WCA Delegate 退任予告を解説します

先週、鈴木さんと塚本さんのWCA Delegate退任予告を発表しました。
みなさん、この発表をどう受け取りましたか?また、お二人のメッセージは読んでいただけたでしょうか。

私達にとって、この退任予告は大きな決断でした。
「なるほど辞めるのか。おふたりともお疲れさまでした」のようにサラッと受け取られてしまってはその目的を十分に果たせないので、以下にこの発表に至るまでの詳細をお伝えします。

なぜ、今になって退任予告のカードを切ったのか

ここ半年でこの二人以外にもDelegateの退任が相次ぎ、この先WCA大会は大丈夫なのかと不安に感じている人もいることでしょう。ひょっとしたらSCJ内部の人間関係で何やら上手くいっていないんじゃないか…なんて邪推されても困るので率直にお伝えします。

まず、Delegateの中で「そろそろ辞めて次に譲りたいね」という話は数年前のJRCA時代から何度も挙がっており、今に始まったことではありません。

細かな理由は個人ごとに異なりますが、共通するのは
プライベートが忙しくなり、かつてほどキューブに打ち込めなくなったから
これに尽きます。

かつてキューブ界隈の中心にいた彼らの多くは30代中盤。
一般的にこの年齢は結婚、育児、仕事の責任など人生のステージにおいてもっとも気力、体力ともに充実した時期になります。
シンプルに、あらゆることが忙しいのです。

たまの休みにキューブを回すことはあれど、昔のように没頭できるわけでもなく、かつての友人たちも次第に違う方向を向いてそれぞれの人生を歩んでいく。年齢とともに自身のタイム成長も難しくなり、次第に関心が離れていく。
しかしWCAそのものは世界中に拡大を続け、未熟だった文化はより大きい規模に見合ったものへとアップデートされていき、ルールの厳格化や英語のコミュニケーションなどの責任を伴う要素はかつてより格段に増えました。

そうなると、「このまま続けるのはちょっと違うな」と感じるのは自然なことです。そこで1-2年前くらいまでは「良い後任が見つかれば、その人にDelegateを譲って辞めたいね」という認識がDelegateの間でありました。
とは言ってもこの時点ではまだ楽観論が強く、今すぐに辞める積極的な理由もなかったので、とりあえずDelegate有資格者は日本全体としてキープし続けておくことになりました。

そんなところに訪れたのがCOVID-19です。個々の人生観を塗り替えるような世界的ショックの中、安全確保のためにWCA大会が行えなくなりました。

しかし、ちょうどJRCA法人化議論が立ち上がったタイミングと重なっていたのは不幸中の幸いでした。大会ができないということは、これまで大会運営のために割いていたリソースを議論に集中できるということです。この時間を活用して法人化の議論を練り上げ、WCAにとどまらないスピードキュービングの普及と発展を掲げて一般社団法人スピードキュービングジャパンを立ち上げました。

法人化の詳細は過去に書いたこちらの記事を読んでください。


この法人化議論を通じて、Delegateたちは「スピードキュービングは何もWCAだけじゃない」という結論に至りました。文字にすると当たり前のことにも思えますが、WCAスピードキュービング文化の黎明期から人生の多くをその中で歩んできた人たちが自らを客観視できたという意味で、これは大きな気付きでした。

そしてこの新たな価値観の下で、「では自分はこれからどうスピードキュービングと向き合うのか」をそれぞれ考え始めました。これまでのWCA大会に求めていた根幹はそれぞれ違います。仲間との交流、自己記録の更新、世界とのつながり。今まで自分が楽しんできたキューブの本質はどこだったのか、またこれから自分は何を軸にしてキューブをしていくのか。

さらに先に書いたような自身の年齢的なこと、仕事や家族、プライベートの余裕などを総合的に考慮した結論が、鈴木さんと塚本さんにとってはDelegateの退任だったのです。
幸いにもお二人は別の形でスピードキュービングに関わり続ける意思を示していますので、新たなるスタートをみなさん応援してください。

Delegateの継続には特に試験などがあるわけではないので、後任が現れるまで保持しつづける選択肢もありました。
しかし、このまま待っていても時間が解決する問題ではなく、むしろ自分たちがDelegateの立場を持ち続けることで「彼らがこれからもなんとかしてくれるんだろう」と期待させ続けてしまい、新たな世代の参入を阻害してしまってはいけない。という結論です。

以上を踏まえて改めてお二人の退任あいさつを読んでみると、その理解がより深まるのではないでしょうか。

私がDelegateになった時と比べると、今はキューブ界の規模や文化など様々なことが大きく変わっています。過去の固定観念にとらわれず、新たな価値観・自由な発想で、これからのキューブ界を担っていく皆さんにバトンを受け取っていただければと思います。
これからは昔の感覚にとらわれない皆さんにキューブ界を引っ張っていただきたいと思います。

スピードキュービングの多様性を提示した上で、それでもなおWCA文化の継続を強く望む人は、ぜひその一端を担ってほしいというメッセージが込められています。

"次の世代"を作るのは誰か

現在日本にいるDelegateは、私大村のただ一人。
また、Trainee Delegateとして洲鎌さんが活動中です。そんな洲鎌さんがこの一年の活動を振り返った記事がこちらです。

私の印象に残ったのは冒頭のこの部分です。

「自分で大会を開催(監督)できるようになれば、自分にもプラスなことがあるはず」ぐらいの気持ちで、それほど深くは考えずにDelegateに応募しました。私にとって非常に自然な判断でした。

この言葉、私自身がDelegateや大会運営に関わったときの気持ちと重なりました。
決して義務感や責任感からではなく、自分が育ってきたコミュニティに対して何かできることないかと考えたとき、Delegateという選択肢を自然に選んだのが洲鎌さんの決断だったのです。

この記事を読んでくれたみなさんも、これから自分たちがどうスピードキュービングと関わっていくのかをぜひ考えてみてください。

文化は様々な立場の人達が関わって形成されていくものです。これからのスピードキュービングが、そしてWCA文化がどう進んでいくのかは、決してSCJ や WCA Delegate だけが決めることではありません。

どんな形であれ、志をもった人たちと一緒に活動していけることを楽しみにしています。少しでも関心があれば、いつでもご相談ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?