利尻のラーメン屋にて思ったこと

今年の8月に初めて北海道の利尻島に行って来ました。稚内のちょっと西側にあるあの島です。

島を一周すると約60キロほどで、バイクでゆっくり走って1時間ちょっとで回りきれるようなサイズの島です。

なものだから、観光資源と言えるようなモノはあまりなくて、姫沼に行って、利尻富士を見て、ウニを食べたらハイお終いという人が多くて、たいていは1泊しかしません。

今回はここに2泊したのですが、もうお腹一杯で良いですわという感じになるんですね。


ところが、そんな小さな島に、もう一つの観光資源があったんですよ。ここに来るためだけに、北海道はおろか本州からも人がワンサカやって来る、そんな観光資源が。なんだか分かります?

それが一軒のラーメン屋なんです。

味楽(みらく)というラーメン屋でして、ミシュランのビブグルマンに選ばれたラーメン屋なのです。

味楽
https://tabelog.com/hokkaido/A0109/A010906/1007519/


今回は帰る直前にこのお店に行ったのですが、観光地の在り方としてなかなか考えるところが多いお店でした。

このお店、いつもは11:30に開店するのですが、夏のピーク(お盆の頃ね)は30分早めて11:00に開店します。こんなことは食べログの口コミ欄を丁寧に読まなきゃ分からないはずなのに、10:45にお店に着いたら既に30人ほどがお店の駐車場に屯していました。

これが渋谷や池袋なら珍しくもなんともないんですが、人口たったの5000人の利尻ですから。ちなみに、島をバイクで1周している間に見かけた人間の総数よりも、このお店の駐車場で開店待ちをしている人の方が多かったですから。

パッと見、島中の人がここに集まって来たの?と言いたくなるような、人の群れでした。

で、そのお客のほとんどが島外からの観光客なんですね。

たかだかラーメン屋でラーメンを食べるために、飛行機かフェリーを使って島に来るわけですよ。夏はフェリーが日に4便ほどありますが、飛行機なら日帰りは不可能です。

日本人は豊かですよね。ラーメンを食べるために飛行機やフェリーに乗って、こんな島まで来るんですから。

30人並んでましたが、ここまで来て食べないという選択肢は無いので、名前を書いて待ちましたよ。その後にも続々とお客が来る来る。結局開店から1時間ほどして、ようやく入店することが出来ました。

ここのラーメンは利尻昆布の出汁が特徴らしいんですが、昆布出汁のラーメンって言われても味が想像出来ませんよね。お味噌汁に昆布は使うけど、それをラーメンのスープにしたらどうなるのか?と考えても分からないところが秀逸なんですよ。

考えても分からなきゃ食べてみるしかないでしょ。おまけにそれがあのミシュランで評価されているとなったら、食べる前から期待値は上がりますよね。

利尻昆布って食材として珍しいわけじゃないのに、昆布出汁をウリにしたラーメン屋ってここだけなんですよね。島内でも、空港のお土産屋に袋入りのインスタントラーメンがあったくらいで、お店で食べられるのは虎ノ門の「くろおび」くらいしか見つかりませんでした。


くろおび
https://tabelog.com/tokyo/A1308/A130802/13212916/


つまり、ほとんどの人は、利尻昆布出汁のラーメンの味を知らないわけです。ここがポイントなんですよ。これがトンコツ醤油って言われると、誰でも舌の記憶があるわけで、その味と比較しながら評価するんですね。そのデータベースがなければ、これは口コミとミシュランブランドに引っ張られるに決まってます。

というか、東京からだと8時間掛かるんですが、8時間掛けてこのラーメンを食べて、「なんだよ、ビブグルマンって言っても全然美味しくないじゃんか!」って言える人って少ないと思うんですよ。羽田やセントレア、伊丹から札幌に行き、そこで乗り換えて利尻に着いた。なんとそこからラーメン屋までタクシーだと3500円くらい掛かるわけです。

そこまでしてお店に来て、そこで1時間並んでようやく口にした、未知の味のラーメンって、それだけで美味しく感じるはずですし、美味しいと思わなきゃやってられないよって気分になりますよね。そこにミシュランのビブグルマンですから。

この組み合わせはズルい、卑怯、もう逃げられません。食べログのこのお店の口コミを読むと、その気持ちが良く表れた評価がいくつも見つかります。

ま、実際のところ、お味はどうなんだ?って知りたいでしょ。ラーメンはこんな感じ。

味についてはコメント不可能です。というか、昆布出汁のラーメンの味を詳しく解説出来るほど、ボキャブラリーがありません。みなさんもそれは、行って食べてみれば分かるから。是非自分で飛行機に乗って行ってみてください。


このラーメンを食べながら感じたのは、これからの町おこしってこれだなということです。これって何かというと、


  ▼ その町や地域の特産品を使って

  ▼ でもこの組み合わせは他では食べられないという料理

  ▼ その上で印象に残る味

  ▼ ここに外部他者評価によるブランド化


の4つが揃うと、これはSNSでいう「バズる」名物になるわけですよ。そうしたら都会から人がやってくるわけです。

利尻の味楽というラーメン屋の功績は、このお店だけが儲かるということではなくて、この島に観光客を呼び寄せる切っ掛けになったというところなんです。私たちが食べ終わって店を出た時にも、行列は途切れていませんでしたから、合計で100人以上は来ていたはずです。それだけの人が島に来て、タクシーやらレンタカーを使って来店するわけです。ラーメンを食べたら、観光をして宿に泊まって、酒を飲んでって感じでおカネを落とすわけです。

もし利尻に味楽というラーメン屋がなければ、観光客の数はかなり減るんじゃないですか。もちろん利尻に観光に来たついでに、このラーメン屋に行ってみようという人もいるでしょうが、開店前のあの行列を見ると、この店に来るために利尻に来たという人がたくさんいるのだなと強く感じました。


そういうお店を、地域ぐるみ、町ぐるみで企画するのって、これからは流行ると思いますよ。福島県の喜多方市みたいに、町全体でラーメンを名物にするって、コンセンサスを得るのが難しいと思うんですよ。でも、たったの一軒だけでやるのなら、かなり自由に出来ますし、難易度は低いんじゃないかと思うんですよ。

そんなことを、予想外のお味のラーメンを食べながら考えていました。


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