#077 書評 ベンチャーキャピタル全史

とても面白い本でした。以下、書評です。

本書でも指摘されていることだが、特に1990年代以降において顕著に見られる、シリコンバレーにおけるベンチャーキャピタルの成功を模倣しようとした他国の取り組みのほとんどは無残と言っていい失敗に終わっている。

評者は以前から、なぜ米国においてのみ、このビジネスモデルは十全に機能し、他の文化圏ではうまく機能しないのかという問題について色々と考えを巡らせていたが、本書を読んでその構造的要因について大きな洞察を得ることができた。

一言でいえば「投資にまつわる米国固有の精神性」が、ベンチャーキャピタルというビジネスモデルを機能させるために不可欠だった、ということだ。この洞察は「歴史」に目を向けることでしか得ることのできないものだろう。だからこそ「通史」が重要なのだ。

一般に、ベンチャーキャピタルと聞けば、それは近年において主に米国の西海岸において発展した「新しいビジネス」だという印象を持つ人が多いだろう。しかし、本書「ベンチャーキャピタル全史」では、今日のベンチャーキャピタルの歴史的始原を17世紀植民地時代の遠洋捕鯨としている。

シリコンバレーのハイテク産業と遠洋捕鯨とのあいだにいかなる接点も見出せないように思われるかもしれない。しかし本書の前半部を読めば、この二つの産業が持っている特徴、なかんずく損益分布のパターンが驚くほど被通っていることがよくわかる。

ベンチャーキャピタルから資金を受けた企業の大多数は失敗する。数少ない「ホームラン」が残りの「凡打」を補って余りある利益を生み出すのである。トップクラスのベンチャーキャピタルではグロスリターンの52%は6%の投資先から生み出されている。そして、今日のベンチャーキャピタルでネットIRRが100%を超えるのは全体の2〜3%程度でしかない。

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