ロシア-ベラルーシでのWCA大会中止アナウンスを読み解くいくつかのヒント

2022年3月2日、ロシアとベラルーシでのWCA大会を今後認めないとう発表がありました。

私もこのアナウンスが初耳でした。これはWCA Board (理事会)が下した決断で、私のような WCA Delegate や SCJのような WCA Regional Organization が意思決定に関与する権限を持っていない事項です。

さっそくWCAフォーラムにもトピックが立ち、また昨日からWCAスタッフ限定のメーリングリストには世界各国から様々なコメントが寄せられています。私もまだすべてに目を通せておらず、事実確認をしている最中です。

私自身のこれらへの賛否や立場の表明は非常にセンシティブな事項であるためいったん差し控えます。みなさん様々な議論があって当然かと思います。
この記事は、日本のみなさんがより解像度を高く自身の考えを持つ助けになるよう、一般的な WCA の背景をいくつかお伝えするものです。

WCA のスタッフは基本的にボランティア

まず、WCA という国際競技団体ですらスタッフに十分な金銭的な報酬はなく、実質的に完全ボランティアと考えて良いです。SCJ もまた然り。みなさん生活のための稼ぎ口は別にあり、善意で差し出される余暇で賄われているのが現在のスピードキュービング文化です。

今回、WCA Board of Directors (WCA 理事) たちがボランティアの手にあまるような国際問題に対して日和見の態度を取るのではなく責任感と問題意識を持ち、彼らの余暇を使ってたったの数日で議論を重ね、発表にこぎつけたことそのものに私はまず敬意を表します。

弱小団体は「長いものに巻かれ」がち

今回の発表の末尾には、「WCA は IOC ( 国際オリンピック委員会) のrecommendationに沿うことを選択した」とあります。
前項のように WCA はボランティア組織ですから、独自の見解を持つためのリソース(予算、情報網、スタッフなど)がまったく不足しています。このために、本件に限らず、より大きな組織の示すガイドラインに従うのが現実的な落としどころになることは想像に難くありません。

いやいやWCAとしての見解や議論の過程をもっと詳しく説明してほしい、などの意見を持つ人もいるでしょう。WCA スタッフは常に人員を募集しているので、ぜひご自身で応募なさると良いと思います。「批判よりも提案を」というのが WCA の基本的なスタンスです。

WCAはアメリカに籍を置くNPOである

WCAがNPOとして登録しているアメリカは、いわゆる西側諸国、今回ウクライナ側に寄り添う国に属します。つまり、この一部として国際社会と足並みを揃える姿勢を見せなければ、WCA 自身がアメリカの法における制裁の対象になるリスクを孕んでいます。
このために、WCA は今回の件について沈黙を守るのではなく、対外的に毅然と立場を表明することで「私達も国際社会の一員だ」とアピールし、ロシアとベラルーシにとどまらない範囲に問題が拡大するのを回避しようとした可能性があります。
万が一 WCA が制裁の対象になった場合、ボランティア組織ではそれに耐えうる体力がありません。どうしてもリスク回避の優先順位は上がります。

WCA は基金からの印象を良くしたい

前項と似ていますが、WCA の財政逼迫はすでに繰り返し公表されている事実です。SCJ のWCA大会運用方針 第1章でも簡単に触れていますが、今後のスピードキュービングの持続的な発展のためにWCAが自身の財政基盤を確保することが急務で、また各国の Regional Organization にも同様の指針を示しています。

スポンサーとなってくれる団体や国際基金からの援助を得やすくためにも、WCA が国際社会の一員だと表明することは役に立つことでしょう。


取り急ぎ以上となります。追記するかもしれません。

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