終的にZapposの企業としての独自性を担保することを条件に、2009年の$1.2Bでの買収となります。
トニーはインタビューの中で、Amazon傘下に入ってからの方が、短期的な業績にフォーカスする必要が少なくなったので、自由度が上がったと語っています。
Amazonは当初の約束通り、Zapposの独立性を担保しており、今ではシューズだけでなく、服やアクセサリーなども売っています。
尚、トニー自身は2020年夏に20年以上勤めたZapposのCEO職を退いています。
ダウンタウンラスベガスへの貢献とエアストリームパーク
2004年にZapposの本拠地をラスベガスに移して以来、トニーはずっとラスベガスを拠点としており、2010年台は$350Mをかけてダウンタウンエリアの再開発プロジェクトも行っていたそうです。(ただしそのプロジェクトは結局頓挫。)
その一環として地元の起業家を支援する投資も行っていたようですが、一番話題になったのは多分エアストリームパークです。
エアストリームとは大きめのキャンピングカーのようなトレイラーで、それを放棄されていた駐車場にたくさん置いてマイクロ住居エリアに変身させたものがエアストリームパーク。様々な住人と半共同生活を送る、いわばコミュニティーのようなものです。トニーは「都市型のバーニングマンのようなもの」をイメージしてこのようなエリアを作ったそうです。
出典元: Curbed YouTube動画より
実際、トニー自身もこのエアストリームでずっと生活していたそうで、モノよりも体験や経験に価値を感じる彼らしい生き方と言えます。
余談
トニー・シェイ自身は実はあまりシューズに興味があったわけではなく、持っていたシューズも4足くらいと至って普通。まあZapposのビジネスアイデアはニック・スウィンマーンが持ってきたものなので、当然かもしれません。
性格もかなり内向的で、あまり人前で話したりするのが好きな方ではなく、立派な成功ストーリーを持っているにもかかわらず、とても謙虚な性格だったそうです。
彼の言葉の中で個人的に好きなのが以下。
The definition of success is to get to the point where you're truly okay with losing everything you have.
成功の定義とは、何かを持っている(保有している)ということではない、という真理を教えてくれています。
最後に、死因についてはアルコールやドラッグが一因との報道も出ています。
RIP トニー・シェイ