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AngelListがはじめたRolling Fundsは新しいベンチャーファンドの形

「ソフトウェア時代のベンチャーファンド」という説明に例えられるように、Rolling Fundsはこれまでのファンドとは異なり、様々な優位性と柔軟性を持っています。

とりあえず現時点で明らかになっている情報をもとに、自分自身の勉強も兼ねてRolling Fundsの特徴をまとめました。

従来のファンドの問題点

Rolling Fundsが解決しようとしている問題点としては、以下の点が挙げられています。

1️⃣ ファンドマネージャーはファンド形成のための資金調達を決まった期間(通常6〜18ヵ月)で集中的に行わなければならず、このプロセスは労力的にも大変なことはもちろん、ときにストレスフルで、かつ予定よりも長くかかってしまった場合は特に、有望な投資先を見過ごしてしまうリスクがある。

2️⃣ ファンドを作っている期間にそれを公にできない(米国の法律の場合)

3️⃣ 一度作ったファンドに対して追加資金を調達できない。(別のファンドを作る必要がある。)

特に最後の点については、マークアップが発生したタイミングなどで追加の資金を調達できないなど、なぜ今(まで)のベンチャーファンドは一度調達したらそれっきりのような仕組みになっているのか、小さく始めて継続的に資金を調達できないものかと考え、AngelListはRolling Fundsを設計したそうです。

Rolling Fundsが可能となった背景

従来のベンチャーファンドは、バックオフィスやAccountingなどすべての作業を人間が行うことを前提に(そんな時代に)できたシステムだ、とAngelList VentureのCEOであるAvlok Kohli氏は語っています。

そして通常はファンドの運営コストだけでも馬鹿にならないため、一定以上の規模のファンドを作れるだけのリソースやコネクションがある人だけに対象が限られていたものを、AngelListはこれまでSyndicatesや関連するソフトウェア開発なども含め、より多くの人に機会を提供できるような取り組みを行ってきました。

Rolling Fundsもその延長線で、AccountingやBankingといったファンド運営や投資に必要な要素がソフトウェアによって効率化・自動化されたことによって可能となった「ソフトウェア時代のベンチャーファンド」と説明されています。

実際Avlok Kohli氏は、Rolling Fundsは仕組み的には従来のベンチャーファンドよりも優れている、とまで言っています。

この言葉の意図のひとつには、Rolling Fundsの仕組みを使って従来のベンチャーファンドを作ることも可能、という点があります。

Rolling Fundsの仕組みとメリット

Rolling Fundsは、ファンドをスタートした後でも四半期ごとに継続的に資金を調達することができるフレキシブルな仕組みが特徴です。

投資する側のLP目線としては、四半期ごとにファンドに投資する(支払う)サブスクリプションモデルとも言えます。

四半期ごとのミニマム投資額はファンドごとに異なります。

ミニマムコミットメント(最低契約期間)は1四半期だけのファンドもあれば1年に設定されているファンドもあり、こちらもファンドによって異なります。

そしてファンドマネージャー(GP)は資金調達段階からそのファンドついて公表することができます(SEC Regulation 506(c)で規定)。

また、これらの他にもRolling Fundsは非常に透明性が高いというのもキーファクターです。

次にRolling Rundsの利点をGP、LP、スタートアップの3つの観点からまとめます。

GP目線での利点としては、

1️⃣ 6〜18ヵ月といった期間フルコミットすることなく、従来より遥かにクイックに、そして小規模にはじめることができる

2️⃣ 継続的に四半期ごとに追加資金を調達することができる

3️⃣ ファンドについてソーシャルメディアなどで告知やマーケティングをすることができる

4️⃣ 投資実績を既存LPに報告したり、外部に公表することで、それを元により資金を調達できる可能性がある(投資実績を追加調達に四半期ベースでつなげることができる)

5️⃣ AngelListの提供するAccountingやBankingなどのツールを使って、低コストで効率的にファンド運営ができる

LP目線での利点としては、

1️⃣ ファンドへのアクセスや投資スタートが容易

2️⃣ ミニマムコミットメントさえクリアしておればいつでも投資をやめることができる

3️⃣ ファンドの投資実績をみて、投資額を上げたり下げたり調節することができる

4️⃣ 最初に大きな額を一度に投資する必要がない(手元のキャッシュに従来ほど依存しない)

尚、各LPは投資を行った四半期(Subscribeしていた期間)にそのファンドが投資した案件にのみ配当の権利を得ます。なのでそのファンドが過去に行った投資に関して、後からそのファンドに出資して配当の権利を得ることはできません。(情報優位性の観点から当然のことですが。)

もしファンドが特定の四半期で受けた出資額をその四半期内にデプロイできなかった場合は、次の四半期にまわります。

なのでひとつのファンドですが、イメージとしては四半期ごとに異なるファンドが連続する、ある種の集合体的な感じかと思います。

投資を受けるスタートアップ(企業)目線のメリットとしては、

1️⃣ マーケットにより多くのお金が流れてくる(資金調達の可能性が広がる)

2️⃣ 投資判断や着金が従来に比べはやい場合も

3️⃣ 今まで投資側にまわっていなかった起業家や著名人などから出資を受けられる可能性がある

Rolling Fundsが調達先に検討されるステージとしては、プレシード、シード、シリーズA、そしてファンドの規模によっては今後シリーズBくらいまでくるかもしれません。

Fee

AngelListの取り分(手数料)はファンド額の0.15%/年のフラットフィー。

マネジメントフィーとキャリーはファンドによって異なりますが、一般的にはマネジメントフィーは2%/年、そしてキャリーは20%と従来のファンドと同程度。

もちろんこれらは自由にファンドマネージャー側が設定できるので、マネジメントフィーをゼロにしているところもあります。

また、キャリーについては、一律20%ではなく、例えばリターンが3倍以上の場合は25%、5倍以上の場合は30%など段階的に設定しているファンドもありました。

ここらへんもすべて透明性高く、AngelListのサイト上の各ファンド詳細に記載があります。

既に多くのRolling Fundsができている

2020年2月から8月までの半年ほどで既に70のRolling Fundsが誕生しているそうで、有名どころでは Gumroad の Sahil Lavingia、No Codeムーヴメントの中心的ポジションにある Makerpad の Ben Tossell が作った Makerpad Fund、Superhuman のCEOの Rahul Vohra がGPのファンドなどがあります。

Sahil Lavingia氏のファンドは、LPにAngelListのファウンダーの Naval RavikantやTim Ferris、WordPress開発元のAutomattic創業者のMatt Mullenwegなどが入っていて、なかなかの顔ぶれです。

今後さらに多くのファンドが出てくると予想されています。

そして今のところ、このRolling Fundsはテック界隈およびVC業界からもかなり好意的に受け止められているようです。

GP個人の影響力に左右される

Rolling Fundsはある程度の知名度があればファンドを比較的短期間で作れるため、ベンチャーキャピタリストのキャリアスタートとしても期待されているようです。

ただし、そもそもソーシャルメディアなどで知名度がないとなかなかLPが集まらないはずなので、誰でも始められるというようなものではないのも事実かと思います。

資金やコネや時間の問題で従来のベンチャーファンドはなかなか作れなかった人にもファンド形成の機会ができるのは確かではありますが、単に今までと異なる種類の人たちに機会ができたのであって、やはりなんらかのレピュテーションやブランドがなければ簡単に始めることはできません。

たぶんRolling Fundsに向いているのは、これまでできたファンドをみてもわかるように、ビジネスとして一定の成功をおさめたり、ビジネス以外でオーディエンスやファンを多く持っている個人でしょう。

そう考えるとソーシャルメディアなどの影響でパワーが個人(individual)にシフトしていると言われる昨今の流れがベンチャーファンドにもきた、ということかもしれません。というか、ソロキャピタリストの台頭をエスカレートさせるエンジン、とも言えるかもしれません。

また、Rolling Fundsの仕組み自体も昨今流行りのサブスクリプション型のSaaSライクであり、時代の流れというかトレンドを感じずにはいられません。

ただ、ファンドとして成功するには、従来のVCと同じく、有望なスタートアップへのアクセスと、ビジネス的な目利きが必要であるという点は変わらないはずです。

Sources