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マルタの鷹  ダシール・ハメット

ハードボイルド御三家といえば、D・ハメット、R・チャンドラー、R・マクドナルドだが、ハメットの「マルタの鷹」が傑出している。

村上春樹のようにチャンドラーに肩入れする向きもあるので、後段では比較のため「ロング・グッドバイ」にもかるく触れてみよう。

「マルタの鷹」あらすじ(最後のネタバレなし)

サンフランシスコの探偵サム・スペードは、秘書エフィいうところのノックアウト(超美人)から依頼を受けるが、その夜かれに代わって尾行中の相棒マイルスは射殺され、さらに別の射殺体も見つかった。

サムは依頼人をホテルに尋ね、自分の名はブリジッドで、ボディガードのサーズビーがマイルスを撃ち殺し、本人も殺されたのだとの説明を受ける。

カイロと名乗るおかま男が事務所に訪ねてきて、黒い鳥の発見を依頼し、さらにピストルで脅して室内を探すが、あっけなくサムに殴り倒される。

翌日、サムがカイロの行動を探っていた際、若い尾行者の存在に気づいた。

サムはふたたびブリジッドのもとを訪れ、居宅に連れてきた。時間つぶしに奇妙な話を彼女に聴かせるうち、サムは電話してきたカイロに来訪を促す。

ブリジッドとカイロでひともめあったが、サムは、彼らがガットマンという男から奪って地中海から運んできた黒い鳥を追っていることを知った。

その夜ブリジッドとベッドを共にしたサムは、熟睡する女を残してそのホテルの部屋を探ったが、何も発見できない。

身の安全のためブリジッドをエフィの家にタクシーで送り出してサムが事務所に戻ると、ガットマンから滞在中のホテルに来るよう電話があった。部屋には例の尾行者ウィルマーもいて、カイロも合流し、ガットマンは黒い鳥と交換に1万ドルの提供を持ち掛けてきた。

エフィはサムに、ブリジッドが家にやって来なかったことを告げた。タクシーの運転手の話では、女は埠頭に向かって、そこで降りたという。

ふたたび訪れたサムに、ガットマンが黒い鳥の来歴はヨハネ騎士団(十字軍)の財宝である宝石をちりばめた鷹の彫像であると語った。サムはウイスキーに混ぜられた薬で自由を奪われて暴行を受け、気が付くと部屋は空だ。

サムはカイロの宿泊する部屋を探って、新聞の切れ端から、一行はどうやら埠頭に向かったことを知った。

ブリジッドがネコババした黒い鳥は香港から船で運ばれ、ウィルマーに撃たれて瀕死の船長がサムの事務所に届けてきた。サムは黒い鳥を郵便局の私書箱に預け、預かり証をエフィ宅に郵送する。

サムが自宅に戻ると外にブリジッドが待ち受けており、さらに室内にはガットマンたちも待ち伏せていた。

エフィがサム宅に届けた黒い鳥を、ついにガットマンが手に入れた・・・

(ネタバレのため、この後は省略)

感想

ハメットの「血の収穫」などはさらにハードボイルドなのだが、索漠としすぎて、人物造形も大雑把だ。(作為かもしれないが)

その点「マルタの鷹」はなによりもストーリーが面白いし、魅力的な人物がおおぜい登場する。とくに女性では、魅力的な悪女ブリジッドとキュートなエフィ(なんという柔らかなひびき!)が際立つ。

無駄のない描写で、きびきび動く人々と町の様子がくっきり浮かびあがる。

ネタバレするので書かなかったが、この作品のラストシーンにあるサムとブリジッドの心理描写は見事というしかない、

サムのようにシャープな男は、探偵はかくあるべしという模範なのだろうだが、仕事いがいではつきあいたくない人物だ。

その反対に、チャンドラー描くフィリップ・マーローは誰からも好かれるだろう。ギムレットが何とかいう風のしゃれたセリフも印象的だし。

サムもいっさい無駄なことをしゃべらない無骨者というわけではない。カイロからの電話を待つ間、ストーリーには関係のないピンカートン探偵社時代の奇妙なエピソードをブリジッドに話して聞かせる。これが独立したストーリーとして、はなはだ興味深いのだ。

村上春樹は、「ロング・グッドバイ」の中に書かれた、飛び込み台からプールに飛び込む金髪女性の長々した描写が好きだというのだが、わたしには退屈でしかない。

むろん大作家には感ずるものがあるのだろうが、小説の中にはいっけん無駄と思われて、ふと読者のこころをくすぐるものがあったりするのかもしれない。




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