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デトロイトの再開発に莫大な投資をするビリオネア、ダン・ギルバート

中学の社会の授業で、五大湖や自動車産業といったワードと一緒に出てきてテストのために覚えた記憶のある米国デトロイト。人口減少と財政悪化により2013年に財政破綻に至った都市ですが、最近は米国で一番エネルギッシュな都市とも言われるほど、蘇ってきているようです。

その立役者としていつも名前が上がるのが、実業家でビリオネアの Dan Gilbert。彼はデトロイト生まれで、今やデトロイトダウンタウンの20 - 30%?を所有するとも言われているほど再開発に力を入れています。

彼は最近だと Stock X の共同創業者として名前が出ることが多いですが、住宅ローン会社の Quicken Loans の創業者として知られています。

執筆時点でのForbes のビリオネアランキングでは23位、資産総額はなんと$52B(およそ5.5兆円)。

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NBAのクリーブランド・キャバリアーズをはじめ、複数のスポーツチームのオーナーでもあります。

Quicken Loans を共同創業 -> 売却 -> 買い戻し -> IPO

1985年に Rock Financial を弟と創業、その後同社は米国屈指の住宅ローン会社となりますが、90年代後半にはインターネットを使った住宅ローンのDtoC企業となる方針を打ち出します。

その後2000年(ドットコムバブルが弾ける直前)に、会計ソフトなどファイナンスソフトウェアを開発提供する Intuit が$370Mで買収、Quicken Loans という社名に変更します(Intuit は Quicken.com というサイトを運営していました)。しかし2年後の2002年に、ダン・ギルバートと複数の投資家が Quicken Loans を Intuit から$64Mで買い戻します。その後も同社は成長し、2017年には米国最大の住宅ローン会社となります。

Rock Financial / Quicken Loans の成功の要因については少しインタビューで 語っていますが、初期の頃はそれまで住宅ローン会社がほとんどやってこなかった(紙媒体の)広告宣伝、コールセンターをつくって電話でのローン申し込み受付け、50州まで短期間に拡大したことなどが功を奏したようです。

もちろん、インターネットを早くから活用したこと、サブプライムローン問題に参加していなかったことも大いに影響しています。

そして昨年2020年、Quicken Loans は Rocket Companies という名前でNYSEに上場しました。

現在同社の時価総額は$44B(4.5兆円超)前後で推移しており、ダン・ギルバートは同社の発行株式の80%近く保有する大株主なので、これが彼の資産を押し上げています。

Stock X を共同創業

StockX は当初スニーカーのPtoPマーケットプレイスとしてリリースされたサービスですが、今ではスニーカー以外にもアパレルやアクセサリー、バッグ、時計など複数のカテゴリーに拡大しています。

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同社の直近のラウンド(2020年12月)のバリュエーションは$2.8B、いわゆる1000億円超のユニコーンです。

共同創業者の Josh Luber はスニーカーの分野でCamplessというスタートアップをやっており、それが前身となりダン・ギルバートが共同創業者として出資するかたちで StockX がスタートしました。

カルチャーを非常に大切にする - ISMs

ダン・ギルバートは For profit(営利企業)でも Not for profit(非営利企業)でもなく、More than profit というコンセプトを提唱するほど、お金や数字以上のモノを大切にする人物です。

そして、それを共感する人たちと働きたい、そのカルチャーを大切にしたいという思いから、ISMs(イズムズ)といういわば哲学のようなものを作っており、それをベースに100以上の会社、数千億の投資を行っています。現在 ISMs は以下の19の理念から成り立っています。

1. “Always raising our level of awareness.”

2. “The inches we need are everywhere around us.”

3. “Responding with a sense of urgency is the ante to play.”

4. “Every client. Every time. No exceptions. No excuses.”

5. “Obsessed with finding a better way.”

6. “Yes before no.”

7. “Ignore the noise.”

8. “It's not about WHO is right; it's about WHAT is right.”

9. “We are the 'they'.”

10. “Take the roast out of the oven.”

11. “You’ll see it when you believe it.”

12. “We’ll figure it out.”

13. “Every second counts.”

14. “Numbers and money follow; they do not lead.”

15. “A penny saved is a penny.”

16. “We eat our own dog food.”

17. “Simplicity is genius.”

18. “Innovation is rewarded. Execution is worshipped.”

19. “Do the right thing.”

デトロイトのダウンタウン都市再開発に投資

2010年に Quicken Loans の本社(+ 1,400名の従業員)をデトロイト郊外から市街地のダウンタウンに移します。当時のデトロイトは治安も悪く、環境としては良くなかったようですが、4世代にわたってデトロイトで育った彼は(ダウンタウンの賃料も比較的安かったこともあって)これを決断したと語っています。

その後彼は Bedrock Detroit という不動産開発・投資会社を立ち上げ、ダウンタウンを中心に$5.6Bを投資。昨今人口が増えていることもあり、所有している100ほどのビルの稼働率はほぼ100%。すごいです。

さらに彼がセキュリティ会社を自ら立ち上げ、プライベート警察的な治安改善を行ったことや、人口が増えたこともあり、犯罪率も低下。

2009年には28%強だった失業率も、2017年時点で7%台にまで回復

最近のニュースでは、自身の基金などを通じて、$500Mを向こう10年に渡って提供することを発表。そのうち$15Mは低所得者の未納固定資産税の精算に使われるそうです。ザ・慈善活動ですね。

デトロイトは古くから「モーター・シティ」と言われるように自動車産業の中心地なので、彼はビッグ3(GM、クライスラー、フォード)、Waymoなどを中心に、今後自動運転も含めたこれからの自動車産業に期待していると語っています。

また、今後10年以内でデトロイトの都市は高層ビル群のスカイライン含め、大きく変わると言っており、ここも注目です。

デトロイトにコミットする姿勢

人口も増えており、クリエイティブクラス(人材)も増え、いま上昇傾向の真っ只中と言えるデトロイト。

スタートアップやクリエイティブな飲食店、Shinolaをはじめとするものづくりブランドなど、エネルギッシュで想像力豊かなひとが集まり、その人たちがまた同じような面白い人を引き寄せるという、いいスパイラルが生まれているみたいで、第二のポートランドという勝手なイメージを持ちました。

一度は財政破綻というどん底までいったデトロイトを、見捨てることなく、逆に莫大な投資を行ってどんどん変えていっているダン・ギルバートは本当にかっこいい。地元愛というやつですね。

住宅ローンというどちらかというと地味で堅実なビジネスをひたすら20年続け、米国最大にまで拡大し、そして上場。StockX もイケイケなのに、それでいて気取らず、謙虚で、カルチャーを大切にする姿勢と人柄もとても魅力的です。

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